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第一章 魔力無し転生者は冒険者を目指す
第二十話 ポーカー対決
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次の日目を覚ましスマホで時間を確認すると午前9時と表示されていた。今日は休日なわけでも遅刻なわけでもない。
昨日の夜、いや、今日の深夜と言うべきか。にエレイン先生に明日は授業に参加せずに部屋で待機しているように言われた。きっと俺たちの処分を言い渡すためだろう。ジュリアスはその場に居ただけだから大丈夫だろうが、俺は最悪退学だろうな。ま、別に後悔はない。学園に通う目的は冒険者になるためだけだからな。ま、冒険者になれなかったとしても似たような職業でも探せば良いだけの話だ。一番怖いのはイザベラの説教だが。遺言を書く時間ぐらいはくれるだろう。誰宛にするかはまだ決めてないが。
「ジンいい加減に起きたらどうだ」
寝ぼけ眼で視線を向けると、呆れた表情のジュリアスが立っていた。
「どうせ部屋で待機なんだ。今日ぐらい寝かせてくれ。勉強のし過ぎで疲れたんだ」
「何を言ってるんだ。昨日が初めての授業だっただろうに」
「実は俺には他にも呪いがあって、一日授業を受けるたびに寿命の半分がなくなるんだ」
「そんな呪い聞いたことがないぞ」
「俺も知らない」
「だったら早く起きろ!」
「いあんっ!」
「変な声を出すな、馬鹿者!」
無理やり掛け布団を奪われてしまった俺は仕方なく起きることにした。
「あれ、朝食がどうしてあるんだ?」
顔を洗おうと寝室を出ると、テーブルの上に食事が用意されていた。因みに今日の朝食はサーモンサンドのようだ。
「ああ、マリリンさんが持ってきてくれたんだ。どうやら呼び出しがあるまで完全に外出禁止のようだ」
「そうか。なら俺は寝るとしよう」
「ベッドに戻ろうとするな」
「痛てっ!」
どこから取り出したかしらないが木刀で殴られてしまった。
「殴られたくなければ、さっさと準備をしろ」
「一応俺は怪我人なんだが」
「悪化したくはないだろ?」
「はい…」
笑みの下にある冷徹さに身震いしながら俺は洗面所に向かう。まったくどうして俺の周りにいる女性たちはこうも暴力的なんだ。
ジュリアスに言われるがまま身支度を整えた俺は朝食を食べる。ジュリアスと銀はすでに済ませたようだ。うん、サーモンサンドも素晴らしいな。
山積みになっていたサーモンサンドをものの十分で完食した。あ~、駄目だ。腹が膨れたら眠くなってきな。
「こら、寝るな」
ソファーで横になろうとしたらジュリアスに叱られてしまった。
「別に良いいジャマイカ」
「もう、寝ぼけたのか。言葉がおかしいぞ」
「………」
俺渾身のギャグが通じないだと!ってこの世界にジャマイカって名前がないからか。
「呼び出しがあるまでする事なんてないんだから、寝たって良いだろ」
「駄目に決まってるだろ。そんな不規則な生活をしていたら病気になるぞ」
「一日不規則な生活をしたところで病気にはならねぇよ」
「駄目なものは駄目だ」
俺のルームメイトはとても真面目で厳しいです。さすがは1組の生徒。
そのあとも何度か目を盗んで寝ようとしたが、全て邪魔されてしまった。なんたるサーチ力の高さ。
「で、なんで俺たちは勉強してるんだ」
「そんなの授業に遅れないようにするためだ」
「一日ぐらい受けなくたって平気だろ」
「なら、留年しても良いならしなくていいぞ」
「それは面倒だな」
「だったら勉強だ。教科書の内容を読むだけなんだから苦じゃないだろ?」
「眠くなる」
「安心しろ。寝そうになったら叩き起こしてやる」
「もっと安全安心な起こし方はないのか?」
「だったら寝ないことだ」
別に恩を売るつもりはないが、ちょいと恩知らずじゃないですかね。せっかくイザベラが居なくなったから部屋でゆっくり過ごせると思ったのに。
「はぁ、どうしてこうなった」
「ぼやいてないで教科書を読む」
「はい」
俺は言われるがままにタブレットに表示された内容を読んでいく。駄目だ眠い。頭が痛くなりそう。
勉強会?を始めて一時間が経過したところで、ドアがノックされ、それに気づいた俺たちは玄関へと向かった。
ドアの向こうになっていたのはエレイン先生だった。
「おはよう二人とも。準備は出来てるかしら?」
「はい……」
「さっさと終わらせて飯にしようぜ」
「なんで三人を病院送りにした張本人が一番気楽そうなのよ」
「そんなこと言われても。一々気にしてたら生きていけないだろ」
「きっとこの世で反省って言葉が似合わない人間は貴方なんでしょうね」
「いや~、それほどでも」
「褒めてないわよ。まったく」
「仲がよろしいんですね」
急にジュリアスの視線が冷たくなったがどうしたんだ?
エレイン先生も気づいたのか慌てて弁明する。
「そ、そんな事ないわよ。同じクラスの担任と生徒ってだけよ。ねぇ?」
「そうだ。そんなに仲が良いって程じゃないぞ。俺の中じゃジュリアスの方が良き仲だと思うが」
「え!?二人ってそんな仲なの」
「ち、違います!断じてそんな仲じゃありません!」
即答で否定するなんて酷い。
「変な誤解を生むような言い方をするな!」
「バカッ!怪我してるところを殴るな!」
「お前が全て悪いんだから反省しろ!」
「なんでそうなる!」
理不尽な暴力を耐え抜いた俺たちは学園長室へと向かった。どうしてこうも手癖の悪い奴ばかりなんだ。
理事長室へとやってきた俺たちの前には、全てを見抜こうとする鋭い視線のせいか凄みが増したダグラスの姿がそこにはあった。また面倒なことになりそうな予感がするな。
ダグラスは少し息を吸い吐くと口を開いた。
「……お主たちの処分について午前の職員会議で決まった。まずはジュリアス・L・シュカルプ君じゃが、無罪放免じゃ」
「なっ!」
信じられないと言いたげな表情をするジュリアスだが、俺からしてみれば妥当だと思えた。ジュリアスは被害者だ。喧嘩にも参加してはいない。連帯責任として謹慎を受けてもおかしくはないが、成績優秀な事も考えて無罪放免といったところだろう。
「それで俺の処分は?」
「一週間の停学じゃ」
「ほう……」
「意外そうじゃな」
「まあな」
どんな理由であれ、俺は喧嘩をして相手を病院送りにしたことは事実だ。それを考えれば退学、よくとも一ヶ月の停学は考えられたからな。
そんな疑問に感じる俺にダグラスが答える。
「お主がまだこの学園に編入したてであること、ルームメイトを助けるためであったこと。今回の事件に非があったのは間違いなく入院しているギド君たちであること。などを考慮して1週間の停学処分が妥当じゃと判断したまでじゃ」
「でしたら学園長、停学処分はあまりにも大き過ぎるのでは?」
ジュリアスが意義を唱えるが、
「仕方あるまい。この学園では喧嘩はご法度。ましてや相手の鼻、腕などを骨折させ病院送りにしたのじゃ、停学は免れぬよ」
「ですが、ジンも怪我をしています。それに命の危険度で言えばジンの方が大きいはずです」
「それは勿論分かっておる。じゃからギド君たちには退院後に二週間停学処分を言い渡すつもりじゃ。ギド君に関してはまだちゃんとした判決は出ておらぬが、魔導拳銃の持ち出し、発砲など踏まえて最悪退学もありえるじゃろう。いや、そっちの方が高確率じゃろうな」
「そうですか」
これまで散々苦しめられてきた相手だ。そうそう許せるものではない。庇うことも出来ないのは当然だろうな。ま、ギドたちからしてみれば自業自得だろうけど。
「話は以上じゃ。授業に参加するもよし、寮に戻って今日一日休むもよしじゃ」
ジュリアスは授業が受けられるようだな。俺はどうせ停学なので部屋で昼寝でもするか。
「分かりました。では失礼します」
「ああ、そうじゃった。すまぬがジン君だけ残ってくれぬか」
なんだまだ話があるのか。早く帰って昼寝がしたいんだが。
「……分かりました」
ジュリアスも最初はどうしてって表情をしていたが、大事な話なのだろうと事故解決すると直ぐにお辞儀をして学園長室をエレイン先生と一緒に出て行った。
「それで話ってなんだ?」
「お主はなにものじゃ?」
「またその話か」
「ジュリアス君の事情聴取を受けた先生からの報告でな。なんでも君は3メートル離れた距離からの魔導弾丸を素手で掴んだそうではないか」
「あれは偶然だ。その前に弾丸の速度を見ていたからな。それを考えて相手が引き金を引く瞬間に手を閉じたら偶然掴めただけだ」
「それを信じろと?」
「どっちでも構わないさ。隠し事をしているのはお互い様だろ?」
「なんの事じゃ?」
意味が分からないと言った表情だ。まったくとんだ狸爺だぜ。
「アンタほどの男がジュリアスの正体に気づかないわけがないだろ。話を聞いてみれば今までジュリアスにはルームメイトが居なかったらしいじゃないか。それはどう考えてもジュリアスの正体を知ってないと無理な話だ。どうせアンタのことだ。ジュリアスが脅されている事を知ったアンタは俺の正体を知るのにうってつけだと考えた。そこで俺をジュリアスのルームメイトにしてその正体を探ろうとしたんじゃないのか?」
「ははは、まったく考えすぎじゃよ。ワシはそこまで策士じゃないわい」
まったく陽気に言ってくれるな。
互いに鋭い視線をぶつけあう。これ以上は何も知りようがないか。
「話は終わりか?」
「勿論じゃ」
「そうか」
俺はこうして学園長室を後にした。さて部屋に戻って昼寝するか。と思いながら廊下を歩いているとジュリアスの姿があった。
「なんでこんな所にいるんだ」
「そ、それは……」
「ま、ここだと何だし中庭にでも行くか」
「そ、そうだな」
俺たちは場所を変えた。
「ほい、お茶」
「す、すまない」
よく学校には冷水機が取り付けられているが、この学園では、お茶、コーヒー、紅茶の三種類が自由にそれもタダで飲める。まったくどこまで過ごしやすい学園なんだ。
「それで、話ってなんだ?」
「本当にすまなかった」
ベンチから立ち上がり俺の前で綺麗なお辞儀をして謝罪する。
「急にどうしたんだ?」
「全て私の責任だ。私がもっと早く解決していれば……」
「もうその話は終わったと思ったんだがな」
「いや、終わってはない。私の問題なのに結果私は無罪放免、ジンは一週間の停学処分だ」
「別に気にする必要はないだろ。俺が勝手にやったことなんだから」
「そういう訳には――」
「そうなんだよ。ジュリアスはもう少しポジティブに物事を考えたらどうなんだ?あの時、ああしていればなんて考えたって変える事も覆すことも出来ないんだ。だったらこの程度で終わってラッキーだった。次からはもっと上手くやろうって思ったほうが楽で良いだろ」
「そ、それはそうだが……」
「だったらどうすればお前は気が済むんだ?」
「それは……」
「だったら気にするな」
俺はそう言い残して寮へと戻った。これ以上話しても解決策が出るとは思えないからだ。だったら俺は部屋に戻って寝るだけだ。
あれから数日が過ぎて土曜日になった。この世界に来て初めての休日と言えるだろう。だけど俺は停学中なので外出が出来ない。で、そんな俺が今何しているかと言うとただゴロゴロしていた。てかそれしかする事がない。設備は素晴らしいがテレビが備え付けられているわけじゃない。スマホで遊べばとも考えたけど必要最低限の機能しか備わっていなかった。で、他にもする事ないので銀と昼寝しているのだ。さすがに銀は外に連れ出しても大丈夫なので、たまにジュリアスに頼んで一緒に学園に通わせたりもさせたが、そうなると俺がとても暇になった。仕事や勉強は嫌いだがすることがないというのも退屈で仕方がない。
「おい、いい加減起きたらどうだ?」
「嫌だ」
少し強めの言葉で言ってくるジュリアスはテーブルにお茶をおく。あんな口調だがそれでもお茶は出してくれるとてもいい奴だ。因みに今のジュリアスの格好はよく分からないロゴの入ったTシャツにパーカー、それとジャージだ。最初は恥ずかしそうにしていたが、男同士なら気にする必要はないだろ。と伝えたら渋々納得したようだ。三大欲求に素直に生きると宣言はしたが、気にしなければどうって事は無い。
「はぁ……今回の事は私に責任がある。だからあんまり言いたくはないが、こうも堕落した生活ばかりしていると体には良くないぞ」
「そんな事言われてもな。外出出来ないからすることなんてないんだよ」
「だったら筋トレでもってその体じゃ無理か」
「まあな」
回復力をあの島で生活したおかげで人一倍早いがそれでも時間は掛かる。ま、来週から通うときには完全に完治しているだろうけど。
「だったら勉強でも」
「昨日の夜もしたぞ」
「そうだったな」
イザベラほどでは無いにしろ、地獄のような勉強タイムがあった。あれが約一年間続くと思うと気が滅入るな。
「なら、トランプでもするか?」
「持ってたのか」
俺は素早く体を起こす。
「昨日買っておいた」
「タダじゃないのか?」
「タダなのは飲み物と食べ物と言った生きて行くうえで必要最低限のものだけだ」
「なるほど」
「それで何する?二人で出来る遊びとなると少ないが」
「そうだな……」
ポーカー、ブラックジャック、スピード、真剣衰弱もギリ大丈夫か。
「ポーカーでもするか。ルールは知ってるのか」
「バカにするな。こう見えても小さいときはお兄様たちとよくやったものだ」
「そ、そうか」
別に胸を張って自慢するほどじゃないと思うが。それとあんまり胸を張らないほうがいいぞ。せっかく巻いたさらしが千切れるかもしれないからな。
「何か賭けるか?」
「学生の身分で賭けなどして良いわけがないだろ」
まったくの正論だな。
「だけど、俺たちはもう成人してるんだぞ」
「それでもだ」
「分かったよ。んじゃ始めるか」
「そうだな」
こうして始まったポーカー対決。学生時代はよく友達としたな。今も学生だけど。ま、どちらにしても勝負事で手を抜く俺じゃない。どうせ負けるのが怖くて賭けるのが怖かっただけに違いないからな。因みに賭けたらどんな内容にしようか?妥当で言えば、お金?いや、学生だしお菓子か?ちょっと大人版なら脱衣ポーカーってのもアリだな。いや、ここは一つなんでも命令できるってのもありだな。
「今、卑猥な事を考えていただろ」
「そ、そんな事はないぞ」
「そうか?」
別に表情に出した覚えはないが、どうしてこうも鋭いんだ。
「私は2枚交換したぞ。ジンはどうするんだ?」
「そうだな……」
手札は見事にブタ。しかし5、6と続いている。ここはストレートを狙うしかないだろ。
「俺は3枚交換だ」
俺は3枚捨てて山札から3枚引く。結果は……見事なまでのブタ。
「勝負だ」
「あ、ああ……」
ほぼ負けは確定、ありえるとしたら相手もブタで引き分けを願うしかない!
「ブタだ」
「ワンペアだ」
ジュリアスの手には4のワンペアがあった。そんなしょぼい手に俺は負けたのか!
「私の勝ちだ」
「まだ一勝だしな。これからこれから」
で、ポーカーを始めて三十分が経過した。勝負回数にして二十回目だ。で、結果は――。
「これで私の二十連勝だな」
「な、何故だあああああぁぁ!!」
俺の絶叫が木霊する。
「わ、私もここまで勝てたのは初めてだ」
ジュリアスも自分の勝率に驚いているようだ。が、俺はそれどころじゃない。
「それにしても二十回中二回以外全てブタってある意味凄いぞ」
「誰も望んじゃいねぇよ!」
どうしてだ。ようやくワンペアが揃ったかと思えば一番最弱の2だし!これは何かの陰謀なのか!悪すぎるにも程があるだろ!
「それに比べてお前はなんだ!どうしてロイヤルストレートフラッシュなんかが出来るんだ!65万分の1だぞ!ありえないだろ!」
「そんなこと言われても困る。出来てしまったのだから」
ポーカーが運ゲーなのは知ってる。だけどこれはあんまりだ。これも全てあの世界最悪の女神のせいに違いない。
「どうする続けるか?」
「いや、止めておく。これ以上傷つきたくない」
「そ、そうか……」
ジュリアスもなんとなく理解してくれたのか納得してくれた。
トントン。
遊んでいるとドアがノックされる。
「誰か来たようだ」
「今日誰かと遊ぶ約束でもしていたのか?」
「いや、していないが。ジンじゃないのか?」
「まさか。俺は学園に一日しか通ってないんだぞ」
「じゃあ、誰だ?先生方か?」
「休日に来る先生なんていないだろ」
来たとしても平日だ。
「じゃあ誰だ?」
互いに首を傾げながら玄関に向かう。
「念のために覗き穴で確認しておけ。もしかしたらこないだの復讐に来たのかもしれないしな」
「そ、そうだな」
ジュリアスはそっと覗き穴から外にいる人物を窺う。
「え!」
「おいどうした!」
まさか本当にあいつ等が復讐に着たのか!
「分からないが開けても大丈夫だろう」
「おい、誰なんだ」
「大丈夫だ。怪しい人物ではない」
いや、そんな事言われても誰かぐらい教えてくれても良いだろ!
俺のことなど無視してジュリアスは扉を開けた。
そこに立っていたのはイザベラとロイドだった。
「なんだお前た――ぶはっ!」
完全に扉が開くと同時に俺の腹部に強烈な鈍痛と衝撃が襲い掛かり、ベランダまで吹き飛ばされた。
「いきなり何するんだ!」
理解出来ないジュリアスは敵意剥き出しでイザベラたちを睨み付ける。いや、それよりも今は自分の事だ。やばい完全に鳩尾に入った。気持ち悪い……。
吐きそうになるのは一生懸命抑え込む。
「安心して私はジンの友人だから」
「そんなの信じられるわけがないだろ!」
「なら、ジンに聞けば信じられるかしら?」
「も、勿論だ」
そんな二人の視線が俺に向けられるが、今の俺にそれに答えられる気力も意識もない。てか、口を開いた瞬間龍の息吹のようにリバースしてしまうから無理だ。ああ、意識まで遠のく。結局俺は吐くのを我慢しながら意識を失った。
「ジイイイイイイィィィン!!」
昨日の夜、いや、今日の深夜と言うべきか。にエレイン先生に明日は授業に参加せずに部屋で待機しているように言われた。きっと俺たちの処分を言い渡すためだろう。ジュリアスはその場に居ただけだから大丈夫だろうが、俺は最悪退学だろうな。ま、別に後悔はない。学園に通う目的は冒険者になるためだけだからな。ま、冒険者になれなかったとしても似たような職業でも探せば良いだけの話だ。一番怖いのはイザベラの説教だが。遺言を書く時間ぐらいはくれるだろう。誰宛にするかはまだ決めてないが。
「ジンいい加減に起きたらどうだ」
寝ぼけ眼で視線を向けると、呆れた表情のジュリアスが立っていた。
「どうせ部屋で待機なんだ。今日ぐらい寝かせてくれ。勉強のし過ぎで疲れたんだ」
「何を言ってるんだ。昨日が初めての授業だっただろうに」
「実は俺には他にも呪いがあって、一日授業を受けるたびに寿命の半分がなくなるんだ」
「そんな呪い聞いたことがないぞ」
「俺も知らない」
「だったら早く起きろ!」
「いあんっ!」
「変な声を出すな、馬鹿者!」
無理やり掛け布団を奪われてしまった俺は仕方なく起きることにした。
「あれ、朝食がどうしてあるんだ?」
顔を洗おうと寝室を出ると、テーブルの上に食事が用意されていた。因みに今日の朝食はサーモンサンドのようだ。
「ああ、マリリンさんが持ってきてくれたんだ。どうやら呼び出しがあるまで完全に外出禁止のようだ」
「そうか。なら俺は寝るとしよう」
「ベッドに戻ろうとするな」
「痛てっ!」
どこから取り出したかしらないが木刀で殴られてしまった。
「殴られたくなければ、さっさと準備をしろ」
「一応俺は怪我人なんだが」
「悪化したくはないだろ?」
「はい…」
笑みの下にある冷徹さに身震いしながら俺は洗面所に向かう。まったくどうして俺の周りにいる女性たちはこうも暴力的なんだ。
ジュリアスに言われるがまま身支度を整えた俺は朝食を食べる。ジュリアスと銀はすでに済ませたようだ。うん、サーモンサンドも素晴らしいな。
山積みになっていたサーモンサンドをものの十分で完食した。あ~、駄目だ。腹が膨れたら眠くなってきな。
「こら、寝るな」
ソファーで横になろうとしたらジュリアスに叱られてしまった。
「別に良いいジャマイカ」
「もう、寝ぼけたのか。言葉がおかしいぞ」
「………」
俺渾身のギャグが通じないだと!ってこの世界にジャマイカって名前がないからか。
「呼び出しがあるまでする事なんてないんだから、寝たって良いだろ」
「駄目に決まってるだろ。そんな不規則な生活をしていたら病気になるぞ」
「一日不規則な生活をしたところで病気にはならねぇよ」
「駄目なものは駄目だ」
俺のルームメイトはとても真面目で厳しいです。さすがは1組の生徒。
そのあとも何度か目を盗んで寝ようとしたが、全て邪魔されてしまった。なんたるサーチ力の高さ。
「で、なんで俺たちは勉強してるんだ」
「そんなの授業に遅れないようにするためだ」
「一日ぐらい受けなくたって平気だろ」
「なら、留年しても良いならしなくていいぞ」
「それは面倒だな」
「だったら勉強だ。教科書の内容を読むだけなんだから苦じゃないだろ?」
「眠くなる」
「安心しろ。寝そうになったら叩き起こしてやる」
「もっと安全安心な起こし方はないのか?」
「だったら寝ないことだ」
別に恩を売るつもりはないが、ちょいと恩知らずじゃないですかね。せっかくイザベラが居なくなったから部屋でゆっくり過ごせると思ったのに。
「はぁ、どうしてこうなった」
「ぼやいてないで教科書を読む」
「はい」
俺は言われるがままにタブレットに表示された内容を読んでいく。駄目だ眠い。頭が痛くなりそう。
勉強会?を始めて一時間が経過したところで、ドアがノックされ、それに気づいた俺たちは玄関へと向かった。
ドアの向こうになっていたのはエレイン先生だった。
「おはよう二人とも。準備は出来てるかしら?」
「はい……」
「さっさと終わらせて飯にしようぜ」
「なんで三人を病院送りにした張本人が一番気楽そうなのよ」
「そんなこと言われても。一々気にしてたら生きていけないだろ」
「きっとこの世で反省って言葉が似合わない人間は貴方なんでしょうね」
「いや~、それほどでも」
「褒めてないわよ。まったく」
「仲がよろしいんですね」
急にジュリアスの視線が冷たくなったがどうしたんだ?
エレイン先生も気づいたのか慌てて弁明する。
「そ、そんな事ないわよ。同じクラスの担任と生徒ってだけよ。ねぇ?」
「そうだ。そんなに仲が良いって程じゃないぞ。俺の中じゃジュリアスの方が良き仲だと思うが」
「え!?二人ってそんな仲なの」
「ち、違います!断じてそんな仲じゃありません!」
即答で否定するなんて酷い。
「変な誤解を生むような言い方をするな!」
「バカッ!怪我してるところを殴るな!」
「お前が全て悪いんだから反省しろ!」
「なんでそうなる!」
理不尽な暴力を耐え抜いた俺たちは学園長室へと向かった。どうしてこうも手癖の悪い奴ばかりなんだ。
理事長室へとやってきた俺たちの前には、全てを見抜こうとする鋭い視線のせいか凄みが増したダグラスの姿がそこにはあった。また面倒なことになりそうな予感がするな。
ダグラスは少し息を吸い吐くと口を開いた。
「……お主たちの処分について午前の職員会議で決まった。まずはジュリアス・L・シュカルプ君じゃが、無罪放免じゃ」
「なっ!」
信じられないと言いたげな表情をするジュリアスだが、俺からしてみれば妥当だと思えた。ジュリアスは被害者だ。喧嘩にも参加してはいない。連帯責任として謹慎を受けてもおかしくはないが、成績優秀な事も考えて無罪放免といったところだろう。
「それで俺の処分は?」
「一週間の停学じゃ」
「ほう……」
「意外そうじゃな」
「まあな」
どんな理由であれ、俺は喧嘩をして相手を病院送りにしたことは事実だ。それを考えれば退学、よくとも一ヶ月の停学は考えられたからな。
そんな疑問に感じる俺にダグラスが答える。
「お主がまだこの学園に編入したてであること、ルームメイトを助けるためであったこと。今回の事件に非があったのは間違いなく入院しているギド君たちであること。などを考慮して1週間の停学処分が妥当じゃと判断したまでじゃ」
「でしたら学園長、停学処分はあまりにも大き過ぎるのでは?」
ジュリアスが意義を唱えるが、
「仕方あるまい。この学園では喧嘩はご法度。ましてや相手の鼻、腕などを骨折させ病院送りにしたのじゃ、停学は免れぬよ」
「ですが、ジンも怪我をしています。それに命の危険度で言えばジンの方が大きいはずです」
「それは勿論分かっておる。じゃからギド君たちには退院後に二週間停学処分を言い渡すつもりじゃ。ギド君に関してはまだちゃんとした判決は出ておらぬが、魔導拳銃の持ち出し、発砲など踏まえて最悪退学もありえるじゃろう。いや、そっちの方が高確率じゃろうな」
「そうですか」
これまで散々苦しめられてきた相手だ。そうそう許せるものではない。庇うことも出来ないのは当然だろうな。ま、ギドたちからしてみれば自業自得だろうけど。
「話は以上じゃ。授業に参加するもよし、寮に戻って今日一日休むもよしじゃ」
ジュリアスは授業が受けられるようだな。俺はどうせ停学なので部屋で昼寝でもするか。
「分かりました。では失礼します」
「ああ、そうじゃった。すまぬがジン君だけ残ってくれぬか」
なんだまだ話があるのか。早く帰って昼寝がしたいんだが。
「……分かりました」
ジュリアスも最初はどうしてって表情をしていたが、大事な話なのだろうと事故解決すると直ぐにお辞儀をして学園長室をエレイン先生と一緒に出て行った。
「それで話ってなんだ?」
「お主はなにものじゃ?」
「またその話か」
「ジュリアス君の事情聴取を受けた先生からの報告でな。なんでも君は3メートル離れた距離からの魔導弾丸を素手で掴んだそうではないか」
「あれは偶然だ。その前に弾丸の速度を見ていたからな。それを考えて相手が引き金を引く瞬間に手を閉じたら偶然掴めただけだ」
「それを信じろと?」
「どっちでも構わないさ。隠し事をしているのはお互い様だろ?」
「なんの事じゃ?」
意味が分からないと言った表情だ。まったくとんだ狸爺だぜ。
「アンタほどの男がジュリアスの正体に気づかないわけがないだろ。話を聞いてみれば今までジュリアスにはルームメイトが居なかったらしいじゃないか。それはどう考えてもジュリアスの正体を知ってないと無理な話だ。どうせアンタのことだ。ジュリアスが脅されている事を知ったアンタは俺の正体を知るのにうってつけだと考えた。そこで俺をジュリアスのルームメイトにしてその正体を探ろうとしたんじゃないのか?」
「ははは、まったく考えすぎじゃよ。ワシはそこまで策士じゃないわい」
まったく陽気に言ってくれるな。
互いに鋭い視線をぶつけあう。これ以上は何も知りようがないか。
「話は終わりか?」
「勿論じゃ」
「そうか」
俺はこうして学園長室を後にした。さて部屋に戻って昼寝するか。と思いながら廊下を歩いているとジュリアスの姿があった。
「なんでこんな所にいるんだ」
「そ、それは……」
「ま、ここだと何だし中庭にでも行くか」
「そ、そうだな」
俺たちは場所を変えた。
「ほい、お茶」
「す、すまない」
よく学校には冷水機が取り付けられているが、この学園では、お茶、コーヒー、紅茶の三種類が自由にそれもタダで飲める。まったくどこまで過ごしやすい学園なんだ。
「それで、話ってなんだ?」
「本当にすまなかった」
ベンチから立ち上がり俺の前で綺麗なお辞儀をして謝罪する。
「急にどうしたんだ?」
「全て私の責任だ。私がもっと早く解決していれば……」
「もうその話は終わったと思ったんだがな」
「いや、終わってはない。私の問題なのに結果私は無罪放免、ジンは一週間の停学処分だ」
「別に気にする必要はないだろ。俺が勝手にやったことなんだから」
「そういう訳には――」
「そうなんだよ。ジュリアスはもう少しポジティブに物事を考えたらどうなんだ?あの時、ああしていればなんて考えたって変える事も覆すことも出来ないんだ。だったらこの程度で終わってラッキーだった。次からはもっと上手くやろうって思ったほうが楽で良いだろ」
「そ、それはそうだが……」
「だったらどうすればお前は気が済むんだ?」
「それは……」
「だったら気にするな」
俺はそう言い残して寮へと戻った。これ以上話しても解決策が出るとは思えないからだ。だったら俺は部屋に戻って寝るだけだ。
あれから数日が過ぎて土曜日になった。この世界に来て初めての休日と言えるだろう。だけど俺は停学中なので外出が出来ない。で、そんな俺が今何しているかと言うとただゴロゴロしていた。てかそれしかする事がない。設備は素晴らしいがテレビが備え付けられているわけじゃない。スマホで遊べばとも考えたけど必要最低限の機能しか備わっていなかった。で、他にもする事ないので銀と昼寝しているのだ。さすがに銀は外に連れ出しても大丈夫なので、たまにジュリアスに頼んで一緒に学園に通わせたりもさせたが、そうなると俺がとても暇になった。仕事や勉強は嫌いだがすることがないというのも退屈で仕方がない。
「おい、いい加減起きたらどうだ?」
「嫌だ」
少し強めの言葉で言ってくるジュリアスはテーブルにお茶をおく。あんな口調だがそれでもお茶は出してくれるとてもいい奴だ。因みに今のジュリアスの格好はよく分からないロゴの入ったTシャツにパーカー、それとジャージだ。最初は恥ずかしそうにしていたが、男同士なら気にする必要はないだろ。と伝えたら渋々納得したようだ。三大欲求に素直に生きると宣言はしたが、気にしなければどうって事は無い。
「はぁ……今回の事は私に責任がある。だからあんまり言いたくはないが、こうも堕落した生活ばかりしていると体には良くないぞ」
「そんな事言われてもな。外出出来ないからすることなんてないんだよ」
「だったら筋トレでもってその体じゃ無理か」
「まあな」
回復力をあの島で生活したおかげで人一倍早いがそれでも時間は掛かる。ま、来週から通うときには完全に完治しているだろうけど。
「だったら勉強でも」
「昨日の夜もしたぞ」
「そうだったな」
イザベラほどでは無いにしろ、地獄のような勉強タイムがあった。あれが約一年間続くと思うと気が滅入るな。
「なら、トランプでもするか?」
「持ってたのか」
俺は素早く体を起こす。
「昨日買っておいた」
「タダじゃないのか?」
「タダなのは飲み物と食べ物と言った生きて行くうえで必要最低限のものだけだ」
「なるほど」
「それで何する?二人で出来る遊びとなると少ないが」
「そうだな……」
ポーカー、ブラックジャック、スピード、真剣衰弱もギリ大丈夫か。
「ポーカーでもするか。ルールは知ってるのか」
「バカにするな。こう見えても小さいときはお兄様たちとよくやったものだ」
「そ、そうか」
別に胸を張って自慢するほどじゃないと思うが。それとあんまり胸を張らないほうがいいぞ。せっかく巻いたさらしが千切れるかもしれないからな。
「何か賭けるか?」
「学生の身分で賭けなどして良いわけがないだろ」
まったくの正論だな。
「だけど、俺たちはもう成人してるんだぞ」
「それでもだ」
「分かったよ。んじゃ始めるか」
「そうだな」
こうして始まったポーカー対決。学生時代はよく友達としたな。今も学生だけど。ま、どちらにしても勝負事で手を抜く俺じゃない。どうせ負けるのが怖くて賭けるのが怖かっただけに違いないからな。因みに賭けたらどんな内容にしようか?妥当で言えば、お金?いや、学生だしお菓子か?ちょっと大人版なら脱衣ポーカーってのもアリだな。いや、ここは一つなんでも命令できるってのもありだな。
「今、卑猥な事を考えていただろ」
「そ、そんな事はないぞ」
「そうか?」
別に表情に出した覚えはないが、どうしてこうも鋭いんだ。
「私は2枚交換したぞ。ジンはどうするんだ?」
「そうだな……」
手札は見事にブタ。しかし5、6と続いている。ここはストレートを狙うしかないだろ。
「俺は3枚交換だ」
俺は3枚捨てて山札から3枚引く。結果は……見事なまでのブタ。
「勝負だ」
「あ、ああ……」
ほぼ負けは確定、ありえるとしたら相手もブタで引き分けを願うしかない!
「ブタだ」
「ワンペアだ」
ジュリアスの手には4のワンペアがあった。そんなしょぼい手に俺は負けたのか!
「私の勝ちだ」
「まだ一勝だしな。これからこれから」
で、ポーカーを始めて三十分が経過した。勝負回数にして二十回目だ。で、結果は――。
「これで私の二十連勝だな」
「な、何故だあああああぁぁ!!」
俺の絶叫が木霊する。
「わ、私もここまで勝てたのは初めてだ」
ジュリアスも自分の勝率に驚いているようだ。が、俺はそれどころじゃない。
「それにしても二十回中二回以外全てブタってある意味凄いぞ」
「誰も望んじゃいねぇよ!」
どうしてだ。ようやくワンペアが揃ったかと思えば一番最弱の2だし!これは何かの陰謀なのか!悪すぎるにも程があるだろ!
「それに比べてお前はなんだ!どうしてロイヤルストレートフラッシュなんかが出来るんだ!65万分の1だぞ!ありえないだろ!」
「そんなこと言われても困る。出来てしまったのだから」
ポーカーが運ゲーなのは知ってる。だけどこれはあんまりだ。これも全てあの世界最悪の女神のせいに違いない。
「どうする続けるか?」
「いや、止めておく。これ以上傷つきたくない」
「そ、そうか……」
ジュリアスもなんとなく理解してくれたのか納得してくれた。
トントン。
遊んでいるとドアがノックされる。
「誰か来たようだ」
「今日誰かと遊ぶ約束でもしていたのか?」
「いや、していないが。ジンじゃないのか?」
「まさか。俺は学園に一日しか通ってないんだぞ」
「じゃあ、誰だ?先生方か?」
「休日に来る先生なんていないだろ」
来たとしても平日だ。
「じゃあ誰だ?」
互いに首を傾げながら玄関に向かう。
「念のために覗き穴で確認しておけ。もしかしたらこないだの復讐に来たのかもしれないしな」
「そ、そうだな」
ジュリアスはそっと覗き穴から外にいる人物を窺う。
「え!」
「おいどうした!」
まさか本当にあいつ等が復讐に着たのか!
「分からないが開けても大丈夫だろう」
「おい、誰なんだ」
「大丈夫だ。怪しい人物ではない」
いや、そんな事言われても誰かぐらい教えてくれても良いだろ!
俺のことなど無視してジュリアスは扉を開けた。
そこに立っていたのはイザベラとロイドだった。
「なんだお前た――ぶはっ!」
完全に扉が開くと同時に俺の腹部に強烈な鈍痛と衝撃が襲い掛かり、ベランダまで吹き飛ばされた。
「いきなり何するんだ!」
理解出来ないジュリアスは敵意剥き出しでイザベラたちを睨み付ける。いや、それよりも今は自分の事だ。やばい完全に鳩尾に入った。気持ち悪い……。
吐きそうになるのは一生懸命抑え込む。
「安心して私はジンの友人だから」
「そんなの信じられるわけがないだろ!」
「なら、ジンに聞けば信じられるかしら?」
「も、勿論だ」
そんな二人の視線が俺に向けられるが、今の俺にそれに答えられる気力も意識もない。てか、口を開いた瞬間龍の息吹のようにリバースしてしまうから無理だ。ああ、意識まで遠のく。結局俺は吐くのを我慢しながら意識を失った。
「ジイイイイイイィィィン!!」
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