【完結】貧乏伯爵令嬢は男性恐怖症。このままでは完全に行き遅れ。どうする

buchi

文字の大きさ
52 / 57

第52話 フィオナの失踪

しおりを挟む
アレクサンドラは、夫から婚約者変更の顛末を聞くと、目を吊り上げた。

「なんだってフィオナなんかの選択に任せるって言うの!?」

「アレクサンドラ」

アンドルーは、この一件で悟ったことがあった。
フィオナの問題に関しては、アレクサンドラはちょっとばかり(かなり)トチ狂っている。
いつまでも、フィオナが自分の言うことを聞く子供だと思っている。

「フィオナの好きにさせなくてはいけない。フィオナと絶縁したいのか?」

「なんですって? 絶縁? 大いに結構よ。もう、なんの手間もかからなくて助かるわ。泣いて、戻ってきてもお断りよ。許さないわ」

「アレクサンドラ、フィオナは大金持ちなのだ」

夫は諭すように妻に言った。

「ええ、そうね。ほんとだったら、私たちのものになるはずのお金を盗っていったようなものよ。ご機嫌とりばかりして。顔を合わせれば、悪口ばかり言う老婆に付け入って」

疲れたようにアンドルーは言った。

「弁護士に話を聞いたと思うが、フィオナは大伯母の遺産のほとんどを受け継ぐ。お前がしたことは、そのフィオナの機嫌を損ねることばかりだ」

「なんで、フィオナなんかの機嫌を取らなくちゃいけないんです?!」

「今、お金を持っているのはフィオナなんだ。泣いてアレクサンドラに許しを乞うとか、是非ともお金をあんたに上げたいとか、そんなこと、フィオナは言わないだろうな。それより、警戒して近づかないと思うよ」

アレクサンドラは、黙った。

「あなたが稼げばいいじゃない」

アンドルーは、妻の顔を見た。

心の底からこの女が嫌になった。

「それはそうだね」

アンドルーは黙った。それは真実だった。




「あ、そうそう。今日、ジャック・パーシヴァルがここへ来てたのよ」

アンドルーはハッとして、妻の顔を見た。

「いつ?」

「あなたがフィオナとやりあっていた時のことよ」

なんてことだ。
あのやり取りを聞かれてしまったのだろうか。
一体、いつからジャックはこの家にいたのだろう? どこから聞いていたんだろう?

アンドルーは、額に嫌な汗がにじみ出てくるのを感じた。


「どうして今まで言わなかったんだ?」

「忘れていたのよ。いろいろあり過ぎて」


アンドルーはあわてて執事を呼んだ。

「はい、誠に折悪しく……」

執事は恐縮していた。

「どうして取り次いでくれなかった」

「フィオナ様が部屋から出られたすぐ後、パーシヴァル様はその後を追っていかれたのです。そのすぐ後、グレンフェル侯爵様がおいでになりましたので、お伝えする時間がありませんでした」

ジャックはいつからアンドルーとフィオナのやり取りを聞いていたんだろう?

まずい。
いや、逆にまずくないのか? これから、ジャックに婚約を破棄を通告しなくて行けないかもしれない。いや、言わなくちゃならないだろう。

でも、ジャックは……かわいそうなジャックは、フィオナの叫びを聞かされていたのだ。

「すでにお伝え済みということか」




アンドルーは、ようやく思い出した。

「フィオナは? フィオナは、どこだ!?」

「旦那様、フィオナ様は出て行ってしまわれました」

執事は沈痛な面持ちでアンドルーに告げた。アンドルーは目をむいた。

「出て行った? 自分の部屋に戻ったのではないのか?」

「言ったではございませんか。アンドルーと口論になって、お部屋を飛び出して行かれた時、ちょうど折り悪く、外に辻馬車が停まっておりまして、乗ってどこかへ行っておしまいになりました」

アンドルーは呆然とした。

フィオナが行く先なんかどこにもない筈だ。

「まだ、戻っていないのか?!」

執事はうなずいた。

もう夕方だ。

すぐに戻ってくると思っていた。どうせ、外を馬車で一周する位だろうと。それでも、普段のフィオナなら、下男の手間を考えて、そんなことは絶対にしなかった。しかも、辻馬車とは、どういうことだ。

アンドルーは再度顔色青ざめた。

「まだ、戻ってきていないのか。この屋敷を出て行ったと言うのか? 本当に?」

どこへ行ったと言うのだ……
アンドルーは、呆然とした。


彼は気が付いて叫んだ。

「マルゴットは? マルゴットはどこにいる?」

古くからいる女中頭が呼ばれ、衝撃的な事実が告げられた。

「マルゴットはおりません。それから……」

「なんだ? 早く言え!」

「フィオナ様のお部屋はからっぽでございます。ドレスやこまごました手回りの品は、みな、なくなっております」

アンドルーは窮地に陥った。

嫁入り前の娘が失踪したのだ。

彼の顔色は真っ青だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

処理中です...