王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

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第7章 遅れてやっときた二人の新婚生活

14.別れの朝

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『・・・十兵衛、~様、貴方、起きてください・・・生きてらっしゃいますか?』

(・・、声が・・・)

十兵衛がゆっくりと目を開けると、其処には十兵衛の顔をジッと見る煕子の顔があった。

『煕子・・・スマヌ、私はどうやら寝てしまったようだ・・斎雪殿は・・?』

何時もと変わらない、十兵衛の顔を見て、煕子の顔から安堵の笑みが零れる。

『昨夜、十兵衛様が寝てしまったのを確認すると、自分の部屋へ戻って行かれました・・』

『そうか・・、それは悪い事をしたな・・・』

窓から外をみると、既に明るかった。

(もう、朝か・・・もう少ししてから、隣の斎雪殿の部屋に行って、昨夜の事を謝りにいかねば・・なるまい)

十兵衛がそんな事を考えながら、自分の背中に掛けられていた布団をたたんでいると、隣の部屋の襖が開く音がした。

『十兵衛はん、煕子はん、もう起きているやろ・・開けるが宜しいか?』

元気な斎雪の声が襖ごしに聞こえる。

未だ少しボンヤリしている十兵衛とは裏腹に、煕子が素早くその声に反応する。

『起きております。丁度、夫も今起きました。今、ふすまを開けますので、少々お待ち下さい・・』

『貴方、宜しいですね・・』

煕子は、十兵衛に聞くのではなく、十兵衛の目を見て合図の様にそう言うと、立ち上がり襖の傍まで行き、開けた。

十兵衛も、襖が開くタイミングで立ち上がる。

『煕子ハン、おはようさん!、十兵衛はん、頭はイトウ無いか??』

『ア、ハイ、昨日はかなり飲んだのですが・・・、全く痛くありません』

斎雪の問いかけに、十兵衛は自分でも驚いているという様に自分の頭を触りながらそう答えた。

『そっか、それは良かった。良い酒とは、そういうモンですねん』

『昨日は、ワシも二人のお蔭で美味しい夕食を食べさせてもらった。ありがとさんや。』

斎雪はそう言うと、ニコニコしながら二人に対して、軽くお辞儀をする。

『昨日は、色々と迷惑かけましたな、ワテ、今日用事があるから、これから直ぐ出ますのや・・』

『最後に、御二人に挨拶だけでもと思ってな・・・』

『この世を海に例えれば、荒波の場所も多くある。二人の船がその荒波を上手くかわしていけるように及ばずながら、ワテ祈っております』

『十兵衛はん、昨日の御礼に、何かあげれればいいと思ったが、何も無いから、コレ受け取って下され・・』

斎雪は、そう言って十兵衛の場所まで近づき、手に持った書状を十兵衛に手渡した。

『斎雪殿、此れは?』

『ワテから二人への感謝状じゃよ・・・』

『見ても宜しいですか・・?』

『エエよ。ワテの達筆な字、褒めてェ下され』

十兵衛は、受け取ったその書状を丁寧に開け、読んだ。

書状には、自らが達筆な字というだけあって、綺麗な字でこう書かれていた。

この者は、明智十兵衛と申す者である。

この者は、かって私を助け、私が恩を受けた者である。

もしこの者が困っている事があれば、私に代わって助けてやって頂ければ幸いです。

天文16年 宝珠護国禅師ほうじゅごこくぜんし 太源 崇孚そうふ

『斎雪殿、何ですか、このソウフというお名前は、又、ホウジュゴコクゼンシとは、何とも縁起の良さそうな・・・』

『ワテ、こう見えても、坊さんとして、結構名が通ってるんよ。お偉いさんが、ワテにくれた名がそれや』

『まあ、こんなモノが役に立つような事が起こらなければ、一番いいのだけど・・』

『ワテの事が懐かしくなったら、この書状でも見てくれはれ』

『オオッと、もう時間が来てもうたあ、それじゃ、煕子ハンも、十兵衛はんも身体だけには気いつけてな!』

『ホナ、ネ!見送らんでぇ、エエよ。此処でヨロシ、ユックリ休んで下され!』

斎雪は、そういうとイソイソと、二人の部屋を後にした。

『なんとも、元気な人だったな』

『エエ、面白くて、それでとても優しい人でしたね』

斎雪が居なくなり、一瞬にして静かになった部屋で、二人は少し寂しさを感じながらシミジミとそう言葉を交わしたのであった。

二人の居る宿屋から足早に出てきた斎雪に、直ぐに一人の男が見つけ、その男が待機させていた籠へ斎雪を誘導する。

籠に乗った斎雪が、籠の直ぐ傍にいる男へ向け、小さな声を出す。

『首尾は、どうじゃ??』

『ハッ!、斎藤道三殿より、雪斎殿を丁重にお連れしろと、先ずは、道三殿側近稲葉一鉄という武将と合流し、その足で稲葉山城へ向かう段取りとなっております』

『ウム、着るモノを替えなければなるまい・・』

『美濃のマムシと言われている人物じゃ、すんなりとはいくまい・・』

『さてさて、十兵衛はんの主君は、どんな顔をしてはりますかな・・』

『まさか、大事な交渉の前に、交渉相手の事前情報が得られるとは、仏の縁とは有り難し・・』

斎雪と名を偽っていた男の顔が、変わる。

今川家の黒衣の宰相太源雪斎は、偶然出会った二人の若夫婦の顔を思い出し、自分の信じる仏に向けて小さな声で念仏を唱えたのであった。
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