弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

自分の現在地

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「こんにちは、ルビーさん」

「エイトさん! もうお身体は大丈夫なんですか!?」

 心配と嬉しさが入り混じった表情をするルビーが、ガバッとその場で立ち上がった。

「はい、すっかり元気です」

「すみません、ギルドの仕事が忙しく一度もお見舞いに行けなくて......」

「いえいえ、街の復興で忙しいのはわかっていましたから」


 退院した俺は、ギルドに来ていた。

 ちなみに、イルンとエリシアとは別行動である。俺が寝ている間にすっかり仲良くなったらしく、今日も二人で買い物に行くそうだ。

 エリシアにとっても長い間、一人で友達もいなかっただろうし、今の世界を知ることはいいことだ。


「ところで、今日はなぜこちらに来られたんですか?」

 まあ当然の疑問だろう。身分証発行や仕事の 斡旋あっせんをしている施設とはいえ、基本は案件を受けるために冒険者が多く集まる場所だ。

 たとえ薬草採取の案件であっても嫌がるビビりな俺が来るとは思わないだろう。ましてや退院したばかりなのに。

「実は案件を受けようと思いまして......」

 ははっ、と気まずさが混じった顔で申し出る。

「急にどうされたんですか!? まさか頭でも打ったんじゃーー」

 おいおい、いくらなんでも失礼ですよ、ルビーさん。

 確かに俺が案件を進んで受けようとするなんて、明日は やりでも降るんじゃないか、と思う人もいるだろう。

 仮にも神を倒そうとしているのだ。全くもってやる気などないが、手伝うと言った以上は自分が今どこまでできるのか確かめる必要がある。

「魔人を倒したことで、俺のレベルも上がったんです。なので力試しに」

 その一瞬、ギルド内がこれまでと違う形でザワッとした。

 ルビーが慌てて、口に手を当てながら小声で話す。

「エイトさん、魔人が出たことは一部の関係者以外は知らないんです。あの一件は、魔物の大量発生ーースタンピードということで落ち着いています」

「......そうなんですね、すみませんでした」

 なるほど。魔人がいることをみんな認識しているが、その存在は隠すべきなんだろう。下手に話すと混乱するからか。

「そういえば、案件でしたね。あの一件でエイトさんのギルドランクがシルバーに昇格していますので、ゴールド案件まで受注できます。いかがなさいますか?」

 うーん、と悩んで大きな木のボードに貼り出された案件の数々を眺める。


 病院にいる間に自分のレベルは確認済みだ。

 現在の俺のステータスは以下の通り。


ナナミ エイト 19歳

レベル:24
種族 :人間
職業 :魔人殺し
攻撃力:50
防御力:45
体力 :55
魔力 :45
敏捷性:60
知力 :60

固有 :幸運 I・毒耐性 II

ユニークスキル:自動マッピング(空間把握)・鑑定・魔眼(擬似)
コモンスキル :威圧・剛腕・斬撃・体術・暗殺術・闇魔法・火魔法(ファイヤーボール)・土魔法(ロックブラスト)・毒生成・速度上昇・超加速(擬似)



 魔人を倒したことで22もレベルが上がった。冒険者で言うと大体、中級者くらい。

 レベル50もいけばベテランで、100までいく者はさらにわずか。そこまでいくとドMの変態扱いをされる。

 さて、俺が受けるにふさわしい案件は......シルバーランクのゴブリンじゃ物足りないな。......お、これならいけそう。

 ペリッとボードから剥がし、ルビーの元へ持っていく。

「これでお願いします」

「はい、ゴールド案件のキングゴブリン討伐......キングゴブリン!? 無理ですって! いくらレベルが上がっているとはいえ、自動マッピングしかないんですよ!? 死ぬ気ですか!」

 今日のルビーはころころと表情が変わって楽しい。いい日だ。

 多種多様なスキルを持っているが、偽装状態のため他人からは自動マッピングしかないように見えている。

 しかし困ったな......これでは受けさせてもらえそうにない。あーー。

「なにもソロで行くつもりはありません。他のパーティーに入れてもらう約束なんです」

 我ながら完璧な言い訳だーーと思ったのだが、エイトは嘘をつくと顔に出る。

 ルビーはジトーっ、とエイトを見つめて、諦めるようにため息をついた。

「まあ、あのエイトさんがそんな無謀なことをするとは思えませんし、何か策があるんでしょう。わかりました、受け付けます。ただし、危なかったらすぐ逃げるんですよ! 絶対ですからね!」

「それはもちろん。大丈夫ですよ」

 俺の笑みに心配を隠しきれないといった様子。

「あ、そういえばイルンちゃんはこのこと知っているんですか? たしかダンジョンの案件を受けたときにこれきりにするって約束をしたって聞きましたけど......」

 なんでそれを知ってるんだ。いつの間に話してたんだ、イルンのやつめ。

「し、知ってると思いますよ、たぶん。でも決してイルンには言わないでくださいね?」

「どうなっても知りませんからね? こういうのは後でバレると余計めんどうなんですから」

「ははっ、ハハハッ、はは」

 から笑いして誤魔化すことしかできなかった。バレないことを祈ろう。


 
 キングゴブリンの目撃情報があったのは、ちょうど俺がスポーンした洞窟のあたりだった。

 あの辺はゴブリンの生息地域で、ごく稀にキングゴブリンみたいな上位種が現れるようだ。

 平然とこの案件を受けているように見えるだろうが、キングゴブリンは並のモンスターより強く、初心者ならまず殺される。中級者でもまともな装備とまともなスキルがないと殺される。というか、普通は誰もソロで挑もうとは思わない。

 正直ビビってます。ルビーの前でカッコつけたくて調子に乗ったことを少し後悔しています。

 しかし、後には引けない。

 俺は修理したサバイバルナイフ(短剣)を片手に森の中をガサガサと移動していた。

 なぜ修理したのかって? 言わずもがな、新しい武器を買うお金がないからである。世知辛せちがらい世の中ですね。

 ただ、幸運なことに修理したときなぜか強化されており、鍛冶屋のおっちゃんも「普通に治しただけなのになんでだ......」と驚いていた。

 魔眼でサバイバルナイフを鑑定すると、特殊な効果も付いていた。


【吸血魔の短剣】

ランク:A (強化+10)

説明 :高位魔物の血を吸った短剣。使用者を選ぶ。切った魔物に継続的なダメージを与える。(1秒につき、1ダメージ)


 説明から察するに、このナイフで魔人を殺したことが強化された原因だろうと思う。


 アイテムのランクは全部で7段階に分かれていて、上からS→A→B→C→D→E→Fとなっている。

 大体、店で売っている武器はCランクやDランクのものばかりで、Bランクの武器を持っているのはベテランばかり。

 Fランクはゴミ。いや、ゴミにも失礼。ミジンコ以下だ。

 Sランクにもなると伝説級とされ、Aランクでも国宝級と呼ばれる。

 そう。このサバイバルナイフ、国宝級なのだ。ちなみに元のランクはF。ゴミである。

 何度も言うが8万もしたんだぞこれ。......よく考えると、ぼったくられたのかもしれない。


 さて、モヤモヤとしたどす黒いオーラを放つ短剣を片手に、あの日スポーンした洞窟付近までやってきた。

 幸い、ここまで他の魔物には出くわしていない。この辺は、ツノうさぎの生息地でもあるはずなのだが......。

「グルルウゥゥアァ......」

 ーーなんだっ!?

 まるで恨みを抱いているような、低く唸る声。

 俺はすぐさま木の後ろに身を隠す。

 その声の主は、なんの因果か俺がスポーンした洞窟から現れた。

 二メートルほどの身長、細身ではあるが筋肉質な体に錆れた王冠。自分の身長と同じくらいの長さを持つ三叉槍さんさそう。洞窟の中だと見失うような黒い肌に身を包んでいる。

 全身傷だらけで右目が潰れた隻眼。

 特徴と一致する。間違いなくあいつがキングゴブリンだ。

 ただ、どこかで見たことがあるような......。

 その既視感はやがて明確なものへと変わるーー。
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