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神に恐れられた私の話

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 まー君と手をつないでいたはずなのに、私の隣からまー君の姿が消えていた。また知らない間に死んでしまったのかと思っていたけれど、まー君は死んだのではないという確信があった。私はまー君が生き返る時に魂の一部を交換していたため、まー君の命が失われたとしたら気付くことが出来るようになっていたのだ。そして、今はその状態には無いっていないようだった。
 死んではいないという事でひとまずは安心なのだが、隣にまー君がいないという事はとても不安になってしまう。私は隣にまー君がいないと落ち着かなくなってしまっていた。もしも、まー君にちょっかいをかけている女がいたとしたら、私はそいつを許すことは出来ないと思う。そんな事があったとしても、まー君がその気になることは無いよね。そう信じているよ。

 このまま黙って立ち尽くしていても仕方ないと思ったので、手当たり次第に扉を開けて部屋の様子を探っていたのだけれど、どの部屋も生活感のない殺風景なものだった。廊下の端から端まで結構な距離はあったのだけれど、私はその一つ一つを確認して、中にまー君が隠れていないことだけは理解出来た。

「そんなところを探しても何も見つからないですよ。よかったら、こちらに来て少しお話をしませんか?」

 私はいきなり声をかけれらると驚いてしまうのだけれど、ふいに話しかけられたのに私は少しだけ安らぎを感じていた。
 振り返ってみると、いかにも司祭と言った風貌の男性がこちらを向いて立っていた。その人の両隣にいる男性二人は私の行動を警戒しているようなのだけれど、私はそんなに誰でも襲うわけではないのでそこまで警戒しなくてもいいのではないかと思ってしまった。警戒されるには理由はあるんだけどね。

「私が話しかけた理由はわかりますかな?」
「いや、わからないけど。何か用ですか?」
「何か用とは驚きました。ここは我々の管理する施設なのですが、まるであなたの支配するもののような言い草ですね。ですが、我々はあなたに抵抗しても勝ち目がない事は知っています。あなたが我々の同志に何を何をしたのかはみな知っています。この者たちが警戒する理由もあなたは知っているはずだ。そんなあなたの罪を、我々の神は許すとおっしゃいました。私どもはその言葉を理解することは出来ませんでしたが、我々の神がおっしゃることは全て正しい事ですので、我々もあなたの罪を全て許すことにします。それに、罰ならもう受けていらっしゃるようですからね」
「罰なんて受けてないけど、何を言っているの?」
「我々は存じ上げなかったのですが、我々の神はあなたの行動を拝見なさっていたそうです。あなたが大切なパートナーのために同じ時を何度も何度も繰り返し、気付けは数百年近くも同じ時を生きていたそうじゃないですか。その間にいったいどれくらいの同志を亡き者にしたのかははかり知れませんが、それらはすべて愛する者のために行ったと聞いております。すなわち、それは愛ゆえに起こした悲劇ということですね。愛するものを必ず助けるというのは、我々の教義の中でも最も重要なモノでありそれは絶対的なモノであります。邪教の民と暮らしていたという事実はあるようですが、愛するものを本気で救いたいという気持ちは嘘偽りないものだと我々の神も申しておりました。しかし、悲しいことにあなたは我々の同志ではないのです。そんなあなたが我々以上に愛するものを思っているのも事実であります。愛する者の体が朽ちぬよう、同じ時を何百年も繰り返すというのは誰にでもできるものではありません。むしろ、出来ないことの方が普通なのです。そんな偉業を成し遂げたあなたは立派な愛の伝道師であると言えるでしょう。そこで、我々の神からあなたにとっても良いプレゼントがあるのですが、受け取ってはいただけないでしょうか?」
「プレゼントとかいらないんだけど。そんな事よりも、まー君はどこに隠したの?」
「あなたのパートナーですが、我々とは別の力を持つものが連れ去ったようですね。ですが、命に別状はないとのことですよ。それに、我々も彼を全力で探している段階ですので、見つけ次第報告いたしますよ。ただ、連れていかれた場所によっては、我々の力が及ばない恐れもございますので、その点だけはご容赦くださいませ」

 そう言われても、私はまー君の居場所を探ることは出来なかった。もしかしたらと思って念じてみたのだけれど、私の思いが通じることは無いようだった。

「そうそう、プレゼントの内容ですが、あなたがパートナーと再会した時にお渡しいたしましょう。その方が何かと都合もよろしいですし、きっと満足していただけると思いますよ。あなただけではなく、あなたのパートナーの協力があってのものですからね」
「それって、まー君に負担がかかったりしないかな?」
「あの方には問題ないと思いますよ。魔力も人並みにあるようですし、体力的にも負担は無いでしょうね」
「ねえ、どんなプレゼントなの?」
「我々の神に代わって申し上げますが、あなたの大切なパートナーと離れている時間が長くなると発動するプレゼントですね」
「発動って言葉はいいものとは思えないんだけど」
「いえいえ、とても良いものだと思いますよ。我々も出来ることなら頂きたいと思っていますからね」
「そんなにイイモノなの?」
「もちろんですよ。あなたが離れた彼に会いたいと思う気持ちが強くなればなるほど効果は絶大になっていきます。今もこうして会いたいと思っていると思いますが、今はまだプレゼントを渡していませんのでお待ちくださいね。そんなに焦るとモテませんよ。ま、あなたの場合は不特定多数の異性にもてなくても気にしなそうですが」
「会えない時間が二人の気持ちをより燃え上がらせるってやつかな?」
「違いますね。あなた方が離れ離れになった時間が長ければ長いほど効果も高まるのですが、その効果というものが肝心ですからね。ちゃんと教えますので最後まで聞いてくださいね。これを最初から最後まで聞いた人がおりましたら、そのプレゼントの譲渡は完了したという事になるのです。覚悟は出来ましたか?」
「覚悟も何も、どんなプレゼントなのかも聞いていないのに覚悟なんて出来るわけないでしょ」
「それもそうでしょうね。ですが、我々の協力なくしてあなた方が永遠の愛を手に入れることなど出来ないのですよ」
「あなたたちの協力なんてなくたって私はまー君と一生幸せに過ごせると思うんだけど」
「そう思っておられるのも無理はないと思いますね。ですが、あなた方にはこれから我々の神がとても重い試練を与えますので楽しみにしていてくださいね」
「試練なんていらないんだけど。ちょっとあんたたちの神に文句を言いに行きたいんで、どこにいるか教えてもらってもいいかな?」
「残念ですが、我々の神の居場所をお伝えすることは出来かねます。と言いますか、我々も神がどこにおられるか存じ上げないのですよ。それに、あなたが会ったとしても、何も変わらないと思いますけどね」
「はあ、もういいわよ。そろそろ、どこにまー君を隠したか言ってもらえるかな?」
「あなたのパートナーは我々の管理していない場所に紛れ込んだようでして、我々もどこにいるのか知らないのです。どうも、あなた方のような悪魔と関わりのあるものが紛れ込んでいるようでして、お恥ずかしい限りではあります。もしかしたら、悪魔とのかかわりがあるものではなく、悪魔そのものが紛れ込んでいるのかもしれませんがね」
「悪魔がどうしたっていうのよ。そんなん見つけ次第駆除しちゃえばいいでしょ」
「あなたほどの力があればそれも簡単なのでしょうが、我々にはそのような力を持ち合わせている者は多くないのです。退けることは出来たとしても、駆除することなんてとてもとても簡単ではないのですよ」
「そんなのどうでもいいんだけど、本当にまー君を出してくれないと、本気で怒るわよ」
「我々が隠しているわけではないのですが、それを信じてもらえないのは辛いですね。そうそう、我々の神からの伝言をお伝えいたしますね。あなた方が一緒に過ごした時間が72時間を超えた場合、その世界は消滅し新たな世界を再構築するだろう。とのことです」
「世界を再構築とか意味が分からないんですけど。そんなことして何の意味があるの?」
「さあ、私どもには理解の及ばないところですからね。それに、これが決まったのは三日ほど前だったようですので、次にあなたがパートナーと出会った時には再構築までわずかな時間しか残っていないのかもしれませんね」
「再構築されたら私達の関係は変わってしまうというの?」

 私が質問をした時には今まで目の前にいた男の人がいなくなっていた。目を話した時間なんて瞬きをした一瞬だけだと思うのだが、その一瞬の間に男が消えてしまったのだ。
 その代わりなのか、少し離れた場所から見慣れぬ男性がうつろな目で私をじっと見ているのだった。

「申し訳ないが、この者では君に全てを説明することは出来ないようだ。本来なら私はお前ごときの前に出て話すことなどないのだが、今は残された時間もない事なので、特別にお前に説明してやることにしよう。今から私を攻撃しようとしても無駄だ。お前の攻撃は私には届くことは無いのだ。仮に届いたとしても、私は何の痛みも感じることは無いのだがね。ただ、君のパートナーは私に対して有効な攻撃方法を手に入れたようなのだ。悪魔と契約したようなのだが、その中に私が不快に思うような攻撃も含まれているという事だ。間もなく、お前のパートナーはここへやってくるだろう。だが、その時にはもうこの世界は崩壊を始めることとなるのだ。なぜなら、お前たちが同じ世界で長い時間一緒に過ごすことによって、その世界に溜まった負のエネルギーが爆発し、世界は崩壊することになるだろう。だが、その崩壊した時のエネルギーを素にして、新しく作られた世界はお前たちよりも強いものを作り出すことだろう。もしかしたら、お前たちより強いのではなく、お前たちが弱体化しているだけなのかもしれないがな。どうしてこんなことを説明してやっているのかの説明をしてやろう。お前たちはこれまで何度も世界を滅亡させ、それと同時に世界を再構築してきたのだ。それは気の遠くなるような回数行われていたのだが、今回はそれと同じような事をお前が行ったのだ。お前のパートナーが死んだことによって、その終わりのない無限に続く破壊と再生が終わるはずだったのだ。だが、お前は自らの手で本当の終わりを拒否し、再び終わりのない破壊と再生の道を歩むことになったのだ。お前以外は誰も気付くことは無いのだが、強くなり過ぎたお前はその世界で永遠に苦しむことになるのだ。愛するものと一緒に過ごすことで世界は終わり、愛するものを殺すことでその繰り返しから抜け出すことが出来るようになるのだ。お前はもう察しがついていると思うが、この世界ももう間もなく終わりを迎えることになるだろう。その後がどうなるのかは自分の目で確かめてみることだな」

 何か言ってやろうと思って目の前の男を見ていると、その男の背後から急にまー君が現れた。
 不満や疑問はたくさんあるが、今はまー君と再会できたことを喜ぶべきだろう。まー君も私と会えてうれしそうだしね。

 そして、私達が言葉を交わす前に世界は終わりを迎えた。
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