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異世界転生 前田正樹の場合 前編

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世紀末の予言から数年遅れでやってきた恐怖の大王は僕たちの生活を一変させた。

 東京の上空にいつの間にか現れていた人間に似た容姿でありながらも背中に十三枚の羽根が生えた未知の生命体。その様子は多くのカメラにとらえられていたのだが、未知の生命体は何か行動を起こすわけでもなく、ただただその場にとどまり続けた。
 ヘリコプターや飛行機などで何度も接触を試みているようではあったのだが、どういうわけなのかその生命体に近付くことは出来ないようで、遠くから望遠レンズを使って撮影することしか出来なかったのだった。
 何かをするわけでも何かを訴えるわけでもない空に浮かぶだけの生命体。特別なカメラを使って撮影しても、人間との違いは背中に羽が生えていることと体温が平均よりも低いという事しかわからなかったのだ。
 最初のうちは得体のしれないものが空に浮いていているという事で恐怖心や不安感もあったのだろうが、その状態が半年近くも続いていると新しい観光名所のようにもなっていたのだった。

「ねえ、まー君はあの空に浮いている人って何が目的だと思う?」
「さあ、一体何なのかわからないな。アレって本当に人なのかな?」
「どうだろう。私は興味無いんだけど、なんとなくまー君と一緒に見に行ってみたいかも」
「僕も見てみたいとは思うけど、ここから東京って簡単に行けるような距離でもないし、泊まる場所だって探さないといけないね」
「そうなんだよね。ちょっと見てみたいって軽い気持ちで行くには東京って遠いもんね。札幌とかだったらまだ行けたかもしれないけど、東京はちょっと遠すぎるよね」
「いやいや、札幌だって十分遠いよ。行こうと思えば日帰りも出来なくはないけど、結構な弾丸旅行になっちゃうじゃない」
「それもそうだね。でもさ、あの人ってどこかで見たことがあるような気がするのよね。まー君は見たことあったりする?」
「そう言われたらどこかで見たことあるかもしれないな。思い出せないけど、どこかで一緒にいたような気もするし、何なんだろうね」
「私もまー君も同じ感覚になるって不思議よね。あの人っていったい何が目的なんだろうね?」

 授業も終わりいつも通りにみさきを家まで送り、僕も自宅へと帰ったのだが、いつもと違って妹も母さんも僕を出迎えてくれることは無かった。どこかに買い物にでも行っているのだろうと思っていたのだけれど、夜になっても二人が帰ってくることは無かった。単身赴任中の父さんに連絡してみても、なぜか繋がることは無かった。
 いつもなら帰宅してすぐにみさきからメッセージが届くのだけれど、今日はそれも無かった。
 特にすることも無く見ていたテレビの中では名前も知らない多くの人がゲームでしか見たことのないような異形の生物によってその体を引きちぎられている様子が映し出されていた。映像は定点カメラのようにずっと同じ場面を映しているのだけれど、逃げ惑う多くの人とそれを追いかける怪物の姿が時々映し出される以外はただの都会の交差点のように見えていた。
 他のチャンネルに切り替えても似たような映像ばかりで何が起きているのかさっぱりわからなかった。

 お腹が空いてきたので台所をあさってみたのだけれど、これと言って食べたいものも見つからなかったので買い物に出かけることにした。みさきから連絡がこないことも不安になってきたし、買い物に行くついでに様子を見に行くことにしたのだけれど、外に出てみるとテレビの中と同じような光景が広がっていた。
 名前は知らないけれど見たことのある人が僕の目の前で真っ二つに切り裂かれてしまっていた。
 中学の時の同級生とすれ違ったのだけれど、同級生は顔だけで首から下は無くなっていたので話しかけることもしなかった。
 みさきの家に向かう途中に学校を横切るのだけれど、校庭には部活をしていたと思われる生徒たちが山のように積まれていたのだが、それを取り囲んでいる見たことも無いような生物は祈りを捧げているようにも見えた。

 みさきの家についた僕はいつものようにチャイムを鳴らしたのだけれど、中からは何も反応が返ってこなかった。
 外から様子を窺ってみても、誰もいる感じはしなかった。
 みさきはどこにいるのだろうと思って庭を覗いてみたのだけれど、そこにもみさきはいなかった。
 みさきがこんな夜にどこかに出かけるとは思えないし、家の車もあるので家族で出かけているわけではないようだった。
 玄関に手をかけるとカギはかかっておらず、簡単に開いてしまったので、僕は一言断ってから家の中に入っていった。
 家の中も静まり返っており、僕が問いかけても誰も返事を返してくれなかった。
 みさきも、みさきのお姉さんも、みさきのお母さんも、みさきのお父さんも、僕が話しかけても返事を返してくれなかった。

「君たちは殺しちゃ駄目だって言われたんだけど、間違えて殺しちゃった。間違えてしまったことは仕方ないと思うし、一回間違えたら二回間違えても仕方ないよね」
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