上 下
577 / 754

治癒士ギルド 静かではない戦い 1

しおりを挟む





「きさま、我らとビジュー神に逆らうつもりか!」
 ❝ジュ……❞

「自分の為に幼い子らの自由を奪うことを、何と考える!? さっさと出てくるがよい!」
 ❝パリンッ❞

「は、はやく子供たちを解放しなさい! あなたが意地を張らなければ、その子供たちは安全なのです!」
 ❝シュン…❞

「ふんっ。おまえの為に犠牲になるのが、その二人だけだと思っているのか!? おまえに欠片ほどでも他者への愛惜の感情があるのならさっさと我らに許しを請い、この誓約書にサインをするのだ!」
 ❝ドカッ!❞

「アリス、ねえちゃん……、どうして俺たちはこんな目に遭わなきゃいけないんだ? あのおっさんたちは俺たちを保護しに来たって言っていたのに、どうして俺たちに魔法攻撃を仕掛けてくるんだ?」
「あたちたち何もワルイ事してないのに、どうしておじちゃんたちはあたちたちをいじめるの?」

「うん、2人は何にも悪い事してないよ。 悪いのはあのおじさん達と私なの。 
 きちんと説明をするけど、その前にごはんを食べない? ここに連れて来られてから今まで何も食べさせてもらっていないんでしょ?」

「「…………………食べる」」

 ……突然ですが、私は今、教会の一室に立てこもっています。というか、子供二人と一緒にハクが張ってくれた防御結界内で身を守っています。

 ちなみに、さっきから怒鳴り声をあげている1人目の男はファイヤーアローで、2人目の男はアイスランスで、3人目の女性はとっても手加減したウインドカッターで、4人目の男は大きなバットルアックスでそれぞれ私たちを包む防御結界を攻撃中です。

 どうしてこうなったかを一言で言うと、ヤツらが聞いていた以上の外道だったから。としか言えないなぁ。

 私自身を攫うことはもちろん、私の一番大切なハクとライム、関わりのある人たちを攫って人質にすることも無理だと悟ったヤツらは、とうとう強硬手段にでた。

 私とは何の関係もない子供2人を言葉巧みに教会に誘い込み、私に対する人質にしたんだ。












 宿のベッドで迎えた朝。いつものように窓を開けると、いきなり飛び込んで来ようとした一羽の鳥。ハクが張ってくれていた不可視の防御壁に阻まれて飛び込んでは来なかったけど、防御壁に突っ込んだ勢いで弾き飛ばされた。

 弾かれた衝撃で気を失い、そのまま落下していくのを見捨てなかったハクに拾われた鳥(ハクの安全基準をクリアしたらしい)は足元に書簡用の筒が括りつけられていたので、取り合えず内容を確認してみれば、……子供2人の安全と引き換えに治癒士ギルド(教会)への招待を受けろと言う文言。もちろん❝誰にも内密に❞との注釈付き。

 もちろん罠だってことはわかっていた。でも、何の罪もない子供2人が私の為に非道な目に遭っていることを見逃すことはできず、渋るハクとライムを必死で説得して護衛たちの目を撒き、教会にやって来たんだ。

 ああ、もちろん❝内密に❞なんて指示にはしたがっていない。

 私自身はそのまま窓際から離れずに迷っているそぶりを見せつけ、その間にハクに手紙を総支配人さんの所に届けてもらった。❝まずは様子を見ていてほしい❞と一筆添えて。

 そうして教会に着いたところ、子供2人を解放して欲しければ❝【治癒士ギルド】に入りたいと私の口からこいねがい❞、❝教会に身柄を移す❞ことを要求される。

 もちろん両方ともお断りだ! でも、いきなりお断りなんてできるはずもなく、私は必死に迷っている演技をし、私が巻き込んでしまった(心の中では外道たちが勝手に巻き込んだと思っているよ!)子供2人の安否を確認したいとお願いをした。

 さすがに無理かと思っていたんだけど、もう、自分たちが有利だと確信していた治癒士ギルドの下っ端は私の願いを聞いてくれ、2人を私の所に連れてくる。もちろん、逃亡防止の為に5人ほどの男たちが一緒について来たけどね。

 でも、ヤツらに対して❝遠慮❞の心を捨てている私たちにとっては、5人と下っ端君が束になっていても関係ない話。

 子供の姿を確認すると同時にアイスボールをヤツらに投げかけ、ヤツらがひるんだ隙に子供たちを部屋に引っ張り込み、すぐさまハクに防御結界を張ってもらって身の安全を確保した。

 後は、どうやって教会から出て行くか、なんだけど。

 まずは腹ごしらえを優先する。だって、さっきから子供たちが空腹で目を回しそうなんだもん。

 とりあえずは、たっぷり野菜と玉子の雑炊でも食べてもらおうかな。 デザートにはプリンを出して、ここから出る為の案を考えるのはその後くらい?

 ハクの結界がある限り、こいつらが私たちを害することは難しいだろう。 

 だったら時間はたっぷりあるし、わたし達も一緒に食べちゃおうかな♪
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る

恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。 父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。 5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。 基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

処理中です...