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第7章 遅れてやっときた二人の新婚生活
15.坊主同士のかけひき
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その日、斎藤道三の居城、稲葉山城の一室にて二人の二つの国の重要人物同志が初めて対面していた。
道三は、あえて上座の無い茶室へ太源雪斎を通し、後奈良天皇とも親交を結ぶこの高僧を客人として丁重にもてなしていた。
二人は、先に形式的な挨拶を互いに交わし、その後はもてなす立場である道三が、茶を一杯立てるといい、この部屋に通したのである。
道三は立てた茶を雪斎の前に出すと、雪斎は、ためらいも無く、口をつけ、そして満足そうに一飲みする。
『ウン、美味い。茶も一流だが、なにより美濃の水が絶品ですな。残すつもりが、もう少しで飲み干してしまいそうでした』
『礼儀も、ありゃしませんな。道三様、お許し下され』
雪斎は、ニコニコしながら、道三へそう言った。
『イエイエ、流石は、今川家の柱と呼ばれる御人雪斎様ですな』
『豪胆な御方ですな・・』
毒殺も、少なくないこの時代、初めて出会う者から茶を出され、それを飲む事という行為は、ある種の覚悟が無ければできない事であった。
道三も、涼やかな顔をしながらも、心の底では雪斎という人物の器を、茶の飲み様で判断しようとしたのであった。
(こ奴、ワシの魂胆など、とうに見抜いて・・食えぬ奴じゃ)
道三は、自分の本音を顔には出さず、話題を変える様に、話しを続けた。
『雪斎様の様な、徳の高い方が、我が国へ来ておられるとはつゆしらず、正直、貴方様が我が国に来ていると、雪斎様の家来の方から連絡をうけまして、正直驚きました』
『イエイエ、恥ずかしながら、ワシも齢をとりまして、身体のいたるところが衰えて参りました・・』
『それで、美濃の国の伝説、養老の滝、天下の名水といわれる菊泉水を飲んだら、少しでも若返る事ができないかと、思いましてな・・』
『仏に仕える者が、そのような目的で貴国へ来たと皆に知れたら、恥ずかしいので、内密に訪れておりました・・』
『しかし、ワシに付いて来た我が家(今川)の者に、美濃の国の国主である道三殿に挨拶もせず、帰るのは無礼であろうと、叱られましてな・・』
『・・・恥を忍んで、挨拶に来させてもらいました。』
『フフフッ、雪斎様は、本当に面白い事を申される。挨拶に行かねばならなかったのはワシでござる』
道三がそう言いながら、別に用意してあった茶菓子を、雪斎の前に出す。
『オモロイでっか、ではもっとオモロイ事、申しましょう』
雪斎は、そういうと、持っていた茶碗の中に残る茶を、ズズッと飲み干した。
『オモロイ事とは??』
そう聞いて、雪斎の真意を読もうと、道三はもう一度雪斎の顔をみて、思わずビックリした。
茶を飲み干した後、一息入れた雪斎の目が鋭い眼光で自分を睨んでいたからである。
『道三様が今考えている、尾張のトラ、織田信秀との同盟の件、少し待ってはくれませんかな・・』
『・・・・何を・・、何処でソレを?』
道三は、咄嗟に、言い訳を考え、その後直ぐに、それが叶わない事だと悟り、そして思わず、問いかけるように言葉が出てしまった。
『‥‥。』
『来年、三河の松平広忠を総大将にして、我が家は織田信秀に合戦をしかけますねん』
『その時、道三様に織田を助けられると、困りますのじゃ』
『今日、ワシが此処に来た本当の目的は、斎藤家が織田家と組む前に、我が家と組みましょう・・・と、お誘いしたくて』
『・・・どうでっか??・・・これ、美味しそうですな、一個貰います。』
雪斎は、そう言うと、道三が進めた茶菓子を素手でつかみ、ヒョイッと口に入れる。
『・・・ウン、美味い。この茶菓子も、最高や・・』
緊張感の無い雪斎の喋りとは、裏腹に、絶句していた道三は、ようやく思考がまとまったのか、ユックリと口を開く。
『でッ、我が家が今川家に協力する事の見返りは・・・??』
『今度の戦は、何も、尾張の国を滅ぼすとか、そういう戦ではありゃしません』
『我が家に人質に来る筈だった、松平広忠の嫡男、竹千代殿を取り戻す為のモンです。』
『息子を盗られた松平広忠が、息子可愛さが勝って、何時尾張に寝返るかと思うと、ワシは夜も眠れませんのや』
『ワシの考えは、仕返しや』
『戦になったら、誰でもイイから、織田信秀の息子を捕まえます。それがなったら、その人と竹千代さんと交換して手締めとする』
『子供を取り戻してくれた今川家を、広忠は、今迄以上に我が家に忠誠を誓うと思いませんか?』
『・・・ですから、雪斎殿、我が家への見返りは、イエ、益は何ですか?』
『・・・ンン、強いていえば、織田信秀を見定めれる、という事ですかな。』
『道三様と織田家が同盟する、つまり家族になるって事でっしゃろ。手締めの条件は、子供同士の交換や・・。無慈悲にも、自分の子どもを見殺しにするんやったら、道三様、そんな処に大事な子、送れんわな・・まあ、その時は、我が今川家から姫を斎藤家へ嫁がせてもよろしいです。それ良いとは思いませんか??』
『もう一つは、我らとの合戦の後、織田信秀は、ますます美濃の国と同盟したくなるはずです。』
『今焦って、織田家と同盟をするより、チョット様子を見た方が、斎藤家が織田家に恩を売る形での同盟にはなりませんかな。』
『チョット待って、様子を見た方が得でっしゃろっという話や』
(この男は、交渉が巧みだ・・・説明が上手い、何よりワシより先をみている)
ズズッと音をだし、茶碗にちょっとだけ残った最後のお茶を啜る雪斎の姿をみながら、雪斎の交渉の巧みさ、先見性を認め、道三は暫定的に今川家に協力する事を決めたのであった。
道三は、あえて上座の無い茶室へ太源雪斎を通し、後奈良天皇とも親交を結ぶこの高僧を客人として丁重にもてなしていた。
二人は、先に形式的な挨拶を互いに交わし、その後はもてなす立場である道三が、茶を一杯立てるといい、この部屋に通したのである。
道三は立てた茶を雪斎の前に出すと、雪斎は、ためらいも無く、口をつけ、そして満足そうに一飲みする。
『ウン、美味い。茶も一流だが、なにより美濃の水が絶品ですな。残すつもりが、もう少しで飲み干してしまいそうでした』
『礼儀も、ありゃしませんな。道三様、お許し下され』
雪斎は、ニコニコしながら、道三へそう言った。
『イエイエ、流石は、今川家の柱と呼ばれる御人雪斎様ですな』
『豪胆な御方ですな・・』
毒殺も、少なくないこの時代、初めて出会う者から茶を出され、それを飲む事という行為は、ある種の覚悟が無ければできない事であった。
道三も、涼やかな顔をしながらも、心の底では雪斎という人物の器を、茶の飲み様で判断しようとしたのであった。
(こ奴、ワシの魂胆など、とうに見抜いて・・食えぬ奴じゃ)
道三は、自分の本音を顔には出さず、話題を変える様に、話しを続けた。
『雪斎様の様な、徳の高い方が、我が国へ来ておられるとはつゆしらず、正直、貴方様が我が国に来ていると、雪斎様の家来の方から連絡をうけまして、正直驚きました』
『イエイエ、恥ずかしながら、ワシも齢をとりまして、身体のいたるところが衰えて参りました・・』
『それで、美濃の国の伝説、養老の滝、天下の名水といわれる菊泉水を飲んだら、少しでも若返る事ができないかと、思いましてな・・』
『仏に仕える者が、そのような目的で貴国へ来たと皆に知れたら、恥ずかしいので、内密に訪れておりました・・』
『しかし、ワシに付いて来た我が家(今川)の者に、美濃の国の国主である道三殿に挨拶もせず、帰るのは無礼であろうと、叱られましてな・・』
『・・・恥を忍んで、挨拶に来させてもらいました。』
『フフフッ、雪斎様は、本当に面白い事を申される。挨拶に行かねばならなかったのはワシでござる』
道三がそう言いながら、別に用意してあった茶菓子を、雪斎の前に出す。
『オモロイでっか、ではもっとオモロイ事、申しましょう』
雪斎は、そういうと、持っていた茶碗の中に残る茶を、ズズッと飲み干した。
『オモロイ事とは??』
そう聞いて、雪斎の真意を読もうと、道三はもう一度雪斎の顔をみて、思わずビックリした。
茶を飲み干した後、一息入れた雪斎の目が鋭い眼光で自分を睨んでいたからである。
『道三様が今考えている、尾張のトラ、織田信秀との同盟の件、少し待ってはくれませんかな・・』
『・・・・何を・・、何処でソレを?』
道三は、咄嗟に、言い訳を考え、その後直ぐに、それが叶わない事だと悟り、そして思わず、問いかけるように言葉が出てしまった。
『‥‥。』
『来年、三河の松平広忠を総大将にして、我が家は織田信秀に合戦をしかけますねん』
『その時、道三様に織田を助けられると、困りますのじゃ』
『今日、ワシが此処に来た本当の目的は、斎藤家が織田家と組む前に、我が家と組みましょう・・・と、お誘いしたくて』
『・・・どうでっか??・・・これ、美味しそうですな、一個貰います。』
雪斎は、そう言うと、道三が進めた茶菓子を素手でつかみ、ヒョイッと口に入れる。
『・・・ウン、美味い。この茶菓子も、最高や・・』
緊張感の無い雪斎の喋りとは、裏腹に、絶句していた道三は、ようやく思考がまとまったのか、ユックリと口を開く。
『でッ、我が家が今川家に協力する事の見返りは・・・??』
『今度の戦は、何も、尾張の国を滅ぼすとか、そういう戦ではありゃしません』
『我が家に人質に来る筈だった、松平広忠の嫡男、竹千代殿を取り戻す為のモンです。』
『息子を盗られた松平広忠が、息子可愛さが勝って、何時尾張に寝返るかと思うと、ワシは夜も眠れませんのや』
『ワシの考えは、仕返しや』
『戦になったら、誰でもイイから、織田信秀の息子を捕まえます。それがなったら、その人と竹千代さんと交換して手締めとする』
『子供を取り戻してくれた今川家を、広忠は、今迄以上に我が家に忠誠を誓うと思いませんか?』
『・・・ですから、雪斎殿、我が家への見返りは、イエ、益は何ですか?』
『・・・ンン、強いていえば、織田信秀を見定めれる、という事ですかな。』
『道三様と織田家が同盟する、つまり家族になるって事でっしゃろ。手締めの条件は、子供同士の交換や・・。無慈悲にも、自分の子どもを見殺しにするんやったら、道三様、そんな処に大事な子、送れんわな・・まあ、その時は、我が今川家から姫を斎藤家へ嫁がせてもよろしいです。それ良いとは思いませんか??』
『もう一つは、我らとの合戦の後、織田信秀は、ますます美濃の国と同盟したくなるはずです。』
『今焦って、織田家と同盟をするより、チョット様子を見た方が、斎藤家が織田家に恩を売る形での同盟にはなりませんかな。』
『チョット待って、様子を見た方が得でっしゃろっという話や』
(この男は、交渉が巧みだ・・・説明が上手い、何よりワシより先をみている)
ズズッと音をだし、茶碗にちょっとだけ残った最後のお茶を啜る雪斎の姿をみながら、雪斎の交渉の巧みさ、先見性を認め、道三は暫定的に今川家に協力する事を決めたのであった。
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