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悪魔と契約した僕の話
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教団の本部にやってきて一番驚いた事なのだが、僕と手をつないでいたみさきがどこかへ行ってしまったという事だ。今みたいな何もない状況でみさきから手を離してきた事なんかなかったし、僕が手を離したという事ももちろんないのだ。
それなのに、僕の隣から忽然とみさきは消えてしまったのだ。考えられることはただ一つ、何者かの手によって二人は分断されてしまったのだろう。僕もみさきもこんなことは頼んでいないし、望んでもいないのだけれど、こうなってしまったのは仕方がないので頑張ってみさきを探すことにしよう。
と言ってみても、何もない直線だけの廊下が続いているだけで、僕が調べるような場所はどこにもなかったのだ。途中で何度か振り返ってみたのだけれど、振り返るとそこは何もない壁になっていたのだった。僕はずっと壁を背にして歩いていたのか、壁がずっと後ろをついてきたのかは判断できないが、この壁の向こうにはみさきはいないような気がしていた。ただ、何となくではあるのだけれど。
どれくらい歩いていたのかはハッキリしないのだが、教団の本部にはふさわしくないようなみすぼらしい扉の前に立っていた。何となく振り返った先にはまた壁が迫ってきていた。少しずつ壁が近付いているように思えたので、目の前にある扉を開けて中に入ってみたのだけれど、部屋の中は自分の指さえも見えないくらいの闇に包まれていた。扉を閉めた記憶は無いのだけれど、部屋に一歩踏み入れた時には何も見えない暗闇に包まれていたのだ。
「姿を見せないのは失礼だとは思うのだけれど、ちょっとした理由があってこの状況で挨拶をさせてもらう非礼をお詫びするよ。本来であれば、僕は君ではなく君の彼女に用事があったのだけれど、邪魔が入ってしまったみたいでね。申し訳ないけれど、彼女の代わりに君に僕の願いを聞いてもらおうかなと思っているんだ。急に現れて何を言っているんだろうって思っているかもしれないけれど、とりあえずは僕の話を聞いてもらえるとありがたいね。まずは、教団の建物って聞いてイメージするものは何だろう?」
「教会とかっていった事ないですけど、天使の像とか宗教画とかですかね?」
「そうだね。一般的にはそういうものを連想するんだと思うよ。でも、君たちがいた協会はどうだったかな?」
「あそこは、普通の居住スペースがあって、地下には拷問室があるだけでしたね」
「君のイメージするものが無くても教会だと認識していたのは、シスターの彼が教会だと言い張ったからだと思うんだけど、それ以外にも理由があって。あの建物の地下にある拷問室は、実は彼らにとって重要な宗教儀式を行う場所なんだよ。だから、それを知っている人達は教会だって認識してしまうんだよね。で、そこでだ。ここは宗教的な儀式をするわけでもなく、宗教的な装飾も施されていない。それなら、ここは何のための空間だと思うかな?」
「さあ、さっぱりわからないですけど」
「ここはね、君たちが入ってきた教団に僕が勝手に間借りしている空間なんだ。勝手に入っているだけなもんで、君が感じたように壁がどんどん迫ってきているんだ。あの壁に触れたらもう二度とここに入ってこれなくなるから気を付けてね。君の彼女だったらそんなのも物ともしないんだろうけれど、君の場合はそうでもないみたいだからね」
「場所の説明はどうでもいいんですけど、ここに僕を誘ってきた理由って何なんですか?」
「そうだね。1つ質問なんだが、君は魔法ってやつを使ってみたいとは思わないかな?」
「使えるなら使ってみたいですけど、魔法を使うには契約が必要だって聞いたんですけど」
「そうなんだよ。その契約を僕と結ばないかな?」
「魔法を使えるようになる契約ってのは魅力的ですけど、顔も見えないような相手と契約をするのってハードル高くないですか。それとも、この世界じゃ契約する相手に姿を見せないのが一般的なんですか?」
「そんなことは無いさ。僕だって君が相手じゃなきゃ直接会って交渉していると思うよ。ただね、君の場合はそうではないんだよ。僕と君とじゃ公平な契約を結ぶことが出来ないかもしれないのだよ。僕はそれでもいいんじゃないかと思ってきているんだけど、そう言うのは他の仲間からも軽蔑されかねないからね」
「ちなみになんですけど、契約したらどんな魔法を使えるようになるんですか?」
「そうだね。色々と使えるようになるとは思うんだけど、君が使いこなせそうなのは移動系の魔法かな。君自身を移動させたり、君の恋人を移動させたり、何か物をどこかに送ったりできるようになると思うよ。どうだい、便利じゃないかな」
「便利だと思うんですけど、契約ってくらいだから僕にも何かを望んでいるんですよね?」
「そうなんだよ。本来なら、君が死んだ後に君の魂をいただきたいと思っていたんだけどね、君の魂は死んだ後も自由にはならないみたいだからね。君の彼女ってもしかしたら、僕たちよりもずっと強力な契約を君と結んでいるのかもしれないな。でも、一方的に君を縛り付けているようにも思えるんだけど、不思議とそれを聞いても君は不快感を表したりしないんだね。で、僕と契約するかな?」
「契約って、僕は何を差し出せばいいのかな?」
「それなんだけどさ、君の魂を貰えないのなら、せめて僕を抱きしめてくれないかな?」
「抱きしめるって、どういうこと?」
「そのまんまの意味で、君が普段彼女を抱きしめているように優しく抱きしめて欲しいんだ。僕が望むのはそれだけなんだけどね」
「そんなことで良いの?」
「そんな事がいいんだよ」
「それは構わないけど、君がどこにいるのかもわからないから抱きしめようが無いんだけど」
「そうか。それもそうだよね。でも、姿を確認出来るようにしちゃうとよくないと思うんだよね。だから、僕が君の気配を探って近くに行くから、優しく抱きしめてね」
完全な暗闇の中ではあったけれど、誰かが僕に近付いてきているのを肌で感じていた。少しだけひんやりとした空気が僕に向かって流れてきていたのだけれど、僕の前に声の主が立ち止まると少しだけ厚い吐息を首に感じていた。
誰かが僕に抱き着いてきたので抱きしめてみたのだけれど、ソレはみさきよりも少し小さいくらいでいつもよりも腕の角度が急になっているように思えた。
「君に触れていると不思議な気分になってしまうね。君の事は前々から調べて能力も把握していたんだけど、姿が見えない暗闇の中でもその効果が発揮されるとは思わなかったよ。でもさ、そんな事はどうでもいいんだ。君が彼女の事を大事に思っていることもどうでもいいんだ。今は僕を抱きしめていてくれるって事実が大事なんだ」
「もしかしてだけどさ、君って女性なのかな?」
「どうなんだろう。僕たち悪魔にも性別ってのはあるんだけど、君達みたいに厳密な定義は無いはずなんだよね。僕は自分で男だって自身もないし、女だって言い張る根拠もなかったんだよ。でもさ、君に抱きしめてもらえると、僕は女の子なんじゃないかなって思えてくるんだよね。それくらい、君の魅力に魅了されているのかもしれないよ。だからさ、さっきの魔法の契約はちょっと変えさせてもらうよ。僕の知っている魔法を僕の権限で好きなだけ使わせてあげるよ。その代わりさ、時々で良いんで僕を抱きしめてもらってもいいかな?」
「抱きしめるのは構わないけど、みさきと一緒にいる時は難しいと思うよ」
「うん、それは知っているよ。僕も君の彼女と対峙して無事でいられる自身も無いしね。それにさ、君たちの邪魔をするつもりはないんだよ。信じてもらえるかわからないけれど、僕は君達には本当に幸せになってもらいたいと思っているんだよ」
「そう言いながらも、離れようとはしないよね」
「うん。次にこうして抱きしめてもらえるのがいつか分からないからね。でもさ、僕はいつでも君たちの味方でいるからね」
僕たちはゆっくりと離れたのだけれど、姿は見えないのに何となく名残惜しそうにしているように感じていた。きっと、彼女はある程度強い悪魔なのだろうけれど、そんな悪魔に対しても僕の能力は効果があるのだと知ることが出来たいい機会だった。
どうやって魔法を使うのかはまだわからないので慣れが必要になると思うけれど、他にも女性の悪魔や天使がいたらこの悪魔のように契約を結んでもらう事にしよう。
男の悪魔や天使の場合は、みさきに頼んで消してもらえばいいのかな。でも、こんなことをしていたら女性の悪魔たちもみさきに消されてしまうかもしれないな。
「ねえ、最後に、もう一度だけ抱きしめてもらってもいいかな?」
僕は声の聞こえた方へと進み、そこにいる気配を感じてそっと抱きしめてみた。悪魔とは思えないようなうぶな反応が返ってきたのだけれど、僕の頭の中にはみさきがどこにいるのだろうかという考えしか浮かんでいなかったのだ。申し訳ないとは思っていたけれど、こればっかりは仕方ないと思う。
「僕に集中してなんて言えないけど、次に会った時はちゃんと抱きしめてね。僕のお願いはそれだけだからさ。それと、君の彼女のいる場所は君なら簡単に感じられると思うよ。そこに移動したいって思えば移動できるよ。名残惜しいけど、彼女のもとに行ってあげてね。僕に出来ることはもうないからさ。それと、僕たちみたいに神には騙されないように気を付けてね」
「ありがとう。気を付けるよ」
「うん。君達なら僕らの代わりに神を倒せると思うんだ。気が向いたら神を倒してね」
「理由はまだないけど、その理由が出来たら考えるよ。あと、みさきのいない時間帯に会いに来てもいいからね」
「バカ、そんなこと言ったら本気にしちゃうよ」
僕は悪魔が本気で照れているように思えたけれど、それを確かめることはしなかった。悪魔の言うとおりにみさきを探してみると、それほど遠くない位置にみさきの気配を感じることが出来たのだ。その場所に行きたいと集中していると、僕はみさきの真後ろに立っていたのだった。
移動した実感は全くなかったけれど、僕は生まれて初めて魔法を使うことが出来たのだった。
みさきの目の前にいる知らない人が誰なのかはわからないけれど、僕にとって味方ではないような気だけはしていた。
それなのに、僕の隣から忽然とみさきは消えてしまったのだ。考えられることはただ一つ、何者かの手によって二人は分断されてしまったのだろう。僕もみさきもこんなことは頼んでいないし、望んでもいないのだけれど、こうなってしまったのは仕方がないので頑張ってみさきを探すことにしよう。
と言ってみても、何もない直線だけの廊下が続いているだけで、僕が調べるような場所はどこにもなかったのだ。途中で何度か振り返ってみたのだけれど、振り返るとそこは何もない壁になっていたのだった。僕はずっと壁を背にして歩いていたのか、壁がずっと後ろをついてきたのかは判断できないが、この壁の向こうにはみさきはいないような気がしていた。ただ、何となくではあるのだけれど。
どれくらい歩いていたのかはハッキリしないのだが、教団の本部にはふさわしくないようなみすぼらしい扉の前に立っていた。何となく振り返った先にはまた壁が迫ってきていた。少しずつ壁が近付いているように思えたので、目の前にある扉を開けて中に入ってみたのだけれど、部屋の中は自分の指さえも見えないくらいの闇に包まれていた。扉を閉めた記憶は無いのだけれど、部屋に一歩踏み入れた時には何も見えない暗闇に包まれていたのだ。
「姿を見せないのは失礼だとは思うのだけれど、ちょっとした理由があってこの状況で挨拶をさせてもらう非礼をお詫びするよ。本来であれば、僕は君ではなく君の彼女に用事があったのだけれど、邪魔が入ってしまったみたいでね。申し訳ないけれど、彼女の代わりに君に僕の願いを聞いてもらおうかなと思っているんだ。急に現れて何を言っているんだろうって思っているかもしれないけれど、とりあえずは僕の話を聞いてもらえるとありがたいね。まずは、教団の建物って聞いてイメージするものは何だろう?」
「教会とかっていった事ないですけど、天使の像とか宗教画とかですかね?」
「そうだね。一般的にはそういうものを連想するんだと思うよ。でも、君たちがいた協会はどうだったかな?」
「あそこは、普通の居住スペースがあって、地下には拷問室があるだけでしたね」
「君のイメージするものが無くても教会だと認識していたのは、シスターの彼が教会だと言い張ったからだと思うんだけど、それ以外にも理由があって。あの建物の地下にある拷問室は、実は彼らにとって重要な宗教儀式を行う場所なんだよ。だから、それを知っている人達は教会だって認識してしまうんだよね。で、そこでだ。ここは宗教的な儀式をするわけでもなく、宗教的な装飾も施されていない。それなら、ここは何のための空間だと思うかな?」
「さあ、さっぱりわからないですけど」
「ここはね、君たちが入ってきた教団に僕が勝手に間借りしている空間なんだ。勝手に入っているだけなもんで、君が感じたように壁がどんどん迫ってきているんだ。あの壁に触れたらもう二度とここに入ってこれなくなるから気を付けてね。君の彼女だったらそんなのも物ともしないんだろうけれど、君の場合はそうでもないみたいだからね」
「場所の説明はどうでもいいんですけど、ここに僕を誘ってきた理由って何なんですか?」
「そうだね。1つ質問なんだが、君は魔法ってやつを使ってみたいとは思わないかな?」
「使えるなら使ってみたいですけど、魔法を使うには契約が必要だって聞いたんですけど」
「そうなんだよ。その契約を僕と結ばないかな?」
「魔法を使えるようになる契約ってのは魅力的ですけど、顔も見えないような相手と契約をするのってハードル高くないですか。それとも、この世界じゃ契約する相手に姿を見せないのが一般的なんですか?」
「そんなことは無いさ。僕だって君が相手じゃなきゃ直接会って交渉していると思うよ。ただね、君の場合はそうではないんだよ。僕と君とじゃ公平な契約を結ぶことが出来ないかもしれないのだよ。僕はそれでもいいんじゃないかと思ってきているんだけど、そう言うのは他の仲間からも軽蔑されかねないからね」
「ちなみになんですけど、契約したらどんな魔法を使えるようになるんですか?」
「そうだね。色々と使えるようになるとは思うんだけど、君が使いこなせそうなのは移動系の魔法かな。君自身を移動させたり、君の恋人を移動させたり、何か物をどこかに送ったりできるようになると思うよ。どうだい、便利じゃないかな」
「便利だと思うんですけど、契約ってくらいだから僕にも何かを望んでいるんですよね?」
「そうなんだよ。本来なら、君が死んだ後に君の魂をいただきたいと思っていたんだけどね、君の魂は死んだ後も自由にはならないみたいだからね。君の彼女ってもしかしたら、僕たちよりもずっと強力な契約を君と結んでいるのかもしれないな。でも、一方的に君を縛り付けているようにも思えるんだけど、不思議とそれを聞いても君は不快感を表したりしないんだね。で、僕と契約するかな?」
「契約って、僕は何を差し出せばいいのかな?」
「それなんだけどさ、君の魂を貰えないのなら、せめて僕を抱きしめてくれないかな?」
「抱きしめるって、どういうこと?」
「そのまんまの意味で、君が普段彼女を抱きしめているように優しく抱きしめて欲しいんだ。僕が望むのはそれだけなんだけどね」
「そんなことで良いの?」
「そんな事がいいんだよ」
「それは構わないけど、君がどこにいるのかもわからないから抱きしめようが無いんだけど」
「そうか。それもそうだよね。でも、姿を確認出来るようにしちゃうとよくないと思うんだよね。だから、僕が君の気配を探って近くに行くから、優しく抱きしめてね」
完全な暗闇の中ではあったけれど、誰かが僕に近付いてきているのを肌で感じていた。少しだけひんやりとした空気が僕に向かって流れてきていたのだけれど、僕の前に声の主が立ち止まると少しだけ厚い吐息を首に感じていた。
誰かが僕に抱き着いてきたので抱きしめてみたのだけれど、ソレはみさきよりも少し小さいくらいでいつもよりも腕の角度が急になっているように思えた。
「君に触れていると不思議な気分になってしまうね。君の事は前々から調べて能力も把握していたんだけど、姿が見えない暗闇の中でもその効果が発揮されるとは思わなかったよ。でもさ、そんな事はどうでもいいんだ。君が彼女の事を大事に思っていることもどうでもいいんだ。今は僕を抱きしめていてくれるって事実が大事なんだ」
「もしかしてだけどさ、君って女性なのかな?」
「どうなんだろう。僕たち悪魔にも性別ってのはあるんだけど、君達みたいに厳密な定義は無いはずなんだよね。僕は自分で男だって自身もないし、女だって言い張る根拠もなかったんだよ。でもさ、君に抱きしめてもらえると、僕は女の子なんじゃないかなって思えてくるんだよね。それくらい、君の魅力に魅了されているのかもしれないよ。だからさ、さっきの魔法の契約はちょっと変えさせてもらうよ。僕の知っている魔法を僕の権限で好きなだけ使わせてあげるよ。その代わりさ、時々で良いんで僕を抱きしめてもらってもいいかな?」
「抱きしめるのは構わないけど、みさきと一緒にいる時は難しいと思うよ」
「うん、それは知っているよ。僕も君の彼女と対峙して無事でいられる自身も無いしね。それにさ、君たちの邪魔をするつもりはないんだよ。信じてもらえるかわからないけれど、僕は君達には本当に幸せになってもらいたいと思っているんだよ」
「そう言いながらも、離れようとはしないよね」
「うん。次にこうして抱きしめてもらえるのがいつか分からないからね。でもさ、僕はいつでも君たちの味方でいるからね」
僕たちはゆっくりと離れたのだけれど、姿は見えないのに何となく名残惜しそうにしているように感じていた。きっと、彼女はある程度強い悪魔なのだろうけれど、そんな悪魔に対しても僕の能力は効果があるのだと知ることが出来たいい機会だった。
どうやって魔法を使うのかはまだわからないので慣れが必要になると思うけれど、他にも女性の悪魔や天使がいたらこの悪魔のように契約を結んでもらう事にしよう。
男の悪魔や天使の場合は、みさきに頼んで消してもらえばいいのかな。でも、こんなことをしていたら女性の悪魔たちもみさきに消されてしまうかもしれないな。
「ねえ、最後に、もう一度だけ抱きしめてもらってもいいかな?」
僕は声の聞こえた方へと進み、そこにいる気配を感じてそっと抱きしめてみた。悪魔とは思えないようなうぶな反応が返ってきたのだけれど、僕の頭の中にはみさきがどこにいるのだろうかという考えしか浮かんでいなかったのだ。申し訳ないとは思っていたけれど、こればっかりは仕方ないと思う。
「僕に集中してなんて言えないけど、次に会った時はちゃんと抱きしめてね。僕のお願いはそれだけだからさ。それと、君の彼女のいる場所は君なら簡単に感じられると思うよ。そこに移動したいって思えば移動できるよ。名残惜しいけど、彼女のもとに行ってあげてね。僕に出来ることはもうないからさ。それと、僕たちみたいに神には騙されないように気を付けてね」
「ありがとう。気を付けるよ」
「うん。君達なら僕らの代わりに神を倒せると思うんだ。気が向いたら神を倒してね」
「理由はまだないけど、その理由が出来たら考えるよ。あと、みさきのいない時間帯に会いに来てもいいからね」
「バカ、そんなこと言ったら本気にしちゃうよ」
僕は悪魔が本気で照れているように思えたけれど、それを確かめることはしなかった。悪魔の言うとおりにみさきを探してみると、それほど遠くない位置にみさきの気配を感じることが出来たのだ。その場所に行きたいと集中していると、僕はみさきの真後ろに立っていたのだった。
移動した実感は全くなかったけれど、僕は生まれて初めて魔法を使うことが出来たのだった。
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