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魔王アスモデウス
第三十二話 魔王アスモデウス
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世界の中心から最も遠い深淵の中心に両手両足の自由を奪われた男が椅子に座って見えることのない空を見上げていた。
自分の心臓すら掻き消されてしまうほどの静寂の中、全裸の少女が自分の拳よりも小さい斧を持って男に近付いていった。
自分に近付いてきた何者かの気配を感じ取った男は顔を上に向けたまま瞳だけを動かして少女を見ると、そのまま何も無かったかのように瞳を空へと向けたのであった。
「魔王アスモデウスはここで死ぬことになるのです。それは決定事項なのです」
少女はその言葉を言い終えると同時に持っていた斧を男の脳天めがけて振り下ろしていた。
「そうか。余は命もここまでなのか。良い、未練など何もない。この命、貴様にくれてやろう」
男は自らの脳天に振り下ろされた斧など無かったかのように答えた。
その視線は相変わらず点を見上げて入るのだが、その瞳に届く光はいつもと同じものであった。
「どうした。貴様は余の命を奪いに来たのではないのか?」
視線を動かさずに少女に問いかけた男ではあったが、ほんの一瞬だけ少女に視線を移していた。
少女は手に持っている斧をしっかりと握りしめ、何度も何度も男の頭に振り下ろしていたのだ。
だが、男は眉一つ動かさずに空を見つめるだけであった。
「貴様ごときでは余に傷を付けることすら叶わぬか。残念である」
男は死ぬことを恐れていないようだった。むしろ、ここで殺されることを望んでいるようにも感じられた。
男がここに閉じ込められてから毎日何度も繰り返された光景ではあったが、誰も彼の命を奪うことが出来ず、傷付けることすら叶わないのである。
「ここでお前を殺して私も真琴のいる世界に転生しないといけないのに。なんでお前は死なないんだよ」
少女は何度も何度も狂ったように斧を振り下ろしていたのだ。
脳天を確実に狙っていたのは最初だけで、何度も何度も繰り返し斧を振り下ろすことでねらいは少しずつズレてしまっていた。
ほんの少し狙いがズレた一撃は男の皮膚に少しだけ傷を付けることに成功していた。
少しだけ流れる血が男の髪を伝い地面に落ちていったが、落下したはずの血はすぐに見えなくなってしまった。
「貴様、今、真琴のいる世界と申したのか?」
少女は男の体に傷を付けたことにも驚いていたが、この男が自分に興味を持ったことに驚いてしまった。
いや、自分の事をこの男が認識してしまったという事に恐怖を感じてしまった。
「真琴というのは、余がココに幽閉されるきっかけを作った男であるな?」
少女は男の命を奪うことは許可されているのだが、この男と会話をすることは許可されていない。
この男に何か情報を与えることも、当然許可などされていないのだ。
「そう怯えるでない。貴様が先ほど申した真琴というモノは余が探している勇者で間違いないな?」
ずっと空を見ていたはずの男が自分の事を見ていると気が付いた少女は自分の意志とは無関係に恐怖を覚えていた。
いつの間にか少女は呼吸をするよりも多くしゃっくりをしており、男から視線を外さないまま盛大に失禁をしてしまっていた。
男は顔を少女の方へ向けると、今まで誰にも見せたことのないような笑顔で少女の事を見つめていた。
本能的に命の危機を感じた少女は先ほどよりも短い間隔でしゃっくりを繰り返し、失禁をしてしまっていた。
「余をここまで追いつめた男が死してそのままというはずもないか。よくよく考えてみたらその方が自然であるな。貴様は真琴がどこの世界にいるのか知っているというのか?」
少女に与えられた許可はこの男を殺すことだけである。この男に余計な情報を与えることは、少女にとって死よりも重い罰が与えられる可能性もあるのだ。
だが、ココで答えを間違えてしまった時も少女は死よりも辛い未来が待っていると感じてしまった。
思ったことを口に出してしまう性格を今まで何度も公開してきた少女ではあったが、今ほど自分の性格を悔やんでやり直したいと思ったことはなかった。
一度口にした言葉を取り消すことは出来ないし、この場を乗り切るためにはこの男を殺すしか方法がない。
この男が死んでしまえば、少女が男に何かを伝えたという事実は消えてしまうのだ。
だが、この男に傷を付けた世界で二人目の生物となった少女にはこの男に今以上の傷を付けることなんて出来ないのだ。
自分を真っすぐに見つめている男の視線に耐えながら斧を振り下ろすことなど出来るわけも無かったのだ。
「余の命を奪う者よ。今、この時をもって余を守る全ての術を解く。さあ、遠慮なく一思いにその手に持つ得物を余に振り下ろすが良い」
男の髪を伝っている血の量が多くなっているように感じた少女は慎重に男の背後へと回り込んで確認すると、男の頭皮が真っ赤に染まっているのであった。
「どうした、今なら貴様のその得物でも余の命を奪うことが出来るのだぞ。貴様程度のモノでもそれくらいは理解できようぞ」
「さすがにこの状況を見れば私でもわかります。でも、なんで?」
男はいつの間にか少女に体を向けていて真っすぐに少女の顔を見つめていた。
いや、少女がいつの間にか男の正面に移動していたのかもしれないが、自分の意志で少女が男の前に移動することなどありえない話である。
目を合わせてはいけないと少女は本能的に感じ取っているのだが、目を離してもいけないと少女の前身が警告もしているのであった。
「貴様が勇者真琴が転生していると言ったからだ。あの者がこの世界にいるのであれば余は手出しすることも出来なかったが、別の世界にいるのであれば話は早い。余も勇者真琴のいる世界に転生してしまえばいいだけの話だ。貴様には感謝するぞ。何もかもを失った世に生きる希望を……いや、余に死ぬ希望を与えてくれたことをな」
少女は持っていた斧を男の顔面にめがけて振り下ろしていた。
男の体が肉片になるまで何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も振り下ろしていた。
魔王アスモデウスの命を奪った少女は魔王アスモデウスのいなくなったこの世界で永遠にも近い時を過ごすことになるのであった。
少女がなぜ誰も傷一つ付けることが出来なかった魔王アスモデウスの命を奪うことが出来たのか、その答えを知る少女は誰とも会話をしなくなってしまった。
魔王アスモデウスの命を奪った方法は誰も知ることが無かったのである。
自分の心臓すら掻き消されてしまうほどの静寂の中、全裸の少女が自分の拳よりも小さい斧を持って男に近付いていった。
自分に近付いてきた何者かの気配を感じ取った男は顔を上に向けたまま瞳だけを動かして少女を見ると、そのまま何も無かったかのように瞳を空へと向けたのであった。
「魔王アスモデウスはここで死ぬことになるのです。それは決定事項なのです」
少女はその言葉を言い終えると同時に持っていた斧を男の脳天めがけて振り下ろしていた。
「そうか。余は命もここまでなのか。良い、未練など何もない。この命、貴様にくれてやろう」
男は自らの脳天に振り下ろされた斧など無かったかのように答えた。
その視線は相変わらず点を見上げて入るのだが、その瞳に届く光はいつもと同じものであった。
「どうした。貴様は余の命を奪いに来たのではないのか?」
視線を動かさずに少女に問いかけた男ではあったが、ほんの一瞬だけ少女に視線を移していた。
少女は手に持っている斧をしっかりと握りしめ、何度も何度も男の頭に振り下ろしていたのだ。
だが、男は眉一つ動かさずに空を見つめるだけであった。
「貴様ごときでは余に傷を付けることすら叶わぬか。残念である」
男は死ぬことを恐れていないようだった。むしろ、ここで殺されることを望んでいるようにも感じられた。
男がここに閉じ込められてから毎日何度も繰り返された光景ではあったが、誰も彼の命を奪うことが出来ず、傷付けることすら叶わないのである。
「ここでお前を殺して私も真琴のいる世界に転生しないといけないのに。なんでお前は死なないんだよ」
少女は何度も何度も狂ったように斧を振り下ろしていたのだ。
脳天を確実に狙っていたのは最初だけで、何度も何度も繰り返し斧を振り下ろすことでねらいは少しずつズレてしまっていた。
ほんの少し狙いがズレた一撃は男の皮膚に少しだけ傷を付けることに成功していた。
少しだけ流れる血が男の髪を伝い地面に落ちていったが、落下したはずの血はすぐに見えなくなってしまった。
「貴様、今、真琴のいる世界と申したのか?」
少女は男の体に傷を付けたことにも驚いていたが、この男が自分に興味を持ったことに驚いてしまった。
いや、自分の事をこの男が認識してしまったという事に恐怖を感じてしまった。
「真琴というのは、余がココに幽閉されるきっかけを作った男であるな?」
少女は男の命を奪うことは許可されているのだが、この男と会話をすることは許可されていない。
この男に何か情報を与えることも、当然許可などされていないのだ。
「そう怯えるでない。貴様が先ほど申した真琴というモノは余が探している勇者で間違いないな?」
ずっと空を見ていたはずの男が自分の事を見ていると気が付いた少女は自分の意志とは無関係に恐怖を覚えていた。
いつの間にか少女は呼吸をするよりも多くしゃっくりをしており、男から視線を外さないまま盛大に失禁をしてしまっていた。
男は顔を少女の方へ向けると、今まで誰にも見せたことのないような笑顔で少女の事を見つめていた。
本能的に命の危機を感じた少女は先ほどよりも短い間隔でしゃっくりを繰り返し、失禁をしてしまっていた。
「余をここまで追いつめた男が死してそのままというはずもないか。よくよく考えてみたらその方が自然であるな。貴様は真琴がどこの世界にいるのか知っているというのか?」
少女に与えられた許可はこの男を殺すことだけである。この男に余計な情報を与えることは、少女にとって死よりも重い罰が与えられる可能性もあるのだ。
だが、ココで答えを間違えてしまった時も少女は死よりも辛い未来が待っていると感じてしまった。
思ったことを口に出してしまう性格を今まで何度も公開してきた少女ではあったが、今ほど自分の性格を悔やんでやり直したいと思ったことはなかった。
一度口にした言葉を取り消すことは出来ないし、この場を乗り切るためにはこの男を殺すしか方法がない。
この男が死んでしまえば、少女が男に何かを伝えたという事実は消えてしまうのだ。
だが、この男に傷を付けた世界で二人目の生物となった少女にはこの男に今以上の傷を付けることなんて出来ないのだ。
自分を真っすぐに見つめている男の視線に耐えながら斧を振り下ろすことなど出来るわけも無かったのだ。
「余の命を奪う者よ。今、この時をもって余を守る全ての術を解く。さあ、遠慮なく一思いにその手に持つ得物を余に振り下ろすが良い」
男の髪を伝っている血の量が多くなっているように感じた少女は慎重に男の背後へと回り込んで確認すると、男の頭皮が真っ赤に染まっているのであった。
「どうした、今なら貴様のその得物でも余の命を奪うことが出来るのだぞ。貴様程度のモノでもそれくらいは理解できようぞ」
「さすがにこの状況を見れば私でもわかります。でも、なんで?」
男はいつの間にか少女に体を向けていて真っすぐに少女の顔を見つめていた。
いや、少女がいつの間にか男の正面に移動していたのかもしれないが、自分の意志で少女が男の前に移動することなどありえない話である。
目を合わせてはいけないと少女は本能的に感じ取っているのだが、目を離してもいけないと少女の前身が警告もしているのであった。
「貴様が勇者真琴が転生していると言ったからだ。あの者がこの世界にいるのであれば余は手出しすることも出来なかったが、別の世界にいるのであれば話は早い。余も勇者真琴のいる世界に転生してしまえばいいだけの話だ。貴様には感謝するぞ。何もかもを失った世に生きる希望を……いや、余に死ぬ希望を与えてくれたことをな」
少女は持っていた斧を男の顔面にめがけて振り下ろしていた。
男の体が肉片になるまで何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も振り下ろしていた。
魔王アスモデウスの命を奪った少女は魔王アスモデウスのいなくなったこの世界で永遠にも近い時を過ごすことになるのであった。
少女がなぜ誰も傷一つ付けることが出来なかった魔王アスモデウスの命を奪うことが出来たのか、その答えを知る少女は誰とも会話をしなくなってしまった。
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