王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

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第8章 不屈の男、信秀

1.石合戦(いしがっせん)

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尾張の国、ある川辺で子供達がふたつの陣営に分かれ、これから石合戦を行おうとしていた。

其処に丁度、馬に乗った2人の男達が立ち寄り、それを遠くから眺めていた。

男達以外にも、数十名の大人たちが、石合戦の野次馬をしている。

『童どもが、ハシャイデおるわ、平手よ、どちらが勝つと思う』

お供の初老の男に問いかけたのは、尾張のトラと他国から恐れられている男、織田信秀であった。

『はああ、未だ始まってはおりませんが、奥に陣をはる童たちかと思います。手前の童共の数がすくのうかと・・』

『奥の童共たちの方が、10とすれば、手前の童たちは、多くめても7、嫌6ぐらいですので、殿はどうみられる』

『多勢に、無勢どうみても、分が悪い・・そう見るのじゃな』

『ワシは・・・』

初老の男に殿と呼ばれた信秀は、自分の予想を言う前に、言葉を止める。

『オイ、平手よ、あのヒョロリとした瓢箪を腰からつけた童・・、三郎じゃ』

『三郎・・・吉法師様が・・見間違いでござろう、身分の低い家の童共と・・一緒に居るわけが・・』

『平手、あの三郎に小突かれている、幼き子は、もしや・・・・三河の竹千代・・じゃ』

『そんな、たわけたこ・・・・・とを、いくらヤンチャな若でも・・・』

そう言った後、平手政秀は、自分の考えが甘かった事に気づき、アゴが外れるぐらい口を大きく開け、絶句した。

『ヤバい、ヤバいぞ、人質の竹千代がケガ、石に当たって、打ち所が悪ければ死んでしまうぞ!』

『人質に怪我をさせたら、我が家は卑怯者のソシリを受けるぞ・・』

『止めろ、止めさせるのじゃ・・・平手・・??平手、どうした、大丈夫か?』

自分の問いに答えない、家来の状況が気になり、視線を家来の元に戻して、信秀は驚いた。

タコの様に真っ赤な顔をした白髪の老人が、物凄い形相で、脇差を抜いていたからである。

『殿、ワシが腹を切りまする。死んでお詫びを・・』

覚悟を決めた様に平手政秀は、青筋を立てながら、上半身の着物胸元から、左肩を出す。

『タワケ!!、腹切る前に、止めるのが先じゃ』

『イヤ、死なせて下され・・・』

『クソッ、世話のかかる奴じゃ!!』

政秀のヤブレカブレの物言いに、これは不味いと思い、馬をおり、老臣を後ろから羽交い絞めにする。

そうこうしているうちに、大人達の事情何かは、お構いなしに童共は合戦を始めてしまった。

石合戦の現場、不利と評された陣営では、瓢箪を腰からぶら下げた少年が、大きな声で周りの子ども達に指示を出す。

『良いか、お主ら、始まったら、オレの言う様に右側に向けてとにかく投げろ、オレが良いって言うまで投げ続けろ』

『相手の方からも、石は来るが、そんなモン、当たると思うな。当たったら、それは運が悪いのじゃ』

『大丈夫じゃ、今日のオレラは、運がいい、石は当たらんて!!』

『投げる事に集中しろ、途中で逃げた奴は、後でワシが10発殴るからな!』

『此処に6歳のガキがいる、一ヵ月前に三河から連れて来られたガキじゃ。』

『お前らはコイツを守る壁になるんだ、お前らが逃げたら、コイツに石が当たる』

『お主らは、尾張の男の度胸を、勇気をコイツに見せるんじゃ、分ったな』

少年がそう言うと、一人の男の子が『オオウッ』と叫ぶ。

腹の底から出した気合の入った声が、響くと、其処にいた子供達がその子供に張り合うように同じ声を上げる。

『ヨシッ!』

『竹千代とやら、お主に尾張の男達の度胸を見せてやる。お主も、三河を代表する男であれば、逃げずに見届けよ!!』

『逃げんじゃねぇぞ、馬鹿野郎!!』

腰に瓢箪を巻いた少年は、現代の不良少年の様な口振りで、そう言って締めくくり、片手を上げる。

竹千代という少年は、自分が突然戦場に引きずり込まれ、正直何が何だか分からなかった。

とにかく、頷く事しか出来なかった。

数秒後、相手の陣地から、数個の石が飛んでくると、周りにいる年上の少年たちは持っている石を投げ、投げ終わると、死に物狂いで近くにある石を拾い、又投げる。

それは、遊びの域を超え、ある種本当の合戦の様だった。

敵陣営の石にぶつかり、頭を抱え倒れる者もいた。

しかし、逃げる者は一人もいなかった。

石合戦は、それほど長い時間はかからず終わった。

瓢箪をぶら下げた少年が、一局集中で石を投げさせ、先ずは、左、そしてそこを殲滅できたと思えば、次は真ん中、そして右と、相手の戦力を各個撃破していったのであった。

戦う者にとって、戦意とはこれほど大事なモノかと思うほど、残酷な結果であった。
石を集中的に受けた者達は、堪らず、次々と逃げ出したのである。

しかし、味方側にも少なからず石にぶつかり、血を流す者が出ていた。
勝負の大勢が決まるまでの序盤は、それでも息をのむほど緊張感があった。

しかし大勢がきまると、勝負は早かった。
一人が逃げると、ドミノ倒しの様に、次々と逃げる者が現れ、それが伝染していく様であった。

竹千代は、石合戦のあまりの迫力に、自分では石を持てず、タダタダ身体の大きい自分より年上の少年達の背中の後ろに隠れていた。

運よく竹千代に石がブツカルこと事は無かったが、幼い彼は、緊張のあまり小便を漏らしそうになったが何とか堪えた。

相手の大半が逃げ、勝敗が決まった時、周りの年上の少年たちは、嬉しそうに雄たけびを上げていた。

勝利の歓声の中、瓢箪の少年が竹千代に近寄ってくる。

『お主、良く逃げなかったな!三河のモヤシっ子と思っていたが大したもんだ』

『オレの名は三郎じゃ、今度からお主の事を名前で呼んでやる、有り難いと思え』

『宜しくな、竹千代・・』

竹千代は、その乱暴な少年の言葉を聞いた時、自分でも分からない興奮を感じたのであった。
年上の少年に認められた事が嬉しかったのである。

後の織田信長と、徳川家康が初めて遊んだ日はこんな状況であった。
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