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第4章 河童の里と黒い怪物
14.バスに揺られて
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『神在月の会議?』
俺が尋ねると、神様は面倒臭そうに答えた。
『ああ、年に一度日本中の神々が出雲に集まって会議をするんじゃ。わしは社も失って信仰が集まらんので、力もすっかり衰えてしまっての。神様としてノーカウント状態だから、もう何年も行っとらんのだ』
この神様も結構切ない状況だったのだなと思ったが、当人は結構あっけらかんとしている。
神様に言われて思い出したが、旧暦の神無月、つまり十一月に出雲に全国の神が集まり会議を行うという話は知っていた。
そもそも神無月という月の呼び名の由来こそ、神々が皆出雲に行って留守になるのでつけられたと言われている。逆に出雲には神が集まるので、神在月と言うのだそうだ。
『会議は面倒じゃが、全国各地の神が集まっての宴会もあるし、お前さんも今年は参加出来ると良いのう……』
お地蔵様はふわふわの髭を撫でながら神様を気遣う。
『まあ、もし行く事になったら、宴会料理を楽しみにするかの』
『近くに美味い出雲蕎麦屋もあるからのぅ。時間が有れば立ち寄ってみるといい』
『そうさせて貰おう。では、お前さんも黒い霧には気を付けてな』
神様と俺はお地蔵さんと別れてバス停へと向かった。星呼山方面のバス停に並んでいる人はほぼ居なかった。
確かに、こんな時間にわざわざ山奥まで出掛ける人間はそう居ないだろう。
駅前を発車したバスの中は、数駅でほぼ無人になった。
田舎の山道は舗装が甘く、バスはガタガタと揺れた。
『社を見つけて、神の力を取り戻したいとは思わないのか?』
先程の会話を思い出し、俺は何となく神様に聞いた。彼は少し目を伏せて考えるような表情を見せたが、
『ふむ、まあそーすると色々と面倒な事も増えるからの、わしは今の暮らしを割と気に入っておるのだ。お前達の作る飯は美味いからのう』
と、答えた。何だかはぐらかされた気もするが、今の境遇をあまり悪く思っていないのは本心のようだ。俺は少しだけほっとした。
暫くの間、俺達は無言でバスに揺られていた。窓の外は暗くて良く見えないが、見えたところで対して面白くもない田畑が続いているのだろう。
隣に居る男は、きっと俺より何百年も長い間この地に存在していて、彼にとっては、ある特定の人間と過ごす時間なんて、この目の前を通り過ぎていく景色のように、殆どが一瞬の出来事なんだろう。
(俺達と一緒に見た景色は、神様にとって面白いものになっているだろうか……)
何気なく通り過ぎていく日常は、死んだ自分にとってもう帰らない時間でもある。
生きていた頃は、別にいつ死んでもいいと思っていた。何かを残したいなんて、考えた事も無かった。
だけど、この世界に俺として留まっていられる、この最期の時間で、一体俺に何が出来るのだろう。
最近は少し、そんな事も考えるようになっていた。
バスを降りると、生温い風がまとわりついてくる。九月も半ばを過ぎ、日が沈むのも早くなった気がするが、夜になっても温かい日が続いていた。
だが、この嫌な気配は季節のせいだけではないように思われた。
俺が尋ねると、神様は面倒臭そうに答えた。
『ああ、年に一度日本中の神々が出雲に集まって会議をするんじゃ。わしは社も失って信仰が集まらんので、力もすっかり衰えてしまっての。神様としてノーカウント状態だから、もう何年も行っとらんのだ』
この神様も結構切ない状況だったのだなと思ったが、当人は結構あっけらかんとしている。
神様に言われて思い出したが、旧暦の神無月、つまり十一月に出雲に全国の神が集まり会議を行うという話は知っていた。
そもそも神無月という月の呼び名の由来こそ、神々が皆出雲に行って留守になるのでつけられたと言われている。逆に出雲には神が集まるので、神在月と言うのだそうだ。
『会議は面倒じゃが、全国各地の神が集まっての宴会もあるし、お前さんも今年は参加出来ると良いのう……』
お地蔵様はふわふわの髭を撫でながら神様を気遣う。
『まあ、もし行く事になったら、宴会料理を楽しみにするかの』
『近くに美味い出雲蕎麦屋もあるからのぅ。時間が有れば立ち寄ってみるといい』
『そうさせて貰おう。では、お前さんも黒い霧には気を付けてな』
神様と俺はお地蔵さんと別れてバス停へと向かった。星呼山方面のバス停に並んでいる人はほぼ居なかった。
確かに、こんな時間にわざわざ山奥まで出掛ける人間はそう居ないだろう。
駅前を発車したバスの中は、数駅でほぼ無人になった。
田舎の山道は舗装が甘く、バスはガタガタと揺れた。
『社を見つけて、神の力を取り戻したいとは思わないのか?』
先程の会話を思い出し、俺は何となく神様に聞いた。彼は少し目を伏せて考えるような表情を見せたが、
『ふむ、まあそーすると色々と面倒な事も増えるからの、わしは今の暮らしを割と気に入っておるのだ。お前達の作る飯は美味いからのう』
と、答えた。何だかはぐらかされた気もするが、今の境遇をあまり悪く思っていないのは本心のようだ。俺は少しだけほっとした。
暫くの間、俺達は無言でバスに揺られていた。窓の外は暗くて良く見えないが、見えたところで対して面白くもない田畑が続いているのだろう。
隣に居る男は、きっと俺より何百年も長い間この地に存在していて、彼にとっては、ある特定の人間と過ごす時間なんて、この目の前を通り過ぎていく景色のように、殆どが一瞬の出来事なんだろう。
(俺達と一緒に見た景色は、神様にとって面白いものになっているだろうか……)
何気なく通り過ぎていく日常は、死んだ自分にとってもう帰らない時間でもある。
生きていた頃は、別にいつ死んでもいいと思っていた。何かを残したいなんて、考えた事も無かった。
だけど、この世界に俺として留まっていられる、この最期の時間で、一体俺に何が出来るのだろう。
最近は少し、そんな事も考えるようになっていた。
バスを降りると、生温い風がまとわりついてくる。九月も半ばを過ぎ、日が沈むのも早くなった気がするが、夜になっても温かい日が続いていた。
だが、この嫌な気配は季節のせいだけではないように思われた。
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