1 / 14
1一膳飯やの恋レシピ ~ツンデレ天ちゃん奔走記~
しおりを挟む
「ただいまー」
生暖かい風と一緒に天狐の陽気な声が、扉の隙間から入ってくる。
「今日忙しいんだ。半殺しすぐ手伝えるか」
「半殺しやね。そんなん余裕やよ。朝飯前なんじゃー」
お江戸の町は人情にあふれ、隣の子供はわが子の様にしかりもしたし、褒めもした。
暖かい日差しに、温かい人間味。
刀を持った怖い人たちも沢山いるけれど、それでも天ちゃんはこの町とこの一膳めし屋が大好きだった。
小さい時に天涯孤独になったひとりぼっちの天ちゃんは、この一膳めし屋で拾ってもらったのだった。
時を遡る事三年前。
「おめさん、どうしたんだ?」
うずくまって、まるで何かから怯えているようなそんな様子の女の子は、俺が声をかけたことでびくっと肩をすくませ恐る恐る顔を上げた。
「………………」
「ん?」
「なんでも……無い」
俺はあたりを見回したが、親らしきひとはいなかった。
「おっかーは?」
女の子は首を横に振った。
「おっとーは?」
またもや首を振った。
「一人なのか?」
今度は小さく、ようく見ないとそれとはわからないような小ささで頷いた。
「飯食わせてやる。一緒においで」
「……」
またもや首を横に振る。
「腹減っていないのか?」
「うん」
かろうじて紡いだ言葉とは裏腹に、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「腹は正直なのだな」
爆笑した俺はその場でその子を抱え上げていた。
「待って待ってって言うとる」
小さな声で肩をポカポカ叩きながら大きな眼をウルルとさせていた。
「待たんよ。我が家の家訓なのだ。腹は満たさねばならんよ」
「かこん?」
「家訓 だ」
「家訓って何じゃ?」
「その家に代々伝わる、守らねばならない言い伝えのようなものだよ」
ざっくりと説明した俺は温かな味噌汁と麦飯に新香をつけてやった。
女の子は優しそうな、いい匂いのするおじさんに抱かれて目の前のご飯をたいらげていく。
これが天狐と隼人の出会いであった。
【家訓・腹の減った奴には食べさせてあげなさい】
「隼人ー!今日のご飯は白米となーにって宿場町で旅人さんたちに聞かれたんじゃー」
寺子屋の帰り道、宿場町を通りながら我が家に帰る天ちゃんはお江戸の顔だ。
宿場町で泊まるちょっとお金のある旅人でさえ、お江戸のビーナス天狐に会いに一膳めし屋【天天】に行く。
この一膳めし屋は名を【天天】と言った。
天狐を拾ったその日、あまりにも遠慮ばかりするその少女に、居場所を作ってやろうと屋号を変えたのだ。
「普通お店の名前とかえんじゃろー」
「別段問題はないだろう?」
「そうじゃけど」
隼人はそんなのどこ吹く風だ。
「それより新作を考えたんだ」
「今日振売りが良い焼きトウモロコシを持っていたんだよ」
「焼きトウモロコシ?」
「ああこれさ」
器に入った黒いどろどろの汁の中にトウモロコシを臼で潰して白米を半殺しにして火で炙った団子が入っていた。
「これトウモロコシ?」
「トウモロコシ汁粉だよ」
「うへー。微妙じゃー」
「一口食ってみろ。奇跡のトウモロコシだぞ」
「言い過ぎなんちゃう?」
天狐は眉をひそめ二歩ほど下がったものの、大好きな隼人の謎レシピ……だ。不味くたって美味しい。
覚悟を決めて一口……
「いただきまーす」
ん?謎レシピなんか美味しい?
「美味しい……?」
「だからクエスチョンとかいらないのだよ!美味しいに決まっているだろう?」
「いや、決まってないじゃろ……」
二人は新しいレシピの料理を食べながら、旅行く人たちの幸せな顔を思い描くのだった。
【黄色い半殺し】
♢白米→半分潰す
♢焼きトウモロコシ→バラバラにばらす
♢砂糖と小豆で作った汁粉を作る
♢白米にトウモロコシをまぜ丁寧に両面焼く
器に焼きまんじゅうを入れて汁粉をかける。
「天ちゃん!今日のおすすめ一個ねー」
「こっちも二個ねー」
暖かい穏やかな日差しの差し掛かる秋の夕暮れ時。
「はいはい、もううるさいわー。あわてんでもきちんと持っていくんじゃ。五銭用意してまっときー。あっ二個じゃったら十銭じゃからな!まけへんよ」
「そもそもあんたら女同士で食べにこんと、好きな人と食べにきーやー。甘々レシピは恋に最強じゃー」
今日もツンデレ天ちゃんの笑い声が響く。
このお江戸の町には二つの宝があるという……。
一つはお江戸一の腕前を誇る美丈夫な板前・隼人。もう一つはちょっとツンデレのお江戸のビーナスだ。
生暖かい風と一緒に天狐の陽気な声が、扉の隙間から入ってくる。
「今日忙しいんだ。半殺しすぐ手伝えるか」
「半殺しやね。そんなん余裕やよ。朝飯前なんじゃー」
お江戸の町は人情にあふれ、隣の子供はわが子の様にしかりもしたし、褒めもした。
暖かい日差しに、温かい人間味。
刀を持った怖い人たちも沢山いるけれど、それでも天ちゃんはこの町とこの一膳めし屋が大好きだった。
小さい時に天涯孤独になったひとりぼっちの天ちゃんは、この一膳めし屋で拾ってもらったのだった。
時を遡る事三年前。
「おめさん、どうしたんだ?」
うずくまって、まるで何かから怯えているようなそんな様子の女の子は、俺が声をかけたことでびくっと肩をすくませ恐る恐る顔を上げた。
「………………」
「ん?」
「なんでも……無い」
俺はあたりを見回したが、親らしきひとはいなかった。
「おっかーは?」
女の子は首を横に振った。
「おっとーは?」
またもや首を振った。
「一人なのか?」
今度は小さく、ようく見ないとそれとはわからないような小ささで頷いた。
「飯食わせてやる。一緒においで」
「……」
またもや首を横に振る。
「腹減っていないのか?」
「うん」
かろうじて紡いだ言葉とは裏腹に、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「腹は正直なのだな」
爆笑した俺はその場でその子を抱え上げていた。
「待って待ってって言うとる」
小さな声で肩をポカポカ叩きながら大きな眼をウルルとさせていた。
「待たんよ。我が家の家訓なのだ。腹は満たさねばならんよ」
「かこん?」
「家訓 だ」
「家訓って何じゃ?」
「その家に代々伝わる、守らねばならない言い伝えのようなものだよ」
ざっくりと説明した俺は温かな味噌汁と麦飯に新香をつけてやった。
女の子は優しそうな、いい匂いのするおじさんに抱かれて目の前のご飯をたいらげていく。
これが天狐と隼人の出会いであった。
【家訓・腹の減った奴には食べさせてあげなさい】
「隼人ー!今日のご飯は白米となーにって宿場町で旅人さんたちに聞かれたんじゃー」
寺子屋の帰り道、宿場町を通りながら我が家に帰る天ちゃんはお江戸の顔だ。
宿場町で泊まるちょっとお金のある旅人でさえ、お江戸のビーナス天狐に会いに一膳めし屋【天天】に行く。
この一膳めし屋は名を【天天】と言った。
天狐を拾ったその日、あまりにも遠慮ばかりするその少女に、居場所を作ってやろうと屋号を変えたのだ。
「普通お店の名前とかえんじゃろー」
「別段問題はないだろう?」
「そうじゃけど」
隼人はそんなのどこ吹く風だ。
「それより新作を考えたんだ」
「今日振売りが良い焼きトウモロコシを持っていたんだよ」
「焼きトウモロコシ?」
「ああこれさ」
器に入った黒いどろどろの汁の中にトウモロコシを臼で潰して白米を半殺しにして火で炙った団子が入っていた。
「これトウモロコシ?」
「トウモロコシ汁粉だよ」
「うへー。微妙じゃー」
「一口食ってみろ。奇跡のトウモロコシだぞ」
「言い過ぎなんちゃう?」
天狐は眉をひそめ二歩ほど下がったものの、大好きな隼人の謎レシピ……だ。不味くたって美味しい。
覚悟を決めて一口……
「いただきまーす」
ん?謎レシピなんか美味しい?
「美味しい……?」
「だからクエスチョンとかいらないのだよ!美味しいに決まっているだろう?」
「いや、決まってないじゃろ……」
二人は新しいレシピの料理を食べながら、旅行く人たちの幸せな顔を思い描くのだった。
【黄色い半殺し】
♢白米→半分潰す
♢焼きトウモロコシ→バラバラにばらす
♢砂糖と小豆で作った汁粉を作る
♢白米にトウモロコシをまぜ丁寧に両面焼く
器に焼きまんじゅうを入れて汁粉をかける。
「天ちゃん!今日のおすすめ一個ねー」
「こっちも二個ねー」
暖かい穏やかな日差しの差し掛かる秋の夕暮れ時。
「はいはい、もううるさいわー。あわてんでもきちんと持っていくんじゃ。五銭用意してまっときー。あっ二個じゃったら十銭じゃからな!まけへんよ」
「そもそもあんたら女同士で食べにこんと、好きな人と食べにきーやー。甘々レシピは恋に最強じゃー」
今日もツンデレ天ちゃんの笑い声が響く。
このお江戸の町には二つの宝があるという……。
一つはお江戸一の腕前を誇る美丈夫な板前・隼人。もう一つはちょっとツンデレのお江戸のビーナスだ。
0
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる