171 / 754
レシピ登録の誘い 3
しおりを挟む「私はある貴族家に代々仕える執事長の息子として生まれました。 父の跡を継ぎ執事になるつもりでしたが、17の歳に御用商人の娘に一目惚れをして、家族と主家を説得し商売の道に入りました。
そこから商いを学び主家で培った“物の良し悪しを見る目”を武器に小さな商会を立ち上げ、商機を決して逃さずに大商会へと育てあげ、今ではこの町の商業ギルドのギルドマスターになった男です。
私の見る目に間違いはない!!
アリスさんのレシピは必ず金を生み、ギルドを発展させるものです!!!」
サンダリオギルマスは立ち上がり、胸を張って強く言い切った。
「なあ、そこは“ギルドの発展”じゃなくて、“アリスの利益”を強調する所じゃねぇのか?」
アルバロの当然の疑問にも、迷いのない目で答える。
「君はそんなものでこちらのお嬢さまの心が動くと思っているのかね?」
「…動かねぇな」
いや、動くけど? また何か誤解されてるみたいだ……。 でも、ギルマスが“あなたの為・あなたの利益”と言わないで“必ず自分たちの利益になる”と言い切ったことは、とても好感が持てた。
(登録するにゃ?)
(ふふっ、ハクは鋭いね~♪)
さすがに保護者は私のことをよく見ている。 心が動いたことはバレバレだ。
(いっしょにおふろにはいれる?)
(入りたいね~!)
一通り従魔たちと笑い合いギルマスに返事をする為に顔を上げると、満足そうな顔の裁判官と目が合った。
………?
「サンダリオ。 君はこれだけのレシピを所有している人間が、手柄を焦った愚かな男の為に命を散らす所だったと聞いたらどう思う?」
「!! ……許せませんな。 商業ギルドのマスターとしてもですが、腕を生やしてもらって生き生きとしている男の友としても許せるものではありません。
私の商会からその男の領地の商会に回状を回してやりましょうかね」
ギルマスは“愚かな男”が誰であるかわかっているらしい。いつの間に情報を集めていたんだろう…。
裁判官はギルマスの返事に満足そうに頷くと、
「では、君もその男との話し合いに同席しなさい。 ギルドに多大な利益をもたらす商人を守るのもマスターの仕事でしょう。 愚かな男には自分の行いを理解させて、きっちりと責任を取らせますよ」
ソラル子爵へ慰謝料請求を行う場へ、ギルマスを招待してしまった。
……まだ返事をしていないのに、レシピを登録する方向で話が進んでるのはどうしてかなぁ? 間違っていないけど。
裁判官の言葉を否定しないことが、ギルマスへの返事になったようで、
「ええ、もちろん! ギルドに多大な利益をもたらしてくれるギルド員を守るのはギルドマスターの権利ですから。 是非、同席させていただきましょう!」
ギルマスは満面の笑顔で宣言した。
その後は護衛組とギルマスの間で話がまとまり、
・審査は明日の午後、護衛組が冒険者ギルドでステータス&スキルの水晶のオークションに参加している時間
・審査会場内に出入りする人間はギルマスが身元保証した上で、全員私の鑑定を受けること
・審査員は私に1,000メレを支払ってクリーン魔法をかけてもらうこと。
・食材は私の持ち込みだけど、調理道具はギルドが用意しておくこと。(私は自分の道具を使ってもいい)
・料理の代金は当日中に支払うこと
が決められた。
私はその間に“欲しいものリスト”を作成してギルマスに渡しただけだ。
「明日の審査に必要なものが、“水・パン・乳鉢・深皿・皿・小さ目のカップ・取り皿・各種カトラリー”で、アリスさんが欲しいものが“紙と漏斗”ですか…。
食材などは必要ありませんか?」
「食材は自分で見て選びたいからいらないわ。
水はクリーンの検証を兼ねるから少し多めに。パンは普通の丸パン50個ほどを私の買い取りで。深皿と皿は審査員へ料理を出すときに使うから少し大きめのものを。カップ、取り皿、カトラリーは審査員の人数分用意してね」
「わかりました」
「ギルマス? 私、平民なの」
「ええ。ちゃんと平民の言葉を使えていますよ」
「じゃなくて! 私がギルマスにこんな口調で話してるのに、ギルマスが登録したばかりのギルド員にそんな口調なのはおかしいと思うのだけど?」
護衛組と私への態度に差があったので、“平民”アピールをするために口調を変えてみたけどギルマスは、
「私はアリスさんが貴族だろうと平民だろうと、あなたへの接し方を変えませんよ。 “この人はこんなもの”だと思って慣れてくださいね」
と言って譲ってくれなかった。
「わかりました…。 紙は見本を数種類ください。買うのは1種類につき100枚程度です」
仕方がないので諦めると、ギルマスは何もなかったかのように笑って頷いた。
明日のお昼に裁判所まで迎えに来る…というか、お昼ごはんを食べに来ると約束をして、ギルマスはセルヒオさんと一緒に商業ギルドへ戻って行った。
モレーノ裁判官は「明日の試食会に向けて今日は準備をしてはどうか」と提案してくれたが、夕方にはアウドムラの牧場に行く予定もあることだし、準備は今夜と明日の午前中にすることにする。
「では、今日はティト裁判官の取り調べの立ち会いをお願いします」
大きな怪我をしていた幹部クラスは昨日の取り調べで終わっているので、今日はモレーノ裁判官がほとんど怪我をしなかった幹部の取調べを、残りの怪我をしている団員の取調べをティト裁判官が行うらしい。
……ティト裁判官かぁ。 私のことを<聖女>とか言って目をキラキラさせていた人だよね。
ちょっと躊躇したのがわかったのか、裁判官は、
「今日は護衛が4人揃っていますからね。 彼の言動がおかしくなりそうなら彼らが何とかするでしょう」
と護衛組に向かって微笑みかけた。
「ああ、あの裁判官ね…。 大丈夫よ、私でも押さえ込めるわ」
「今日の立会いは15時30分までで7人、出来たら6人くらいで止めておこう」
護衛組もちゃんとティト裁判官を覚えていて対策を考えてくれるし、
「こちら側の護衛責任者のウーゴ隊長にも良く言い含めありますので」
モレーノ裁判官もその辺りのコトはきちんと考えてくれていたようだから、安心して大丈夫だろう。
モレーノ裁判官と別れてティト裁判官の準備が整うのを待つ間に、受付の人に植物活性薬を渡すととても喜んでくれた。 受付さんは出勤してすぐに裏庭でストレッチすることを習慣にしているらしく、やっぱり芝生の傷みが気になっていたらしい。
植物活性薬、作った甲斐があったなぁ♪
267
あなたにおすすめの小説
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜
咲月ねむと
ファンタジー
息苦しい貴族社会から逃げ出して15年。
元公爵令嬢の私、リーナは「魔物の森」の奥で、相棒のもふもふフェンリルと気ままなスローライフを満喫していた。
そんなある日、ひょんなことから自分のレベルがカンストしていることに気づいてしまう。
「せっかくだし、冒険に出てみようかしら?」
軽い気持ちで始めた“冒険の準備”は、しかし、初日からハプニングの連続!
金策のために採った薬草は、国宝級の秘薬で鑑定士が気絶。
街でチンピラに絡まれれば、無自覚な威圧で撃退し、
初仕事では天災級の魔法でギルドの備品を物理的に破壊!
気づけばいきなり最高ランクの「Sランク冒険者」に認定され、
ボロボロの城壁を「日曜大工のノリ」で修理したら、神々しすぎる城塞が爆誕してしまった。
本人はいたって平和に、堅実に、お金を稼ぎたいだけなのに、規格外の生活魔法は今日も今日とて大暴走!
ついには帝国の精鋭部隊に追われる亡国の王子様まで保護してしまい、私の「冒険の準備」は、いつの間にか世界の運命を左右する壮大な旅へと変わってしまって……!?
これは、最強の力を持ってしまったおっとり元令嬢が、その力に全く気づかないまま、周囲に勘違いと畏怖と伝説を振りまいていく、勘違いスローライフ・コメディ!
本人はいつでも、至って真面目にお掃除とお料理をしたいだけなんです。信じてください!
転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~
結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』
『小さいな』
『…やっと…逢えた』
『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』
『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』
地球とは別の世界、異世界“パレス”。
ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。
しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。
神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。
その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。
しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。
原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。
その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。
生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。
初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。
阿鼻叫喚のパレスの神界。
次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。
これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。
家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待!
*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈
小説家になろう様でも連載中です。
第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます!
よろしくお願い致します( . .)"
*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる