お江戸を舞台にスイーツが取り持つ、 ~天狐と隼人の恋道場~

赤井ちひろ

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1一膳飯やの恋レシピ ~ツンデレ天ちゃん奔走記~

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「ただいまー」
 生暖かい風と一緒に天狐てんこの陽気な声が、扉の隙間から入ってくる。
「今日忙しいんだ。半殺しすぐ手伝えるか」
「半殺しやね。そんなん余裕やよ。朝飯前なんじゃー」
 お江戸の町は人情にあふれ、隣の子供はわが子の様にしかりもしたし、褒めもした。
 暖かい日差しに、温かい人間味。
 刀を持った怖い人たちも沢山いるけれど、それでも天ちゃんはこの町とこの一膳めし屋が大好きだった。
 小さい時に天涯孤独になったひとりぼっちの天ちゃんは、この一膳めし屋で拾ってもらったのだった。


 時を遡る事三年前。
「おめさん、どうしたんだ?」
 うずくまって、まるで何かから怯えているようなそんな様子の女の子は、俺が声をかけたことでびくっと肩をすくませ恐る恐る顔を上げた。
「………………」
「ん?」
「なんでも……無い」
 俺はあたりを見回したが、親らしきひとはいなかった。
「おっかーは?」
 女の子は首を横に振った。
「おっとーは?」
 またもや首を振った。
「一人なのか?」
 今度は小さく、ようく見ないとそれとはわからないような小ささで頷いた。
「飯食わせてやる。一緒においで」
「……」
 またもや首を横に振る。
「腹減っていないのか?」
「うん」
 かろうじて紡いだ言葉とは裏腹に、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「腹は正直なのだな」
 爆笑した俺はその場でその子を抱え上げていた。
「待って待ってって言うとる」
 小さな声で肩をポカポカ叩きながら大きな眼をウルルとさせていた。
「待たんよ。我が家の家訓なのだ。腹は満たさねばならんよ」
「かこん?」
家訓かくん だ」
「家訓って何じゃ?」
「その家に代々伝わる、守らねばならない言い伝えのようなものだよ」
 ざっくりと説明した俺は温かな味噌汁と麦飯に新香をつけてやった。
 

 女の子は優しそうな、いい匂いのするおじさんに抱かれて目の前のご飯をたいらげていく。
 これが天狐と隼人の出会いであった。
 【家訓・腹の減った奴には食べさせてあげなさい】

 

 
「隼人ー!今日のご飯は白米となーにって宿場町で旅人さんたちに聞かれたんじゃー」
 寺子屋の帰り道、宿場町を通りながら我が家に帰る天ちゃんはお江戸の顔だ。
 宿場町で泊まるちょっとお金のある旅人でさえ、お江戸のビーナス天狐てんこに会いに一膳めし屋【天天】に行く。
 

 
 この一膳めし屋は名を【天天】と言った。
 天狐を拾ったその日、あまりにも遠慮ばかりするその少女に、居場所を作ってやろうと屋号を変えたのだ。

「普通お店の名前とかえんじゃろー」
「別段問題はないだろう?」
「そうじゃけど」
 隼人はそんなのどこ吹く風だ。
「それより新作を考えたんだ」
 
「今日振売りが良い焼きトウモロコシを持っていたんだよ」
「焼きトウモロコシ?」
「ああこれさ」
 器に入った黒いどろどろの汁の中にトウモロコシを臼で潰して白米を半殺しにして火で炙った団子が入っていた。
「これトウモロコシ?」
「トウモロコシ汁粉だよ」

「うへー。微妙じゃー」
「一口食ってみろ。奇跡のトウモロコシだぞ」
「言い過ぎなんちゃう?」
 天狐は眉をひそめ二歩ほど下がったものの、大好きな隼人の謎レシピ……だ。不味くたって美味しい。
 覚悟を決めて一口……
「いただきまーす」

 ん?謎レシピなんか美味しい?
「美味しい……?」
「だからクエスチョンとかいらないのだよ!美味しいに決まっているだろう?」
「いや、決まってないじゃろ……」
 二人は新しいレシピの料理を食べながら、旅行く人たちの幸せな顔を思い描くのだった。


 
 【黄色い半殺し】
 ♢白米→半分潰す
 ♢焼きトウモロコシ→バラバラにばらす
 ♢砂糖と小豆で作った汁粉を作る
 ♢白米にトウモロコシをまぜ丁寧に両面焼く

  器に焼きまんじゅうを入れて汁粉をかける。

 
「天ちゃん!今日のおすすめ一個ねー」
「こっちも二個ねー」
 
 暖かい穏やかな日差しの差し掛かる秋の夕暮れ時。

「はいはい、もううるさいわー。あわてんでもきちんと持っていくんじゃ。五銭用意してまっときー。あっ二個じゃったら十銭じゃからな!まけへんよ」
「そもそもあんたら女同士で食べにこんと、好きな人と食べにきーやー。甘々レシピは恋に最強じゃー」

 今日もツンデレ天ちゃんの笑い声が響く。
 
 

 このお江戸の町には二つの宝があるという……。
 一つはお江戸一の腕前を誇る美丈夫な板前・隼人。もう一つはちょっとツンデレのお江戸のビーナスだ。
 

 
 
 
 
 






 

 
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