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異世界転生 佐藤みさきの場合 中編

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 私は宙に浮いている不思議な人の後について裏庭に行ったのだけれど、そこにはあるべきものがあるべき場所に何一つ存在していなかった。家の裏にあった優しい木村さんの家もその両隣の松本さんと伊藤さんの家も無くなっていた。何もかもが無くなっているのだけれど、そこに何かがあるような気配だけは感じていた。
 更地になっていたその場所に浮かぶ不思議な魔法陣のような文様。私はその中心に立たされて、手渡されたラッパを受け取った。

「さあ、君がそのラッパを吹くことによって嫌な事は全て終わり、楽しいことが始まるよ」
「楽しい事って?」
「それはね、君にとってとても嬉しい事だよ。みさきちゃんが望むような世界になるって事さ」
「嫌な事を忘れて楽しい事だけしていられるってことなの?」
「そうだよ、さあ、勇気を振り絞ってそのラッパを吹くんだ」

 私は手渡されたラッパをまじまじと見つめていた。変なところがあったらいやだなという気持ちと同時に、汚かったらどうしようという思いがあったからだ。幸いなことに、ラッパは新品じゃないかと思えるくらい綺麗な状態だったのだが、一応吹き口だけは消毒ペーパーで拭いておくことにした。

 ラッパを口に当てて思いっきり息を吹き込むと、今まで聞いたことのないような高音が一気に周囲に広がっていった。その衝撃でまだ無事だった家の窓ガラスや車のガラスが砕け散り、壁や塀には大きな亀裂が走っていた。
 それと同時に、見たことも無いような異形の生物が空から無数に落ちてきたのだった。力を失って落ちてきた生物たちは、引力にひかれて地面に叩きつけられ、私のパパやママたちよりも無残な姿になっていた。

「凄いよみさきちゃん。たった一回でこれだけの効果が出るなんて信じられないよ。たった一回で世界中に広がっていた奴らが全て消えてしまったよ。でもね、ルシファー様がいる限り奴らは何度でもやってくるんだから、今度はルシファー様をここに呼ぶためにももう一度そのラッパを吹くんだ。みさきちゃんなら何度だって出来るよ」

 私は何が何だかわからないままラッパを吹き続けた。息の続く限り何度でも何度でも何度でも何度でも、私はラッパを吹き続けた。
 そして、疲れて辺りを見渡すと、そこには何もない荒野となっていた。

「みさきちゃん、ちょっとやりすぎちゃったね。ここまでやっちゃうと元に戻すのは大変かもよ。それに、ルシファー様もここに気付いたみたいだよ。みさきちゃんのすぐ後ろに立っているからね」
「え?」

 私はその言葉を聞くと同時に振り返っていたんだけど、そこにはテレビで何度も見ていた空に浮かんでいた人がいた。
 近くで見るとまー君とそんなに身長は変わらないように見えたけれど、その背中に生えている羽がとても綺麗に感じてしまった。

「みさきさん、久しぶりだね。新しい神は君の事を必要としているみたいなんだけど、俺はそれを阻止しに来たんだ」
「ごめんなさい。あなたたちが言っていることが一つも理解できません」
「ミカエルから聞いていると思うけど、君は新しい神に必要とされているんだよ。俺が殺した古い神とは違う新しい神なんだけど、そいつはどういうわけか君たちの力を必要としているみたいなんだよ。そこでだ、君と正樹は俺のためにその神の動向を探ってくれないかな?」
「あの、なんで私とまー君がそんな事をしないといけないんですか?」
「なんでって、君たち二人が俺とサクラを殺したんだからね。今はまだ完全に戻っていないけど、復活するまでは俺たちの代わりに行動してくれたっていいんじゃないかな。それにさ、断っちゃうと正樹を闇の世界に一生閉じ込めちゃうよ。そこに君はどんな手段を使っても行くことは出来ないんだけど、それでもいいのかな?」
「いいわけないでしょ。なんでそんな自分勝手なことに巻き込まれないといけないのよ。私が協力しなかったらまー君を閉じ込めるって、完全に脅迫じゃない。そんな事許さないんだからね」
「おいおい、お前は何か勘違いしているんじゃないか。力を失っている者同士とはいえ、今のお前と俺だったらどう考えたって俺の方が強いんだぞ。そんな貧弱な能力でどうやって俺に立ち向かうって言うんだよ」

 確かに、私がどう頑張ったってこの人に勝てるわけはないだろう。でも、このまま黙って従うのもなんだか嫌だ。どうすることが一番いいのだろうと考えていると、私は自分で持っているラッパが使えるんじゃないかと思った。
 私は従うようなふりをして油断しているルシファーに近付くと、後ろからそっと抱きしめてあげた。ただ、抱きしめるだけではなく、ルシファーの体にラッパを当てながらだけど。
 私はそのまま、ルシファーの背中に向かってラッパを吹き続けた。さっきよりも長く多く強く殺気を込めて吹き続けた。
 ラッパを吹いている間はこの悪い人たちは自由に動けないらしく、息継ぎをするときには逃げようとしていたみたいだけれど、それも無駄な抵抗だと思ったのか途中で動くことすらなくなっていた。
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