王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

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第7章 遅れてやっときた二人の新婚生活

17.旅から帰って来た後の二人

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十兵衛へ煕子が明智城へ戻ったのは、12月下旬であった。

養老の滝へ旅立った日から、10日が過ぎた時であった。

十兵衛と煕子は、斎雪と別れた後、暫く、養老の滝の傍の温泉でゆっくりと夫婦水入らずの時を過ごし、戻って来たのであった。

二人は、城へ戻ると叔父光安と、その妻タキに約束どおり菊泉水を渡す。

叔父夫婦は、旅行の建前であった菊泉水を大げさに喜んで貰い受けたが、二人がもっと喜んだのは、十兵衛と煕子の雰囲気が変わった事が見て取れた事であった。

二人の間にあった、何処か遠慮したような所、目に見えない壁が無くなった事で、叔父夫婦の二人は安堵したのであった。

叔父夫婦は、それぞれ甥と姪からその理由を聞きだし、その夜、夫婦で互いにその情報を交換した。

『殿、煕子殿がね、旅先で出会った方に、胸にしまっていた悩みを聞いてもらった事で救われたと言ってたわよ』

『そうか、十兵衛も、同じ様な事を・・その僧の方に、今後の生きる方針を学ばせてもらったと・・・』

『十兵衛は、家を大きくする事、家来の一族も含め、自分の家族として、その者達を守るために命を懸けると・・・生真面目なあ奴らしい事を言っておったわ』

『・・どことなくだが、稲葉山城で再会した時の、暗かったあ奴の目・・今のあ奴の目からは想像ができん、ワシにはあ奴の目から、悩みの色が消えた様な気がする・・・』

『煕子殿も、そう・・・なのよ。十兵衛殿の妻として、私は十兵衛殿を支え、その家族を守れるように頑張りますって、何か、私達が心配していた事が・・・バカらしくなるぐらい、豹変しちゃって』

『何か、二人とも、旅先で変なモノでも、食べちゃったのかしらと思うぐらいよ』

『そうだ、十兵衛から見せてもらったのだが。その僧の方からもらった書状なんだが・・・』

宝珠護国禅師ほうじゅこくぜんし 太源 崇孚と書かれていたんじゃ』

『殿、何ですか、その宝珠護国禅師ほうじゅこくぜんしって言うのは?』

戒名かいみょうじゃ・・・多分』

『戒名って、あの死んだ後、お寺様に届け出を出し、頂ける名ですわよね・・?』

『そうじゃ、未だ生きておる僧が、どうしてそんなモノを持っているのかも疑問じゃが』

『国を守る宝であった御坊様という意味じゃ、自分で自分にそんな名前を付ける僧であれば、なんと己惚れた坊様だと思うし、もし、仮に由緒正しき者から受けた御坊様であれば、ワシらが直には会えない程高い地位にある高僧に違いない・・』

『まあ、十兵衛から聞いた話によれば、酒を飲み、鴨鍋を上手そうに食べる御仁で、高僧と言われる方には見られなかったとの事じゃ・・、また、そんな方がたった一人で養老の滝を見物に来るわけが・・』

『殿、宜しいではございませんか、どんな方であれ、二人が感謝した御人、もしかしたら、仏様が二人の事を心配して、出て来られたのかもしれないではないですか・・・イエ、そう思いましょうよ・・』

『そうじゃな、祝言、そうそう、一年も離れ離れになった二人を、同情した仏様が、ギクシャクした二人の関係を治しに来て、下さったのかもしれんな・・・』

『そうですよ、きっと・・』

『はやく、十兵衛と、煕子殿の間に子供が授かれば良いのう・・』

叔父夫婦は、明智家を引き継いでくれる自分達の後継者である十兵衛と煕子の幸せを心から願い、心配していたのであった。

激動の1547年の年は、その後特に大きな事も無く、十兵衛、煕子そして明智城の人々は穏やかに新しき年を迎えたのであった。

年が明け、十兵衛は、叔父光安と共に、主君である斎藤道三に新年の挨拶をする為、2ヶ月ぶりに稲葉山城へ登城する事になる。

ほんの短い間であったが、争いから離れた、穏やかな二人の遅れた新婚生活はこうして終わりを告げたのである。
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