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第二章 近づく夏
19th Mov. お店とおうち
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楽器メーカーのサービスで電子ピアノのレンタルという物を発見したことで、楽器の入手について目途が立った。
それもこれも全て伏見さんのおかげなので、本当に頭が上がらないな。
「今日はありがとう。楽器の見通しも立ったし、無事にピアノ始められそうだよ」
「いえいえ~。どういたしまして。これで私たちピアノ仲間だね!」
「そうだね。これからも色々と教えてもらうことになるかもしれないけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。これからは、たくさん話そうね! なんか、一仕事終えたらお腹すいてきちゃった」
店内の時計に目をやると、今は11時前。少しお昼には早いけど、彼女のアシストを無駄には出来ない。ここまでお膳立てが整えば、僕にだって誘える。
「そ、そう? それなら、今日のお礼にお昼ご飯食べに行かない? ご馳走するよ」
「え~、嬉しいけどご馳走してもらうほどじゃないよ。あっ、でもご飯食べに行く前に、楽譜も見ていって良いかな?」
「全然良いよ。新しい曲の練習に?」
「ううん。教えている子の次の曲選びをしたくてね」
「伏見さんってレッスンを受け持ってるの?」
「そうなの。ちょっとずつだけどね。この間の発表会の影響なのか、私に習いたいって言ってくれる人が増えちゃって」
それって、もう先生として働いているってことだよな。
自分が学んできた技術が仕事になるなんて。高校一年生で、そんなこと出来る人はどれくらいいるのだろうか。
例え、この広い世界にそんなことが出来る人がいたとしても、ごく少数の限られた人だと思う。
「それって凄いじゃないか! あれだけの演奏なら習いたいって思って当然だよ。僕もそう思ったし!」
「ありがたいことなんだけど、自分で弾くのと、教えるのとじゃ全然勝手が違って難しくてね。いろいろ勉強中なの」
「そうなのか。僕にはどっちも分らない世界だけど、きっと大変なんだろうね。だけどさ、それでも伏見さんは先生なんだよな。それは、やっぱり凄いことだと思うよ」
「そう言ってもらえると少し自信が湧いてきたかも。うまくいかなくて自信喪失中だったし」
伏見さんは、そう言いながら少し表情を暗くする。この時は、あれだけピアノを弾けても、教えることでは、ここまで悩むものなんだなと他人事のように思っていた。
少しして気を取り直した彼女と共に、楽譜を探し、お昼のお店選びに駅ビルを出る。
「野田君は何食べたい?」
「伏見さんへのお礼なんだから、伏見さんの好きなものを食べに行こうよ。いくつか候補は探してあるんだ」
「おお~、準備が良いですな~。でもね、この前の発表会後も私の好きなお店にしてもらったし……。そうだ、野田君は何が好き?」
「えっ? 僕? 僕は……、カレーかな」
「カレー! 良いね! 今日はカレーにしよう! ちなみにカレーのお店の候補はあるの?」
「うん、一応」
僕自身がカレーが好きだったからかもしれなけど、比較的早めに候補に入れていたお店がある。ここからも、そう遠くない。
「じゃ、決定! 案内よろしくね」
お店が決まったことで、僕たちは候補の一つの店に向かった。駅から近い店を選んでいたこともあって、5分ほどで到着。ランチには早い時間ということもあり、お店はすいていた。
四人掛けのゆったりしたテーブル席。
伏見さんと向い合せ。
学校でもこうやって座って食べることはあるけど、なんか違う。
あれ、普段と違って、化粧しているのかな? いつもより可愛く見える。
まじまじと見過ぎてしまったからか、彼女と目が合ってしまった。恥ずかしなって、すぐに目を逸らす。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。メニューどうしようか」
「どれも美味しそうだね。さすが野田君チョイス」
「ありがとう。カレーだけでも、いろいろあって目移りしちゃうね」
「野田君はどんなカレーが好き? このお店に限らずで」
「僕は家で食べるような普通のやつが好きかな」
「わかる~。結局、一周回っておうちのカレーに落ち着くんだよね。お母さん忙しいから、カレーは良く出るんだけどさ、やっぱり、なんだかんだ言ってそれが一番なの」
「そうだよね。お店だとカツ乗ってたり、チーズ乗ってたり種類はたくさんあるけど、母さんのやつが落ち着くっていうか」
「あぁ~! なんか気分がそっちに行っちゃいそう。これ以上迷わないように早く頼んじゃおうよ!」
伏見さんの意見に全面的に同意だったので、必死にメニューとにらめっこする。
日本人向けにアレンジされたカレーのようで、ナンはなく、ライスで食べるようだ。チキン、ラム、ビーフにポーク。肉だけでも多いのに、シーフードに野菜まで。
結局、僕は決めきれずに日替わりのランチにしてしまった。
問題はそれくらいで、二人きりのランチでは穏やかな時間が進んだ。
もっぱら伏見さんが話題を提供してくれて、僕が返事をする。それがランチでの会話だった。
少し情けない気もするけど、コロコロと変わる話題と彼女の表情。
それを見ながら過ごす時間は、とても自然で心地良かった。
それもこれも全て伏見さんのおかげなので、本当に頭が上がらないな。
「今日はありがとう。楽器の見通しも立ったし、無事にピアノ始められそうだよ」
「いえいえ~。どういたしまして。これで私たちピアノ仲間だね!」
「そうだね。これからも色々と教えてもらうことになるかもしれないけど、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。これからは、たくさん話そうね! なんか、一仕事終えたらお腹すいてきちゃった」
店内の時計に目をやると、今は11時前。少しお昼には早いけど、彼女のアシストを無駄には出来ない。ここまでお膳立てが整えば、僕にだって誘える。
「そ、そう? それなら、今日のお礼にお昼ご飯食べに行かない? ご馳走するよ」
「え~、嬉しいけどご馳走してもらうほどじゃないよ。あっ、でもご飯食べに行く前に、楽譜も見ていって良いかな?」
「全然良いよ。新しい曲の練習に?」
「ううん。教えている子の次の曲選びをしたくてね」
「伏見さんってレッスンを受け持ってるの?」
「そうなの。ちょっとずつだけどね。この間の発表会の影響なのか、私に習いたいって言ってくれる人が増えちゃって」
それって、もう先生として働いているってことだよな。
自分が学んできた技術が仕事になるなんて。高校一年生で、そんなこと出来る人はどれくらいいるのだろうか。
例え、この広い世界にそんなことが出来る人がいたとしても、ごく少数の限られた人だと思う。
「それって凄いじゃないか! あれだけの演奏なら習いたいって思って当然だよ。僕もそう思ったし!」
「ありがたいことなんだけど、自分で弾くのと、教えるのとじゃ全然勝手が違って難しくてね。いろいろ勉強中なの」
「そうなのか。僕にはどっちも分らない世界だけど、きっと大変なんだろうね。だけどさ、それでも伏見さんは先生なんだよな。それは、やっぱり凄いことだと思うよ」
「そう言ってもらえると少し自信が湧いてきたかも。うまくいかなくて自信喪失中だったし」
伏見さんは、そう言いながら少し表情を暗くする。この時は、あれだけピアノを弾けても、教えることでは、ここまで悩むものなんだなと他人事のように思っていた。
少しして気を取り直した彼女と共に、楽譜を探し、お昼のお店選びに駅ビルを出る。
「野田君は何食べたい?」
「伏見さんへのお礼なんだから、伏見さんの好きなものを食べに行こうよ。いくつか候補は探してあるんだ」
「おお~、準備が良いですな~。でもね、この前の発表会後も私の好きなお店にしてもらったし……。そうだ、野田君は何が好き?」
「えっ? 僕? 僕は……、カレーかな」
「カレー! 良いね! 今日はカレーにしよう! ちなみにカレーのお店の候補はあるの?」
「うん、一応」
僕自身がカレーが好きだったからかもしれなけど、比較的早めに候補に入れていたお店がある。ここからも、そう遠くない。
「じゃ、決定! 案内よろしくね」
お店が決まったことで、僕たちは候補の一つの店に向かった。駅から近い店を選んでいたこともあって、5分ほどで到着。ランチには早い時間ということもあり、お店はすいていた。
四人掛けのゆったりしたテーブル席。
伏見さんと向い合せ。
学校でもこうやって座って食べることはあるけど、なんか違う。
あれ、普段と違って、化粧しているのかな? いつもより可愛く見える。
まじまじと見過ぎてしまったからか、彼女と目が合ってしまった。恥ずかしなって、すぐに目を逸らす。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。メニューどうしようか」
「どれも美味しそうだね。さすが野田君チョイス」
「ありがとう。カレーだけでも、いろいろあって目移りしちゃうね」
「野田君はどんなカレーが好き? このお店に限らずで」
「僕は家で食べるような普通のやつが好きかな」
「わかる~。結局、一周回っておうちのカレーに落ち着くんだよね。お母さん忙しいから、カレーは良く出るんだけどさ、やっぱり、なんだかんだ言ってそれが一番なの」
「そうだよね。お店だとカツ乗ってたり、チーズ乗ってたり種類はたくさんあるけど、母さんのやつが落ち着くっていうか」
「あぁ~! なんか気分がそっちに行っちゃいそう。これ以上迷わないように早く頼んじゃおうよ!」
伏見さんの意見に全面的に同意だったので、必死にメニューとにらめっこする。
日本人向けにアレンジされたカレーのようで、ナンはなく、ライスで食べるようだ。チキン、ラム、ビーフにポーク。肉だけでも多いのに、シーフードに野菜まで。
結局、僕は決めきれずに日替わりのランチにしてしまった。
問題はそれくらいで、二人きりのランチでは穏やかな時間が進んだ。
もっぱら伏見さんが話題を提供してくれて、僕が返事をする。それがランチでの会話だった。
少し情けない気もするけど、コロコロと変わる話題と彼女の表情。
それを見ながら過ごす時間は、とても自然で心地良かった。
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