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新しい役職。 こっちではなんて言うんだろうね?
しおりを挟む極桃オーク肉のステーキから始まりミルフィーユ極桃オークカツと極桃オーク肉のハンバーグ。それとそれぞれの付け合わせに塩ゆでした人参とブロッコリー、千切りキャベツ、カットしたラフトマトとレタスを添えれば、極桃オーク肉の塊・スライス・挽肉メニューをコンプリートする訳だけど、素材を変えただけで今までのメニューと代わり映えしないのがやっぱり寂しい。
なので、これらのメニューはサイドメニューにして、別のものをメインに据えることにした。もちろん、サイドメニューの方を気に入ってくれたならいくらでもおかわりOKの形にしてね!
今夜のメイン料理の為に、食事会の部屋はコネクティングルームを使うことにする。
ここは調理場として使う為に調度品を全てを取り払ってもらっているからとても殺風景なんだけど、かまどを設置する為には仕方がない。
幸い今夜のお客さまはみんな気心が知れている人たちなので、この部屋に通しても誰も笑顔を曇らせることなく……、と言うか、なんだかすっごく期待値が上昇している気がする。
みんなの視線は部屋の真ん中に設置しているかまどと鍋に張られたオーク骨スープ、隣に置かれているテーブルの上のカット野菜とお皿に山盛りの極桃オーク肉のスライスに釘付けだ。
「……フォンデュ、ですか? でも、中はチーズではない?」
以前チーズフォンデュを食べたことのあるラファエルさんだけが、なんとなく食べ方を察したようだけど、ディアーナとシルヴァーノさんは不思議そうに鍋を覗き込んでいる。
「今日は立食なの?」
ディアーナが、テーブルは置いてあるのに椅子がないことに気がついて楽しそうに聞いてくれた。不快そうでないことに一安心だ。室内なのに立ったままで食べるのは行儀が悪い、と叱られる不安があったんだよね。
「うん。今日はこのかまどを囲む形での食事スタイルになるから、椅子は置けなかったんだ。このテーブルの所に置いても良かったんだけど、立ったり座ったりするのが面倒かな?って思って……。椅子があった方がいいならすぐに用意するけど」
「ううん、大丈夫。アリスが不要だと思ったのならいらないわ。疲れてしまったらお願いするかもしれないけどね?」
「私も大丈夫です」
「私もですよ。それよりも早くこの料理の食べ方を教えていただきたいですね。料理名はあるのですか?」
一応、椅子が必要かと聞いてみたんだけど、みんながこのままでいいと言ってくれたので早速食事を始めることにする。ハクとライムもずっとソワソワしているしね^^
みんなの視線が集まった所で、私はおもむろに口を開く。
「今夜の料理は<しゃぶしゃぶ鍋>! 本来は自分のペースでお肉やお野菜を調理しながら食べる料理なんだけど、今日は各自にサイドテーブルの用意ができなかったから、私が<奉行>を務めるね。
みんなは器とフォークを手に持ってお鍋の周りに集まって? ハクとライムはこっちのテーブル上に」
寝室から借りてきたナイトテーブルにハクとライムを案内すると、みんながワクワクした顔で食器を手にかまどの周りを囲んでくれる。
「ブギョウとはなんですか?」
ラファエルさんは❝奉行❞と言う聞きなれない単語に気を留めたようだけど……。説明に困ってしまった。
そっか、こっちではまだこの料理はないみたいだから、当然❝鍋奉行❞なんて言ってもわからない。というか、❝奉行❞なんて職名があるわけもなく……。
「あ~…、本来は各自のペースで食べたい食材を好きな順番で食べられるのが鍋料理のいい所なんだけど、これもお料理だから、食材を入れる順番や熱を通す時間で味が変わったりするんだよね。だから❝自分の一番おいしいと思う食べ方でみんなに味わってもらいたい❞って考える人が、全員分の調理を強制的にしてくれることがあってね? 邪魔すると叱られたりするから、その人のことを<鍋奉行>❞って呼ぶんだ。
<奉行>って言うのは私の故郷で、昔使われていた役職名の1つだよ。それなりに偉い役職だね」
簡単に説明をしながらみんなの器にお出汁を注いで、まずはお肉を鍋に投入。もちろんひとまとめになんて入れません!
ちゃんと1枚1枚をしゃ~ぶしゃ~ぶして、いい頃合いになったら隣に立っていたシルヴァーノさんの器に入れる。「熱いから気を付けてね?」とだけ声を掛けて、次々に火の通るお肉を反対側に立っていたラファエルさんの器、正面に立っているディアーナの器に入れていく。そして期待しながらもおとなしく待ってくれていた可愛い従魔たちにはこっそり(?)2枚ずつ入れてやり、みんながそれぞれにいただきますの挨拶をしている間に、次のお肉をお鍋に投入!
「器が空いて次のお肉が欲しい人は、私が器に入れやすいように少し前に出してね? 火傷をしないように気を」
❝つけて❞と最後まで言い終わる前に、前に出される3つの器と「にゃーっ!」「ぷきゃー!」という可愛らしい催促の声。
声もなくこちらを見つめる3人もどうやらお気に召してくれたらしい。それぞれに2枚ずつのペースでお肉と野菜を給仕していると、
「これだとアリスが食べられないわ……」
ディアーナが困ったようにフォークを止め、
「ブギョウとは、私では務まりませんか?」
「是非私にブギョウの大役を」
シルヴァーノさんやラファエルさんが気を遣って、奉行交代を申し出てくれる。
もちろん、代わって貰ったりしないよ? 今夜は最後まできっちりとおいしく食べてもらいたいもん。
ディアーナたちがフォークを持つ手を止めたので、鍋の中のお肉と野菜を全てハクとライムの器に入れてからテーブルに移動して、サイドメニューのステーキ、オークカツ、ハンバーグを取り出す。
それぞれを一口大に切ってあり、「付け合わせの野菜まで全部食べてから、おかわりを受け付けるよ~」と声を掛けると歓声が上がって、それぞれがサイドメニューにフォークを伸ばしたので、私はまたかまどの前に戻ってお肉を投入。みんながサイドメニューに流れている間に私もしゃぶしゃぶを楽しむことにした。
……オーク肉とオーク骨で取った出汁だから少ししつこくないかな?と思っていたんだけど、出汁に使っているレモンがいい感じにさっぱりとした仕上げにしてくれていて、とってもおいしくて食べやすい。
さすがは貴族に大人気の極桃オーク肉だけあって、お肉がとにかくおいしいんだ! 赤身はあっさりとしたほのかな甘みで噛めば噛むほど肉の旨味に溢れていて、脂身は濃厚だけどくどくない甘みのある極桃オーク肉はいくらでも食べられそうだ。血抜きをしっかりとしているお陰で灰汁もほとんど出ないので、次々にお肉を投入していると、ハクとライムの可愛い甘えたような鳴き声が響いた。
「はいはい! おかわりをどうぞ~♪」
出していたお皿が全て空っぽになっていたので急いで追加を取り出すと、
「本当におかわりが……。良いんですね? 本当にいいんですね!?」
「一国の王でも、そうそうこんな贅沢は……。今の私は世界で一番幸せな商人だ!」
男性が歓喜の声を上げながら料理にフォークを伸ばし、ハクとライムはディアーナに給仕をしてくれと甘えてかかる。
急いで従魔たちの面倒をみようとした私に、
「いいの。どれもこれも夢みたいにおいしいから、ついつい食べ過ぎてしまって……。お腹が落ち着くまではハクちゃんとライムちゃんのお世話をさせて?」
ディアーナが本当に幸せそうに笑いながら従魔のお世話を買って出てくれた。ついでのように、
「私は<しゃぶしゃぶ>が一番好きだわ。野菜を挟みながらだといくらでも食べられちゃう。また後でおかわりしてもいい?」
とおねだりが来たので、私も満面の笑みで頷き返す。
うんうん、たくさん食べてね! 解体前の極桃オークがまだインベントリに入っているから、遠慮なんかいらないよ~♪
スレイの分? もちろんちゃんとキープしているから安心してね! 後でゆっくりと食べてもらうから。
ああ。もちろん、ハクとライムもスレイにお付き合いするんでしょ? わかっているよ~。 わかっているから、いつも不思議なんだよ~?
ハクとライムの胃袋は、どこの異空間に繋がっているんだろうね……?
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