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引きこもりからの脱却
第一話 元引きこもり現ニート
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十年間引きこもっていた俺がニートに昇格して早くも半年が過ぎた。部屋トイレ風呂だけだった活動範囲がキッチンに広がったのをきっかけにして今では誰も出歩いていない時間帯であれば家の隣にある自動販売機で売っている商品を確認することも出来るようになったのだ。元引きこもりで現ニートの俺がジュースを買うお金なんて持っていないのだから見る事だけしかできないのは仕方ない。俺にとっては再び家から出る日が来るなんて思ってもみなかったのだ。
あの忌々しい両親の会話によって俺の人生はどん底よりも深い場所があると思わせられてしまったのだった。
「父さんも母さんもいつまでも真琴の世話を出来るわけじゃないんだ。お前はこれからずっと家に引きこもっているつもりなのか?」
両親はそう言って俺の事を見つめている。俺の事なんてもうとっくの昔に諦めていつまいまのじょうきょうがでも面倒を見てくれるものだと思っていたのに、俺を見つめてくる二人の目はまだ俺の事を諦めてはいないように見えた。
妹の瑠璃は来年度からとても有名な私立高校の教員になるようなのだが、そのまま両親の代わりに俺の面倒を見てくれるようにならないかと期待してみる。が、俺を見つめる瑠璃の目は軽蔑しているようにしか見えなかった。
「そんな目で私の事を見るのやめてもらってもいいかな。私は兄貴の面倒なんて見るつもりないからね」
「そんな冷たいことを言わないで俺の事を助けてくれよ。これから父さんと母さんが酷いことを言いそうな予感がするんだ。なあ、瑠璃が一言俺の面倒を見てくれるって言ってくれたらそれでいいんだから。な、頼むよ」
俺の情けない姿を見た三人が同時にため息をついていた。俺も本当ならこんなことは言いたくなかったけど、今の俺が生きていくためには必要なことなのだ。俺が生きていくために出来ることならなんだってやるつもりだ。もちろん、働くことなんて絶対に無理だが。
「妹にまで迷惑をかけるようなことはするな。お前が何でも出来る子供だったのは父さんたちも知っているんだ。お前だって今のままじゃ良くないってことくらいはわかっているだろう。父さんたちはお前が普段どんなサイトを見ているのか知っているんだからな」
「ちょっと待ってくれ。俺が見てるサイトを知っているってどういうことだ?」
「あのね、兄貴が見てるサイトの履歴は私がチェックしてパパとママに報告してるのよ。最初は変なサイト見てるんじゃないかって思ってたんだけど、意外と真面目にニュースサイトとか科学系のサイトも見てるのよね。他にも色々と勉強になりそうなサイトとか辞典なんかも見てるわよね。そんなに勉強がしたいなら学校に行けばよかったのに」
俺だって学校に行って勉強をしたいと思っていた。その気持ちは今でも変わらない。
通信制の学校に通う事だっていいと思っていたけれど、通信制と言っても何度かは学校に行かなくてはいけないという事を聞いて断念するしかなかったのだ。もしも、学校で誰かと出会ってしまうとまた凄惨なイジメに遭ってしまう可能性が高いのだ。
「みんな真琴に多くを望んではいない。部屋からほとんど出なかったお前がこうして一緒に食事をして一緒にテレビを見てくれるようになったことも嬉しいんだ。お前が面接について調べたりしているのも瑠璃から聞いて知っているんだが、それを聞いた時に父さんと母さんは思わず涙を流してしまったよ」
両親だけではなく妹の瑠璃まで少し涙ぐんでいる。
本当に申し訳ないことではあるが、俺が面接について調べていたのは紛れもない事実である。ただ、調べていた理由は三人が思っているように働くために面接について調べていたという事ではない。俺が面接について調べていた理由は、ネットニュースで見た圧迫面接というモノが本当にあるのか気になったから調べただけなのだ。
三人には申し訳ないのだけれど、俺は別に働こうと思って面接について調べたのではないのだ。
「そこでだ、父さんの知り合いがやっている会社で真琴が働けるように頼んでおいたからな。面接の練習をしていたみたいだけど、そんなことはしなくても大丈夫だ。引きこもりだった息子が部屋を出て働きたいみたいだと相談したところ、お前の事を快く受け入れてくれることになったぞ。とりあえず、一年くらいはそこで頑張ってくれ」
「お母さんも真琴の事応援してるからね」
「あんま無理しないで頑張んなよ」
俺は働くつもりなんてこれっぽっちもないんだけど、いつの間にか勝手に働くことにされていた。どんな仕事なのか知らないし、ずっと引きこもっていた俺が知らない人と接するなんて無理だろう。
瑠璃はちょくちょく俺の部屋にきていたので話すことは何度もあったけど両親とこんなに話をしたのだって何年ぶりだろうという感じなのだ。そんな俺がいきなり知らない人と一緒に働くなんて不可能だと思わないのだろうか。
三人の目は希望に満ちている子供のように輝いているところを見ると俺とは全く別の事を考えているんだろうなと思ってしまう。
どうにかして働かなくてもよくなる方法はないかと考えてみたのだが、期待されているというのがわかっているだけに逃げることも出来ずにいたのだ。
「兄貴なら大丈夫だって信じてるよ」
部屋に入る前に言われた瑠璃の言葉が耳に残ってその日はなかなか眠ることが出来なかった。
あの忌々しい両親の会話によって俺の人生はどん底よりも深い場所があると思わせられてしまったのだった。
「父さんも母さんもいつまでも真琴の世話を出来るわけじゃないんだ。お前はこれからずっと家に引きこもっているつもりなのか?」
両親はそう言って俺の事を見つめている。俺の事なんてもうとっくの昔に諦めていつまいまのじょうきょうがでも面倒を見てくれるものだと思っていたのに、俺を見つめてくる二人の目はまだ俺の事を諦めてはいないように見えた。
妹の瑠璃は来年度からとても有名な私立高校の教員になるようなのだが、そのまま両親の代わりに俺の面倒を見てくれるようにならないかと期待してみる。が、俺を見つめる瑠璃の目は軽蔑しているようにしか見えなかった。
「そんな目で私の事を見るのやめてもらってもいいかな。私は兄貴の面倒なんて見るつもりないからね」
「そんな冷たいことを言わないで俺の事を助けてくれよ。これから父さんと母さんが酷いことを言いそうな予感がするんだ。なあ、瑠璃が一言俺の面倒を見てくれるって言ってくれたらそれでいいんだから。な、頼むよ」
俺の情けない姿を見た三人が同時にため息をついていた。俺も本当ならこんなことは言いたくなかったけど、今の俺が生きていくためには必要なことなのだ。俺が生きていくために出来ることならなんだってやるつもりだ。もちろん、働くことなんて絶対に無理だが。
「妹にまで迷惑をかけるようなことはするな。お前が何でも出来る子供だったのは父さんたちも知っているんだ。お前だって今のままじゃ良くないってことくらいはわかっているだろう。父さんたちはお前が普段どんなサイトを見ているのか知っているんだからな」
「ちょっと待ってくれ。俺が見てるサイトを知っているってどういうことだ?」
「あのね、兄貴が見てるサイトの履歴は私がチェックしてパパとママに報告してるのよ。最初は変なサイト見てるんじゃないかって思ってたんだけど、意外と真面目にニュースサイトとか科学系のサイトも見てるのよね。他にも色々と勉強になりそうなサイトとか辞典なんかも見てるわよね。そんなに勉強がしたいなら学校に行けばよかったのに」
俺だって学校に行って勉強をしたいと思っていた。その気持ちは今でも変わらない。
通信制の学校に通う事だっていいと思っていたけれど、通信制と言っても何度かは学校に行かなくてはいけないという事を聞いて断念するしかなかったのだ。もしも、学校で誰かと出会ってしまうとまた凄惨なイジメに遭ってしまう可能性が高いのだ。
「みんな真琴に多くを望んではいない。部屋からほとんど出なかったお前がこうして一緒に食事をして一緒にテレビを見てくれるようになったことも嬉しいんだ。お前が面接について調べたりしているのも瑠璃から聞いて知っているんだが、それを聞いた時に父さんと母さんは思わず涙を流してしまったよ」
両親だけではなく妹の瑠璃まで少し涙ぐんでいる。
本当に申し訳ないことではあるが、俺が面接について調べていたのは紛れもない事実である。ただ、調べていた理由は三人が思っているように働くために面接について調べていたという事ではない。俺が面接について調べていた理由は、ネットニュースで見た圧迫面接というモノが本当にあるのか気になったから調べただけなのだ。
三人には申し訳ないのだけれど、俺は別に働こうと思って面接について調べたのではないのだ。
「そこでだ、父さんの知り合いがやっている会社で真琴が働けるように頼んでおいたからな。面接の練習をしていたみたいだけど、そんなことはしなくても大丈夫だ。引きこもりだった息子が部屋を出て働きたいみたいだと相談したところ、お前の事を快く受け入れてくれることになったぞ。とりあえず、一年くらいはそこで頑張ってくれ」
「お母さんも真琴の事応援してるからね」
「あんま無理しないで頑張んなよ」
俺は働くつもりなんてこれっぽっちもないんだけど、いつの間にか勝手に働くことにされていた。どんな仕事なのか知らないし、ずっと引きこもっていた俺が知らない人と接するなんて無理だろう。
瑠璃はちょくちょく俺の部屋にきていたので話すことは何度もあったけど両親とこんなに話をしたのだって何年ぶりだろうという感じなのだ。そんな俺がいきなり知らない人と一緒に働くなんて不可能だと思わないのだろうか。
三人の目は希望に満ちている子供のように輝いているところを見ると俺とは全く別の事を考えているんだろうなと思ってしまう。
どうにかして働かなくてもよくなる方法はないかと考えてみたのだが、期待されているというのがわかっているだけに逃げることも出来ずにいたのだ。
「兄貴なら大丈夫だって信じてるよ」
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