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お引越し準備。の準備 14

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 子供たちの了承を取ったカッサンドラさんの次の行動は早かった。

 子供たちをお使いに出して(もちろん有料♪)さっさと職人さんを呼ぶと、庭の端っこに肥料用の小屋を建て始めたのだ。

 突然始まった大工工事に子供たちも興味津々な様子だし、なんとな~く私も一緒に見学していたら、

「子供たちはそろそろ昼寝の時間じゃないかな?」

「まあ! 旦那さま!!」

 総支配人さんがやって来た。背後にリベラトーレさんを引き連れて。

 この街一番の宿の総支配人さんのお出かけなのだから、Bランク冒険者を護衛に連れていてもおかしくはないんだけど、なんとなく総支配人さんっぽくないな~と思っていたら、

「やあ、アリス! ロランドさんの注文でピザを届けに来たんだが、どこに出せばいい?」

 リベラトーレさんが明るい笑顔で問いかける。

 どうやら今日は<冒険者>としてではなく、<実家のお手伝いピザやのはいたついん>として来たらしい。

 そういうことなら注文主さんに一言声掛けするべきだろうと総支配人さんを見ると……、リベラトーレさんがどうして注文主そうしはいにんさんではなく私に問いかけたのかがわかった。

 総支配人さんは、

「わざわざピザを買って来てくださいましたの?」

「ああ。突然の工事で子供たちに迷惑をかけてしまっているからね。我々の為に庭が狭くなることを許してくれたことへのお礼も兼ねているよ」

「うふふ、それだけですの? お忙しい旦那さまがわざわざその為だけに?」

「愛しい君の顔を見たかったから私が自ら来たんだ、と言わせたいんだね?」

「まあ、うふふっ……」

 片方の腕でカッサンドラさんの腰を抱き、もう片方の手で愛し気に髪を撫でていて……。うん、邪魔しちゃいけない気がするな。

 ラリマーここでは珍しくない光景なのか子供たちは何とも思っていないようだけど、私はなんだか照れくさくて……。

 リベラトーレさんを家の中へ案内した。













 総支配人さんが注文してくれたのは、焼く前のピザだった。色々な種類の具材が乗ったピザが50枚。

「もう、メシの準備をしていたらこちらさんの迷惑になっちまうからってロランドさんがな。
 以前ならこんな注文は絶対に受けなかったんだが、これもアリスさんのお陰だ。オヤジのヤツ、持ち帰り用の<家のフライパンで焼いても美味い生地>を作りやがった」

 リベラトーレさんに嬉しそうに説明されて感心する。

 総支配人さんの気遣いにもだけど、❝ピザはピザ窯で焼く❞にこだわりを持っていた店主さんが、この短期間で❝フライパンで焼いてもおいしい生地❞を作り出したことにだ。

 これなら❝釜で焼いたけど冷めたピザ❞を温め直すよりももっとおいしい焼きたてピザが食べられる。

「にゃにゃんっ!」
「ぷっきゅん!」

 当然、うちのグルメくいしんぼうな従魔たちが、フライパンで焼くことに特化した生地と聞いて興味を示さないわけがない。

 以前に譲ってもらったピザ生地はまだ残っているけど……、100枚のピザ生地を注文させてもらった。

 もちろん今日の話じゃないよ? 明日のお昼にお店行くことを約束してリベラトーレさんを見送った。












 ピザを預かっていることを報告しにミネルヴァさんの部屋へ行くと、中から穏やかな笑い声が聞こえてきた。

 いつの間にか総支配人さん夫妻がこちらに移動していたようだ。

 2人はこの家の元の持ち主であるミネルヴァさんに、庭は畑にしてしまうけど、みんなの思い出の詰まったこの家は決して粗雑に扱わないことを約束し、今後の方針を詳しく説明してくれた。

 それに対してミネルヴァさんは2人の気遣いに丁寧にお礼を言い、

「思い出は私たちが大切に持って新天地へまいります。ですのでどうか、この土地と家はあなた方の良いように。アリスさんが信頼してこの土地を売ったのです。この土地があなた方の役に立つことを願います」

 朗らかに笑って、❝お気遣いなく❞を告げる。

 この家の住人であるミネルヴァさん達を気遣って、わざわざ挨拶に来てくれた総支配人さん夫妻と、思い出の詰まっている家を壊さないことよりも、ここが2人の役に立つことを願ってくれたミネルヴァさん。

 改めて思う。相手のことを思いやれるこの人たちが私は大好きだ!












 総支配人さんの読み通り、ミネルヴァ家では昼食の支度が始まっていたのでピザの出番は夜までお預けと思われたんだけど、子供たちが❝お家で焼く❞ピザに興味津々で……。

 昼食の予定が煮込み料理だったこともあり、煮込み料理は置いておいた方が味が染みるから、と理由を付けて夕食に、昼食は総支配人さんチョイスのピザになった。

「普通にピザを買ってきた方が良かったのかしら……?」

「おばさん、わかってないな~! おチビたちは、家で、目の前で焼くことが嬉しいんだよ!」

 少しだけ困ったように呟いたカッサンドラさんに子供たちが楽しそうに笑うと、

「そうなの? さすがはわたくしの旦那さま♪」

 カッサンドラさんは総支配人さんに熱い眼差しを向け、2人の仲良しぶりに拍車が掛かった。

 私はこんなに若々しくて綺麗なカッサンドラさんを❝おばさん❞呼びする子供たちに一瞬たじろいでしまったけど、当のカッサンドラさんがちっとも気にしていないようだったのでとりあえずスルーしておく。

 ……子供って、素直な分、たま~に冷汗をかかせてくれるよね。

 まあ、とりあえず! これで、この❝家❞についての心配は何もなくなった!ということで。

 子供たちが楽しそうにピザを食べ終え、お昼寝の為にちっちゃい子たちを寝かしつけるのを待ってから、私は安心してお買い物の続きに出かけることにした。
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