弱小スキル「自動マッピング」が実は偽装されてました? 〜気弱なのに、(ほぼ)強制的に神殺しをさせられそうな件〜

苺 あんこ

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-はじまりの陰謀-編

因縁

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 心臓の高鳴りが止まない。

 今まで戦えていたのは、一時の感情によるものであり、自分の意思とはまた違う。

 ミノタウロスのときはその名の通り、必死だったから。魔人のときは大事な人を傷つけられた怒り。

 自ら進んで魔物に向かっていくというのは初めてで、息がしづらい。まるで、大勢の前でスピーチをするみたいだ。

「フーッ......大丈夫。今の俺ならやれる」

 あんな凶悪そうな魔物となにも正面から闘う必要はない。

 超加速で一気に距離を詰めて、後ろから暗殺術を使えばお陀仏だろ。

 もう一度、深く呼吸して気合いを入れる。

 (よし、行くぞっ......スキルーー超加速!)

ーーダッ!

 一瞬でキングゴブリンの背後に回り込み、吸血魔の短剣で首を狙う。

「グルァアッ......!」

 なにっ!? 反応した!?

ーーシャッ

 くそっ、傷が浅い!

 俺はすぐにバックステップで距離を取る。

 警戒しすぎだって? 

 当たり前だ。万が一にでも攻撃を喰らってみろ。痛いだろ。痛いのは嫌なんだ。

 それに他のスキルを使用している間は空間把握を使えない。つまり動きの予測ができないのだ。

「ガアァァアッ......!!」

 キングゴブリンは雄叫びに似た咆哮をしてこちらを威嚇する。

 なんであんなに怒り狂ってるんだ!? 俺が何をしたって言うんだ! 

 首に付けた傷からは少量だが血が流れ続けている。1秒ごとに1ダメージを継続的に与え続ける短剣の効果だろう。

「......サ、ナイ......ユルサナイ、オマエ!」

 こいつ、人間の言葉を話せるのか!?

 キングゴブリンは持っている 三叉槍さんさそうを突き出すように繰り出す。

「スキルーー空間把握!」

 素早い連撃。

 幸いそれ以外の攻撃はないみたいだが、息つく暇もなく振るわれる槍。

 武器の長さもあるから距離を詰めることすらできない。

ーーシュン......。

 何かが切れる感覚。

「くそっ、もう5分経ったのか......!?」

 空間把握の効果時間はわずか5分。

 クールタイムなどは特にないが、次にスキルを発動するまでに隙が生まれる。

 まずいっ......かわしきれないーー

 三つに分かれた刃の中央、他の二つと比べて二十センチほど長く伸びたその鋭い切先が、エイトの顔を水平に横切っていく。

「うおっ、と、スキルーー超加速!」

 身体をのけ反らせて、即座に超加速で後ろに下がり距離を取る。


ーーポタ......ポタ......

 後ろに加速した反動で、体勢を崩して片膝をつくエイト。

 その頬からは鮮やかな鮮血がしたたり落ちる。

「だあっ、痛ってえ......クソ! よくもやってくれたな」 ※掠っただけ。

 このままでは魔力が尽きるのが目に見えてる。一旦、立て直すか。

ーーガサッ


 森の中に紛れながら超加速と暗殺術を使い、素早く、そして気配を消しながらキングゴブリンの後ろに回り込む。

 いきなり気配を消したためか、キョロキョロと辺りを見回して探しているようだ。

「さて......ここからどう攻めるか」

 俺は頬の血を手の甲でぬぐって、考えた。

 あの長い槍のせいでまともに近づけず、攻撃することができない。

 超加速と暗殺術を使ってもなぜかバレた。なぜだ? たまたま?

 もう一度、同じ方法でヤツに近づき、ダメなら別の方法でいくしかない。

 なにか使えそうなスキルは......あっ、いいことを思いついた!

「魔力消費が激しいからあまり使いたくはないが......これで行くか」


 キングゴブリンの背中を見据えて、心の中で叫ぶ。

 (スキルーー超加速、暗殺術!)

 体感にして一瞬、階段から落ちたときのようなゾワッとした感覚が俺の身体を支配する。超加速のこの感じ嫌いだな......。

「グワァアッ......!」

 やはり気づかれたか!

 遅いわけでも気配があるわけでもないのに気づかれたとなると、心当たりは一つ。

「感知系のスキルだな!?」

 暗殺スキルで戦うことなく倒すという俺らしい、せこいやり方が通用しないのでプランBに移行する。

 そのままバックステップで距離を取り、警戒して槍を構えるキングゴブリンに向かって言い放った。

「火魔法ーーファイヤーボール!」

 掌の汗腺かんせんからじわっと汗が出て、やがて大きな火の玉が出来上がる。とても熱い。

「これでも食らっとけ!!」

 ブンブンと手を振り抜き、ファイヤーボールはまっすぐと敵目掛けて飛んでいく。

 
ーーが、その魔法はいとも容易く、槍で真っ二つに切り裂かれた。

 二つに割れた球の隙間からキングゴブリンのニヤリとした顔が見えた。瞬間、その表情は困惑へと変わる。

 なんと目の前にエイトが迫っていたのだ。

「ーーおらあっ!」

 腰を捻らせて大きく脚を蹴り上げる。

 その蹴りは油断して力を抜いたキングゴブリンの槍に命中し、槍は弧を描きながら遠ざかっていった。

 なにが起こったかわからない様子で飛ばされた自分の武器に視線を向けるキングゴブリン。

 それが命取りだ。

 俺は続けて、狙いをつけて腹にグーパンをお見舞いする。

ーードガァアアン!!

 洞窟を形成する岩肌に勢いよく叩きつけられたキングゴブリンはその場でズルッと倒れ込む。

 スキルで強化された拳はかなりくるだろう。

 俺の狙いは 最初はなからヤツの持っている槍をどうにかすること。

 ファイヤーボールで視界を塞ぎ、その隙に超加速で眼前まで移動。俺のとっておきの魔法を防いだ、と思わせて油断したところを魔人から奪ったスキルーー体術で仕留める。完璧な作戦だな。

 脅威である槍さえなければ、後はどうにでもなる。

 さすがに一発、食らわしただけだとまだ立ち上がるだろうが......あれ?

 キングゴブリンは死にかけの魚のような目をしながら、天を仰いで浅い呼吸をしていた。まさに虫の息だ。

「どうなってる? ......そうか、吸血魔の短剣の効果か!」

 最初に傷をつけてからかなり時間が経っていたからダメージが蓄積されていたんだ!

 戦闘が長引けば長引くほど俺の短剣の効果は真価を発揮する。すげえぞ、これは。できればすぐに終わらせて帰りたいけど。

 エイトはトドメを刺そうと近づく。

「まさか、演技とかじゃないよな? そんなせこいことしないよな?」 ※お前が言うな。

「マタ......カ。オマエ、ダケハ......」

 また? お前だけは? 一体、何をーー


 !! そうか、こいつ。あの時の傷だらけのゴブリンか!!

 だから俺は川でレベルアップしなかったんだ、こいつがまだ死んでなかったから!!

 あの日の謎がようやく解けた。

「お前も死にかけて強くなったんだな。ある意味、俺と同じか」

 これは親近感? それとも同情か?

 ゼーゼーという呼吸する音だけが森を包む。もう話す力すらないらしい。

「悪いが俺もやることができたんだ。お前のスキルを貰っていくぞ」

 キングゴブリンは最後まで俺を睨んでいた。


ーーグサッ!!


『レベルが上がりました』

『以下のスキルを取得しました』

-槍術
-殺気感知


「さて、帰るとするか......」

  飛ばされた三叉槍を拾い上げて、俺は静かに森を後にしたーー。
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