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お引越し準備、の準備 13

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 ネフ村までの長い旅路。子供たちが退屈しないように何か遊べるものを用意しておこうと思ってどんなものが欲しいか聞いてみたら、「組紐用の糸が欲しい!」と言われて驚いた。今もこの家には十分な量があるからだ。

 なのに、休憩中は当然として移動中もやりたいからもっといっぱい欲しいと言われて慌てて止める。だって、この世界の馬車ってすっごく揺れるんだよ!? そんな馬車内で組紐なんて組んでいたら、きっと乗り物酔いしてしまう……。

 私がこの街に来る時に乗っていた馬車の揺れ方を詳しく話して、休憩中や夜眠るまでの間の暇つぶしに何が欲しいかと聞き直しても、やっぱり欲しいものは<組紐用の糸>らしい。

 寸暇を惜しんで働くようなブラックな環境を作るつもりはないと説明すると、子供たちは一瞬きょとんとした表情になり、次いでお腹を抱えて笑い出す。

「ちがうよ、アリスちゃん! わたしたちは組紐作りが本当に面白いんだよ~!」
「そうそう! 今はみんなで、どうしたら新しい柄になるのかとか、組んだ後の紐の面白い結び方がないかの❝研究中❞なの! だから、本当に<糸>が欲しいの!」

「それに、村に着いたら私たち以外……、他の孤児院の子や村の人たちも組紐を作るんでしょ? いっぱい持って行かないと!」

 ということだ。……どんな言い方をしても❝仕事❞の延長線上になる話だって分かっているのかな?

 私としては<本>とか<ボードゲーム>とか<積み木>などを想像していたんだけどね。でも、子供たちが「糸がいいの!」と声を揃えるので商業ギルドに糸を買いに来た。

 んだけど……。過去2回の大量購入のせいで、ギルド内だけでなくお店のストックもかなり寂しい状態のようで……。

 対応に出て来てくれたラファエルさんも、少し困り顔だった。

 どうしようかな? 糸自体は潤沢にあるんだよね。私のインベントリの中だけど。今後も大量に必要になると思っていたし、私自身のストックも欲しかったから、大量に複製しておいたんだ。

 でも、ここで手に入れた分を上回る量の糸を渡すわけにもいかないしなぁ……。きっとバレる。特に私の目の前にいる男性には要注意だ。バレないわけがない。だって、

「今までの納品分と子供たちの作業量からまだ大量の糸が残っていると思っていたのですが……、もう、なくなってしまったのですか?」

 なんて不思議そうに聞いてくれるんだもん! 

 その通りだよ! まだまだ糸はたくさん残ってるんだ! ……あ、そうか。

「ううん、まだ残ってる。ねえ、ここじゃなくてジャスパーのギルドなら手に入るかな?」

 何もここから買って行かなくても、途中で買い足せば済む話だったんだ。

 この優秀なギルド職員さんにお願いしておけば、組紐に適した糸を大量に用意してくれるだろうしね!

「ええ、もちろん! ミネルヴァ家のみなさんの移住計画を聞いて、今後は糸の取引が活発になるだろうとギルドに報告しておきましたからね。今頃ギルドでは糸を買い集めるだけでなく、糸の増産計画が練られている頃かと思いますよ」

 ……この優秀過ぎるギルド幹部さんに任せておけば、きっとスムーズにお買い物ができるだろう。他のものまで買い過ぎないように、気を付けないとね!












 馬車旅の必需品❝クッション兼寝床❞になる布や毛皮などを買い込んでミネルヴァ家に戻ってみると、

「アリスちゃん、おかえりーっ!! アリスちゃんにお客さまだよ~!」

 庭でサンドイッチをおいしそうに齧っている子供たちが迎えてくれた。具材は…、キュウリとトマトかな?

 子供たちが作ったとは思えないとてもきれいなサンドイッチだと思って見ていたら、

「お客さまがくれたのーっ! とっても有名なお店のものだってお姉ちゃんが言ってた。美味しいよーっ!」

 嬉しそうに教えてくれる。

 そしてお客さまからのお土産を庭で食べている理由は、

「アリスちゃんのまねっこなの~。お庭で食べるの楽しいね!」

 ということらしい。

 子供たちがピクニックシート代わりに敷いているのは頑丈な帆布。で、嬉しそうに手を振る視線の先にはイザック。

「帆布は俺が敷いたし、バスケットも俺が庭まで持って来た。 子供たちの手は洗った後はずっと両手を上げさせて、食い物以外には触れさせていないから大丈夫だぞ」

 私の視線を感じたイザックが得意そうに説明をしてくれたから、私も安心して子供たちに笑いかける。

「うん、お庭で食べるとより一層美味しく感じるよね! みんな、食べる前にちゃんと手洗いできて偉かったね!」

 イザックが見ていてくれるなら安心だ。

 私はみんなに微笑みかけてから、急いで家の中へ入った。

 ミネルヴァ家に私宛のお客さま? いったい誰だろう?












 ミネルヴァさんの部屋から響く、明るく朗らかな笑い声。

 ミネルヴァさんともう1人、最近聞いた覚えのある声だ。と思っていたら、

「「おかえりなさい」」

 声の主はカッサンドラさんだった。ということは、あのサンドイッチは<キャロ・ディ・ルーナ>の料理人が作ったものかな? そりゃあ、綺麗に作っているわけだよね!

 私への用は、今すぐにでも庭の隅に物置を建てたいとのお願いだった。肥料を入れておくのに立てておきたいらしい。ミネルヴァ家の引っ越しの後にすると、物置が出来上がるまでの間の置き場所に困るから、とのことだったので、

「ミネルヴァさんと子供たち次第かな」

 と答えると、ミネルヴァさんも、

「私も子供たち次第ですね」

 と答える。

 それを聞いたカッサンドラさんはサッと部屋を出て行き、

「子供たちの了承がとれましたわ!」

 すぐに戻って来て、嬉しそうに報告してくれた。

 自分たちのテリトリーが狭くなっちゃう事なのに、随分とあっさりOKを出したな。と思って気が付いた。

 あのサンドイッチ! ただの<お土産>かと思っていたら、実は<賄賂>だったんだね!?

 効果は抜群で、子供たちが喜んでいたからか別に良いんだけどね。

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