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第5章 神々の宴
15.羽織りと狛犬
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(盗難でもあったのだろうか……?)
しかし、神々が集まる場で盗みなど働くだろうか。犯人は余程肝が据わっているか阿保なのだろう。
俺は不思議に思いながらも、先程の会話から翁が月神の関係者と思われたので、少し距離を取りながら後を追う事にした。
宴会場に戻ると、儀式を終えた神々が少しずつ集まり始めていた。
(……数が多いな。位の高い神なら何となく見れば分かると思ったが、これじゃ見つけられる気がしない……)
やはり唯一の手掛かりである爺さんを見失わないようにするのが一番だ。
そして俺は、彼の進む先に目をやって絶句した。
白く長い癖っ毛の着流し姿の神が、眼鏡を掛け白い羽織りに身を包んだ青年を引っ張りながら会場に入って来たのだ。
(あれは神様……と夏也?)
しかも、夏也が着ている羽織り。まさかとは思うが、さっき爺さんが話していた物ではなかろうか。
(アイツら何やってんだ全く……!)
もしそうなら、爺さんの視界に入った瞬間にバレてしまうだろう。怒りと不安を押し除けて、俺は翁に見つからない方法を必死に考える。
会場の脇に急須と湯呑みを見つけた俺は、お茶を入れた湯呑みをお盆に乗せて、素早く爺さんに近づいて行った。
『あっ!』
彼の真後ろまで来た俺は、つまづいた振りをして翁の着物の裾にお茶を溢した。
『わっ! 何だ貴様!?』
『た、大変申し訳ございません!』
俺は跪き、顔を見られないように伏せながら、近くにあった布巾で彼の濡れた着物を丁寧に拭いた。
周囲で談笑していた神々も皆こちらに注目している。視線を気にしたのか、翁は激昂したいのを必死に抑えるようにして、忌々しそうに俺の手を払った。
『ああ! もう良いわ! 着替えてくる!』
そのまま彼は怒って会場を出て行ってしまった。
後を追う訳にもいかず、俺は溢した茶を片付けながら夏也達の姿を探した。
視界の隅に、白いものを捕らえる。二人はどうやら会場の右端の方に向かったようだ。その先には、サザナミとお地蔵さんが座っていた。
(あの辺りに、俺の地元の神が集まっているのだろうか……)
そんな事を考えながら湯呑みを会場脇に下げに行くと、白い狼のような頭をした大きな獣人が二人、入り口から入って来た。
手足も獣のようだったが、濃緑の動きやすそうな着物を纏って二足歩行している。
『……犯人の手掛かりはないが、盗まれたものは月神様の白霧の羽織りだ。滑らかな白い生地に、白い糸で細かな刺繍が施してある』
『羽織れば人間でさえ、月神の神威を纏う事が出来るという秘宝か……。しかし、月神様の宝を盗み出すなんて恐れ多い事を他の神々が行うだろうか?』
『案外、盗み出したのは人間で、この会場に紛れ込んでいるかもしれないぞ……?』
彼等がそんな事を話しながら歩いていると、近くでお膳をつついて飲み始めていた神様達が箸を止めた。
『おい、聞いたか? 警備の狛犬達の話!』
髪の長い男神が、隣に座っている馬のような頭をした神に耳打ちした。
『何と? 人間が宴席に紛れ込んでいるのか?』
すると、それを聞いた鳥の頭をした神がすっくと立ち上がり、甲高い声で叫び出した。
『大変だ! 会場に人間が紛れ込んでいるぞ!』
どうも既に酔っ払っているらしい。鳥頭の発言により、辺りは急激にざわめき始めた。
(まずい……!)
俺は夏也達がいた方を確認する。白い羽織りを着た男が、垂れ幕の方に向かって走り出していた。
『おいおい! まさか本当に会場内に犯人が居たのかよ!?』
『とにかく追いかけて捕まえるぞ!』
警備の犬達は、夏也が駆け込んで行った垂れ幕の方へ、凄い速さで走って行く。
(今ここから走って行っても、犬達より早く夏也に追いつく事は出来ない。一体どうすれば……!?)
しかし、神々が集まる場で盗みなど働くだろうか。犯人は余程肝が据わっているか阿保なのだろう。
俺は不思議に思いながらも、先程の会話から翁が月神の関係者と思われたので、少し距離を取りながら後を追う事にした。
宴会場に戻ると、儀式を終えた神々が少しずつ集まり始めていた。
(……数が多いな。位の高い神なら何となく見れば分かると思ったが、これじゃ見つけられる気がしない……)
やはり唯一の手掛かりである爺さんを見失わないようにするのが一番だ。
そして俺は、彼の進む先に目をやって絶句した。
白く長い癖っ毛の着流し姿の神が、眼鏡を掛け白い羽織りに身を包んだ青年を引っ張りながら会場に入って来たのだ。
(あれは神様……と夏也?)
しかも、夏也が着ている羽織り。まさかとは思うが、さっき爺さんが話していた物ではなかろうか。
(アイツら何やってんだ全く……!)
もしそうなら、爺さんの視界に入った瞬間にバレてしまうだろう。怒りと不安を押し除けて、俺は翁に見つからない方法を必死に考える。
会場の脇に急須と湯呑みを見つけた俺は、お茶を入れた湯呑みをお盆に乗せて、素早く爺さんに近づいて行った。
『あっ!』
彼の真後ろまで来た俺は、つまづいた振りをして翁の着物の裾にお茶を溢した。
『わっ! 何だ貴様!?』
『た、大変申し訳ございません!』
俺は跪き、顔を見られないように伏せながら、近くにあった布巾で彼の濡れた着物を丁寧に拭いた。
周囲で談笑していた神々も皆こちらに注目している。視線を気にしたのか、翁は激昂したいのを必死に抑えるようにして、忌々しそうに俺の手を払った。
『ああ! もう良いわ! 着替えてくる!』
そのまま彼は怒って会場を出て行ってしまった。
後を追う訳にもいかず、俺は溢した茶を片付けながら夏也達の姿を探した。
視界の隅に、白いものを捕らえる。二人はどうやら会場の右端の方に向かったようだ。その先には、サザナミとお地蔵さんが座っていた。
(あの辺りに、俺の地元の神が集まっているのだろうか……)
そんな事を考えながら湯呑みを会場脇に下げに行くと、白い狼のような頭をした大きな獣人が二人、入り口から入って来た。
手足も獣のようだったが、濃緑の動きやすそうな着物を纏って二足歩行している。
『……犯人の手掛かりはないが、盗まれたものは月神様の白霧の羽織りだ。滑らかな白い生地に、白い糸で細かな刺繍が施してある』
『羽織れば人間でさえ、月神の神威を纏う事が出来るという秘宝か……。しかし、月神様の宝を盗み出すなんて恐れ多い事を他の神々が行うだろうか?』
『案外、盗み出したのは人間で、この会場に紛れ込んでいるかもしれないぞ……?』
彼等がそんな事を話しながら歩いていると、近くでお膳をつついて飲み始めていた神様達が箸を止めた。
『おい、聞いたか? 警備の狛犬達の話!』
髪の長い男神が、隣に座っている馬のような頭をした神に耳打ちした。
『何と? 人間が宴席に紛れ込んでいるのか?』
すると、それを聞いた鳥の頭をした神がすっくと立ち上がり、甲高い声で叫び出した。
『大変だ! 会場に人間が紛れ込んでいるぞ!』
どうも既に酔っ払っているらしい。鳥頭の発言により、辺りは急激にざわめき始めた。
(まずい……!)
俺は夏也達がいた方を確認する。白い羽織りを着た男が、垂れ幕の方に向かって走り出していた。
『おいおい! まさか本当に会場内に犯人が居たのかよ!?』
『とにかく追いかけて捕まえるぞ!』
警備の犬達は、夏也が駆け込んで行った垂れ幕の方へ、凄い速さで走って行く。
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