女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

エクシモ爺

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夏は休み

あたたかな魂

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 結衣は、驚いて口を金魚のようにパクパクとさせていた。
 私は、続けてゆっくりと話し始めた。

 まずは、R32セダンと、R31のハードトップを比べると、4.5センチもR32は全高が下がっているんだよ。
 そして全長は8センチ縮んでる。これだけ見ると、いかにもこのサイズダウンが、室内を狭めたように見えるでしょ?

 結衣は頷いた。

 でもね、結衣、室内長は、R31より2.5センチ長くなってるんだよ

 「ええっ!?」

 その代わりに幅が2.5センチ狭まって、高さは3.5センチ低くなってるんだよ。
 室内は、安全性でドアが厚くなったりするから、責められるものじゃないけど、これで分かる事は、サイズダウン分よりも、室内は影響を受けてないって事、むしろ長さには余裕ができたって事。

 「じゃぁ、なんで狭く感じるの?」

 そこなんだよね。
 ちなみにR31で標準的な座高の人が、頭の上に縦に拳を入れて若干振ることが出来たのに対して、R32は出来なくなってるんだよ。
 つまりは、頭上空間を狭くしてるんだよ。R32のセダンが狭く感じる理由の大きなところは、頭上空間の狭さによるものなんだよね。

 「なんで狭くしてるの?」

 当時の話では、タイトさを求めて狭めていたというような話だけど、狙いは、そこじゃないと思うんだよね。
 恐らく、当時流行っていた、ある車の忠実なコピーなんだよね。

 「ある車って?」

 R32登場の4年前、トヨタから登場したカリーナEDって車だよ。
 ちなみにEDは『エキサイティング・ドレッシー』の略で、男の人の病気じゃないからね。
 この車は、スペシャルティカーのセリカをベースに、4ドアハードトップのボディを被せた車で、カッコ良いデザインと、高い走行性能を両立した4ドア車として登場したんだ。

 でも、この車には、もう1つの側面があって、『大人が後席にまともに乗れない4ドア車』だったんだよ。
 主なユーザーは、働くお洒落な独身女性や、シルビアやセリカに乗っていて、結婚と共に4ドア車に乗る必要はあるけど、カッコ良い車に未練のある若い夫婦とか『アリバイ4ドア車』的な需要に最初は支えられていたんだ。

 「そうか、独身だったり、若い夫婦なら、子供ができても小さいから、後席が狭くても不満は出ないってか!」

 そういう事。なんだけど、これって、セダンとしては邪道なんだよね。だから、そういうものだって、分かって乗れば、面白いハズシなんだけど、伝統的なブランドのセダンの新型として登場するってのには向かないんだよ。

 そんなカリーナEDはバカ売れして、各メーカーからこの時期フォロワーがたくさん出てきたんだよ。マツダのペルソナ、日産のプレセア、ホンダのインテグラ4ドアハードトップ。それに加えて、トヨタのビスタ4ドアハードトップや、日産のローレルみたいに、従来型のモデルチェンジでも乗っかる車が出始めるようになってきたんだよ。
 だから、R32も必然的に、安易にそこに乗っかったんだよ。

 「でもさ、なんで他のモデルチェンジでは問題にならなかったんだ?」

 そこが違うのは、ローレルやビスタは、モデルチェンジをして、狭くなる分、ボディを拡大して対応してるんだよ。だから、従来型からの乗り換えで、頭上の狭さがあっても、前後長をゆったり取って、シートを寝かせ気味にすることが出来たんだよ。
 だけど、スカイラインは、前長を短くしたのに、カリーナED的デザインを採り入れたから、後席にしわ寄せが行ったんだよ。

 カリーナED的デザインの特徴は、フロントガラスを支える柱を思いきり寝かせて低くする。すると、前の席に人が乗れなくなるから、前席を力一杯下げる。すると、後席が圧迫されるけど、寝かせることが寸法上、出来なくなるから、後席が立ち気味になる。
 すると、リアガラスの柱が、フロントに比べて立ち気味になる……という特徴的なデザインになるんだよ。

 「でも、なんでみんな同じようになるんだ?」

 それは、当時の日本には、5ナンバー枠を超えられないという、ジレンマがあったからなんだよ。
 カリーナED的デザインって、大昔のアメリカ製の大型セダンを縮小してるから、バランス的に、長さが圧倒的に足りないんだけど、当時、5ナンバーを超えると維持費が爆上がりして、越えられないから、バランスがおかしくなるんだよ。

 「でも、それって批判されなかったのか?」

 されたよ、ペルソナやプレセアなんて、『デザインはくだらないの一言』とか『こういうものを喜んで買うユーザーに問題がある』とか、辛辣に言われてたけど、他方で同じ人が、R32のセダンに関しては『走り好きなら、これは割り切れる』とか、『運動性能は、室内に代償を求める』とか、マイナス要素を好意的なフィルターで覆い隠したんだよ。

 こういうメディア展開がされたから、以後の評価の中でR32のセダンが狭いのは正義だ、という訳の分からない論調がまかり通るようになっちゃったんだけど、そんな訳ないんだよね。
 まぁ、今でもそうだけどさ、そういう記事を書く人って、スポーティな車とかが好きだから、当然、こういう車種になると、あばたもえくぼで、好意的解釈に変換しちゃうんだよね。

 当時の実際の例だと、兄貴のレース友達に、子供の頃、R30のTIに乗っていて、親が乗り換えの時、順当に乗り換えでR32買おうという話になっていたんだって。
 母親も『同じ車種なら間違いないでしょ』って、トントン拍子で決まりかけたんだけど、試乗車に乗ったら、母親の評価が一変して、猛反対されて別の車になった、なんて話も、あったらしいよ。

 当時、日産にはプリメーラという欧州向けのセダンがあって、日本でも売れたけど、アレって、室内もトランクも広くて、外寸も小ぶりなのに、スポーティな走りできたでしょ? なんで、R32はダメなの?

 「ちょっと待てよマイ、プリメーラはFFだろ。FRのスカイラインと一緒にするなよ、それは卑怯だよ!」

 フフフ、結衣、言ったね、絶対言うと思ったよ。
 パッケージングの例で、プリメーラを例に挙げてR32との差異を指摘すると、絶対にプリメーラがFFであることを盾に、反論してくるって。
 じゃぁ、例を変えようか、R32登場1年後にモデルチェンジしたBMWの3シリーズは、FRで、直6エンジンを積んでて、全長もR32より短くて、全高もほぼ同じで、走りも良いのに、なんでR32より室内もトランクも広くできるの?

 「う……」

 兄貴がよくこの論理を使ってたんだって、兄貴の知り合いに、実際にR32セダンからBMWの3シリーズに乗り換えて、目から鱗だった体験をした人がいて、その話を訊いてから、自分で両車を借り出して検証して編み出したんだって。
 兄貴はよく『R32のセダンは聖域化され過ぎだ』って、言っていたよ。

 結局さ、これで何が起こったかって言うと、顧客から『後席と、トランクが狭い』って言われた時に、正しい理由を理解して検証するっていう作業が出来なかったんだよ。
 狭いって言われた時に、その理由をキチンと理解してないから、『R32は全長を短くしたのがいけない』っていう、違った結論に着地して、それを基にR33は大型化しちゃって失敗しちゃったんだからさ。

 「なるほどな、じゃぁ、R32の4ドアが狭かった理由は?」

 クーペ的なカッコ良さを求めて、カリーナED的デザインを採用したため、室内の頭上投影面積を無用に削り過ぎた事だよね。
 実際に数値以上に、視覚的にも狭いことが、特に大きかったと思うよ。だって結衣さ、首から上だけ狭い箱に入ってて、首から下はフリーでも、広さは感じないでしょ?

 「なるほどね」

 それと、素直にカッコよさと低さを求めて、デザインのトレンドに乗ってみましたって、言わなかったことも大きいよね。

 もう、なんかさ、R32の4ドア論だけで、結構長時間論議を闘わせてない?
 そろそろ展示車両を楽しもうよ。
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