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第4章 河童の里と黒い怪物
15.打ち切られた捜査
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バス停脇で待っていたサブローと合流し、俺達は河童の里へと向かった。
サブローはするすると先頭を走るように案内してくれて、元気いっぱいだ。先日怖い目にはあったが、兄のドンが無事で安心したのだろう。
里の入り口近くまで来ると、河童達が数名迎えに出ていて、我々を歓待してくれた。どうもドンを連れ帰った事で、俺達は英雄扱いらしい。
『クプー!』
サブローが飛び上がって呼んでいる方を向くと、ドンが木の枝を杖代わりにして立っていた。彼はぺこりと頭を下げて真っ白なお皿を見せる。
『大分回復したようだな。……良かった』
俺と神様は彼に手を振って、河童の長、エンロウの家に入った。
『蓮雫!』
蓮雫は干し草を敷いた岩に腰掛けていたが、俺達を見ると立ち上がって迎えた。顔色は元から白いが、この間よりはずっと良くなったように思える。
『体調はどうだ?』
『すまなかったな。もう大丈夫だ。皆様にも大変世話になりました』
蓮雫はエンロウに柔和な笑顔を見せる。エンロウは恐縮したように手を振った。
『いやいや、あなた方は我々の恩人じゃ。当然の事をした迄です』
俺達は蓮雫に、黒い霧の正体が堕ちた神ではないかと考えている事、一度奴を遺跡に封じたのは月神ではないかと思っている事、奴の復活について今も別途調査に当たっているであろう月神に、閻魔を通じて情報共有を求めた事を告げた。
『ああ、私も閻魔様から伝え聞いた。そして、先程それについて連絡が届いたのだが……』
蓮雫は沈んだ表情で、懐から小さな巻物を取り出した。
『解』
蓮雫が広げた巻物の中央に指を当ててそう唱えると、白紙だった巻物に文字が浮かび上がってきた。
どうやら、霊界のメールのようなものらしい。閻魔との情報交換はこれで行っていたようだ。
そして俺と神様は、巻物に浮かび上がった文字を覗き込んで絶句した。
『これは……』
文字は漢字を含んでおり、日本語のようにも見えるが、これまで見たことのない不思議な文字だった。
自分には読めないと思われたが、眺めていると、その内容は不思議と頭の中に入ってくる。
「神界から返事が届いた。黒い霧による被害は神界でも感知しており、独自に調査に当たっている。今後の対応についても引き続き神界で対処するので、霊界は静観していて欲しいとの事だ。
よって本日より、蓮雫、護堂友和、西原銀一の黒い霧調査の任を解く」
新しい情報が何一つ得られないどころか、急に梯子を外された形になり、俺は呆然とした。
『……奴について気になる気持ちは分かるが、閻魔様は私の怪我の事もあって、これ以上お前達を危険に巻き込みたくないとお考えなのだろう……』
俺の表情から何かを察したのか、蓮雫は気遣わしげに声を掛けてくれた。
『しかし、アンタが必死に押し戻してくれたあの化け物が、また遺跡から出てくる前に、神界は本当に何か手が打てるのか? これまでも何の動きも感じられなかったのに……』
『……分からない。だが、今は信じるしかない』
蓮雫はうなだれた。俺は隣に立っている神様を見たが、その顔にいつもの笑みは無かった。
(ここまで調べさせて、俺達にはもう関わるなと……?)
俺は暫く黙っていたが、持っていた鎌を振り上げると、宙を切った。
空間が引き裂かれ、光が溢れ出す。
サブローはするすると先頭を走るように案内してくれて、元気いっぱいだ。先日怖い目にはあったが、兄のドンが無事で安心したのだろう。
里の入り口近くまで来ると、河童達が数名迎えに出ていて、我々を歓待してくれた。どうもドンを連れ帰った事で、俺達は英雄扱いらしい。
『クプー!』
サブローが飛び上がって呼んでいる方を向くと、ドンが木の枝を杖代わりにして立っていた。彼はぺこりと頭を下げて真っ白なお皿を見せる。
『大分回復したようだな。……良かった』
俺と神様は彼に手を振って、河童の長、エンロウの家に入った。
『蓮雫!』
蓮雫は干し草を敷いた岩に腰掛けていたが、俺達を見ると立ち上がって迎えた。顔色は元から白いが、この間よりはずっと良くなったように思える。
『体調はどうだ?』
『すまなかったな。もう大丈夫だ。皆様にも大変世話になりました』
蓮雫はエンロウに柔和な笑顔を見せる。エンロウは恐縮したように手を振った。
『いやいや、あなた方は我々の恩人じゃ。当然の事をした迄です』
俺達は蓮雫に、黒い霧の正体が堕ちた神ではないかと考えている事、一度奴を遺跡に封じたのは月神ではないかと思っている事、奴の復活について今も別途調査に当たっているであろう月神に、閻魔を通じて情報共有を求めた事を告げた。
『ああ、私も閻魔様から伝え聞いた。そして、先程それについて連絡が届いたのだが……』
蓮雫は沈んだ表情で、懐から小さな巻物を取り出した。
『解』
蓮雫が広げた巻物の中央に指を当ててそう唱えると、白紙だった巻物に文字が浮かび上がってきた。
どうやら、霊界のメールのようなものらしい。閻魔との情報交換はこれで行っていたようだ。
そして俺と神様は、巻物に浮かび上がった文字を覗き込んで絶句した。
『これは……』
文字は漢字を含んでおり、日本語のようにも見えるが、これまで見たことのない不思議な文字だった。
自分には読めないと思われたが、眺めていると、その内容は不思議と頭の中に入ってくる。
「神界から返事が届いた。黒い霧による被害は神界でも感知しており、独自に調査に当たっている。今後の対応についても引き続き神界で対処するので、霊界は静観していて欲しいとの事だ。
よって本日より、蓮雫、護堂友和、西原銀一の黒い霧調査の任を解く」
新しい情報が何一つ得られないどころか、急に梯子を外された形になり、俺は呆然とした。
『……奴について気になる気持ちは分かるが、閻魔様は私の怪我の事もあって、これ以上お前達を危険に巻き込みたくないとお考えなのだろう……』
俺の表情から何かを察したのか、蓮雫は気遣わしげに声を掛けてくれた。
『しかし、アンタが必死に押し戻してくれたあの化け物が、また遺跡から出てくる前に、神界は本当に何か手が打てるのか? これまでも何の動きも感じられなかったのに……』
『……分からない。だが、今は信じるしかない』
蓮雫はうなだれた。俺は隣に立っている神様を見たが、その顔にいつもの笑みは無かった。
(ここまで調べさせて、俺達にはもう関わるなと……?)
俺は暫く黙っていたが、持っていた鎌を振り上げると、宙を切った。
空間が引き裂かれ、光が溢れ出す。
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