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治癒士ギルド 静かではない戦い 2

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 ❝君たち兄妹を保護してあげよう❞

 そんな言葉に騙されて連れて来られた先では見知らぬ大人たちの冷たい視線に晒され、空腹のまま暗い部屋の一室に閉じ込められていたらしい子供たち。

 そして今は、怖い表情で罵りながら攻撃を仕掛けてくるヤツらに囲まれている状態なんだけど……。

(ぐっすりなのにゃ)
(きもちよさそうだね~?)

 寄り添い合った2人はそのままお互いを支えにして、眠り込んでしまった。

 消化の良いごはんとおやつでお腹がいっぱいになったせいだとは思うんだけど、ちょっと無防備すぎないかな? ヤツらの攻撃は相変わらず続いているし、私が彼らを見捨てて自分だけ逃げだしたらどうするんだろう……。

 ちょっとだけ2人の今後が心配になったんだけど、

「……ぷりん」

 気丈に振舞っていた少年の口から飛び出した可愛らしい寝言に、思わず頬が緩む。

 気に入ってくれたってこともあるんだろうけど、妹さんがプリンを食べて大喜びしていた姿を見て自分の分を半分あげていたからね。食べたりなくて夢に見ているのかもしれない。

 目が覚めたら果物たっぷりのゼリーを出してあげるからね? 今はプリンの事は忘れて、健やかに眠るといいよ。











「下の者が無粋な招待をしてしまったようで、すまぬのぉ」

 ちっとも悪いなんて思っていない声でしらじらしいことを言いながら現れたのは、

(ゴテゴテしてるね~)
(こういうのを❝趣味が悪い❞って言うのにゃ)

 中肉中背。緑色の髪だけが華やかで、鼻が少しだけ上を向いているほかは至って普通の容姿の男性だった。

 でも2匹の言う通り、10本の指全てを宝石で飾り、耳にもリングをじゃらじゃらと揺らし、光沢のある白い布をトガのように纏っている上から宝石付きのベルトを締めている姿は❝悪趣味❞の一言に尽きる。

 あまりの趣味の悪さに開いた口を塞ぎ忘れた私たちの姿をどう受け止めたのか、彼は得意気に自分が治癒士ギルドのマスターであり、女神に選ばれた存在でもあるので近いうちに叙爵される予定だと名乗りをあげた。 名前? なんか言っていたけど聞き流しちゃったよ。覚える必要を感じなかったからね。

 それにしても、今回の諸悪の根源である彼は、元・貴族家の生まれだったと記憶しているんだけど……。貴族って趣味が悪くても務まるものだっけ?

 私は今まで出会った数少ない貴族たちの姿を思い出す。 うん、子爵だった男はあまりいい趣味だとは言えなかったけど、伯爵家の嫡男は普通の貴族服(あくまでも私のイメージだけど)。そしてこの街の領主さんは、お忍びということでいかにも!な貴族服ではないものの、良い生地を使ってすっきりと落ち着いた服を着ていた。

 モレーノお父さま? こんな男とは元の土俵が違うので今は思い出しません!

 とりあえず思ったのは、こんな男を叙爵なんてしたら王国の恥になりそうだと言うことだ。まあ、良識ある王さまならこんな男に爵位なんて授けないだろうし、聞き流して大丈夫だろうけどね。

 私たちが黙り込んでいる間にも彼の得意気な自慢話は続いていて、そろそろお引き取りいただきたいなぁなんて思っていたら、

「そなたも女神の寵愛を受けていると巷では評判だと聞いた。ならば下々の中であくせく働くなどという見苦しい行いは自重するがよいぞ。我直々にギルドに迎えてもらえる幸運を噛みしめるがよい」

 などとふざけたことを言い出し、次いで、

「何をそんなに渋っておるのだ? ああ、ギルド内での地位や献金額が不安なのか? だったら可愛らしく我に縋るがよい。閨の中で可愛く強請るならそなたを我がギルドの……、いや、教会の<聖女>として昼も夜も慈しんでやろう」

 聞くだけで耳が腐りそうな戯言を口にする。

(もう、我慢の限界なのにゃ!)
(ハク! がんばって!!)

 その戯言に私の可愛い従魔たちが限界を訴えたその瞬間だった。

 ❝ドッゴーン!!!❞

 何かが壊される音と共に、

「誘拐・恐喝の罪で捕縛する。大人しく縛につけ!! 攫った子供とアリスさんを大人しく引き渡すのなら手荒な真似はしないでやる!…………多分な」

「うちのアリスを返しやがれ、このド腐れ治癒士ども!!! 万が一にでもアリスに何かしていたら2度とビジュー神像を拝めなくしてやる!!」

「アリスさまは私の大切な大切な商会員です! たとえ髪一筋分でも傷をつけていたなら、この街ではもう何も手に入らないと心しなさい!」

「おまえたち! 金目のものは壊すんじゃないぞ! この敷地内の物は全て没収して領民に還元するのだからな! 
 治癒士や教会の腐れども? 多少壊れても自分たちで治せるだろうから命以外は好きにするが良い。私が許可する!」

 頼もしい大音声とともに、人がなだれ込んでくる音が聞こえた。

 どうやら助けが来てくれたらしい。

「わ、我々に逆らうなら、今後2度と治癒をうけられないと……」
「やかましいわっ! どきやがれっ!!」
 ❝バキッ!❞

 内部にいたヤツらの脅し文句など歯牙に掛けずに、突き進んでくる多くの足音に、

「アリスねえちゃんっ! 逃げよう!」
「こわい…、こわいよぉ!!」

 目が覚めたらしい子供たちが怯えているが、

「頼りになる人たちが私たちを迎えに来てくれただけだから大丈夫だよ~。 目が覚めたなら、ついでにゼリーを食べない?」

「「……………」」
 私は満面の笑顔で❝おめざ❞を勧める。

 まだ寝ぼけているのか、2人は口を開けて私をじっと見つめるだけなんだけど……。

 口を開けたままのお間抜け顔が可愛いなんて、子供たちの特権だよね?

「にゃ~♪(食べるにゃ~)」
「ぷきゃ~♪(たべる~)」

 どんな時も食欲旺盛な2匹の鳴き声は、怒声や悲鳴、破壊音が響く中でもしっかりと聞こえた。

 うんうん、いっぱい食べようねぇ♪
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