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第二章 幼少期~領地編
61.作業終了
しおりを挟むマスク代わりの布を巻いて作業場に到着した。
(うっ…。これは…、つらい。かなり臭いな。みんなが普通に談笑しているから、近づくまでわからなかったわ…)
放牧地に点在している時には、これほどとは思わなかった。集めて山になった牛糞を前に、私は刺激臭で涙目になっている。マスク代わりに巻いた布も、あまり役に立ってはくれないようだ。
隣の先生を見ると、普通に無表情だ。村人は慣れもあるのかと思うが、なんで先生は平気そうなんだろう? …と、よくよく見れば…風魔法を使っているし…。身体のまわりに薄く風を纏っている。風で臭いをブロックしているようだ。
なんてことだ。思いつかない私がバカだった。早速、魔法を使ってみる。服や髪についた臭いも風で飛ばそう。
(なんだ~。快適じゃないか?)
さて、臭い対策もできたし、肥料作りを始めようか。
みんなにまわりに集まってもらう。クマ村長ら屈強な数人に作業してもらいながら、手順や状態を説明していく。
牛糞に麦藁とおが屑を混ぜ込んで、水分量を調節していく。手で握って固まったあとにホロっと崩れるくらいの水分量にするといいらしい。
混ぜ終わったら山にする。この中で発酵が進むんだ。発酵中は高温になり、牛糞に入っていた雑草の種とか菌とかが死滅するらしい。
1ヶ月か2ヶ月に一度、混ぜ返しながら発酵させていく。発酵が未熟だとかなり臭うが、完熟させるとあまり臭わなくなるという。
そうしてできた牛糞肥料は、腐葉土の代わりに土に混ぜ込んで土壌改良に使うと、フカフカの土になるらしい。
見守っている間に、作業場の屋根の下に、牛糞肥料の山がいくつかできて作業が終了した。
偉そうに説明や指示をしていたが、これも知識として知っていただけで実践したことはないんだ。
前世の実家は農家だったが肥料は買っていたし、まわりに肥料を自作して使う人はいなかった。無農薬農法に興味を持った時に調べた知識が引き出しに入っていたんだ。
実践したことがないから、長期にわたって、土壌や農作物の生育状況を観察して記録していってもらうように、クマ村長にお願いをした。その結果を踏まえて、今後領内に展開していくことになると思う。
肥料作りが終わり、村人たちは解散した。クマ村長たち数人に、畑の井戸の説明をしないといけない。
上の方の井戸に移動して、手押しポンプの説明をする。呼び水を汲み忘れないように注意しておく。これを忘れると大変なんだ。
それからクマ村長が試してみて、みんなで歓声をあげている。太い腕がレバーをキュキュっと押すと、ジャバジャバと水が出ることに感動しているようだ。
そうだよねって思いながらも、時間も遅いので次の説明をする。
小屋の説明をした後に畑に出る。実は畑に浅い水路を作っておいたんだ。手押しポンプの水場から直接引き込めるようにしてある。素焼きの土管を半分にしたようなつくりだ。それを緩やかな勾配になるように、畑の横いっぱいに延ばして、ゆっくり水が流れていくようにした。素焼き状なので、横の水路は水がじんわり染み出すだろう。縦の水路は少しずつ段差をつけて水流を緩めて、溜まり場で水を受けて横の水路に流すようにした。水路も溜まり場も浅くしたが、水撒きの時だけ使うことにして、土が溜まればかき出して使えばいいと説明した。この土地に深い水路は必要ないし、水の事故が怖いから作らないとも説明した。そう話しておけば、深い水路を作ろうとはしないだろう。
さて、作業も終わり説明も終わった。この村でやり残したことはないかな?
因みに、この村の周辺で温泉は出そうにない。残念だが高温の帯水層がなかったんだ。だから、入浴の習慣づけの話はしていない。
汚物処理も良くなくて、小さな子供や老人が腹を壊すことは多いということだったので、村中のトイレに<クリア>の魔法陣を組み込んだ。下水施設は、昨夜、地中に配管を作って汚水を村の外の川に流すようにした。排水口に<プリフィケーション>の魔法陣を組み込んでおくのも忘れずにやった。
今朝、村長にはトイレと下水の整備が済んだ話をして驚かれたが、今さらな気がする。
最初の村だから頑張りすぎたかもしれない。でも、汚水対策は最優先だと思うし。自分では『まあ、いいか』って感じだ。先生は、能力を出し過ぎると危険だからと、ちょっと心配している。
クマ村長一家には、昨夜、手洗いとうがいの話をしておいた。
今日の作業の手洗いは、石鹸をいくつかクマ村長に預けたから、臭いも消えるだろう…たぶん。
子クマたちにお別れしてから村を出る。村人総出で見送ってくれた。
村が見えなくなるまで先生と歩いてから、領都の屋敷に飛んだ。
初めてのおつかいじゃないけれど、無意識に緊張していたらしい。
屋敷に到着したら、力が抜けたようになったんだ。
で、今、なぜか嬉しそうな先生に抱っこされて、部屋に向かっているところだ。
抱っこは恥ずかしいが、力が抜けてフニャフニャなので先生に任せている。
部屋に着いたら、回復魔法をかけてお風呂に入ろう。
(回復できるならなんですぐにしないかって? だって…恥ずかしいけれど、抱っこは気持ちがいいんだもん! 子供のうちだけだからね…)
街道を歩いている時に<浄化>もかけて綺麗になったはずだが、やっぱりお風呂には入りたい。
牛糞の山の印象は強烈で、魔法をかけても臭いが消えた気がしないんだ。お風呂に入って、ゆっくりと身体と心をほぐそう。それから、お爺様に報告しよう。
そう考えながらも、抱っこの気持ちよさに部屋に着く前に寝落ちたようだ。
先生が、気持ちよさそうな寝顔を、優しいまなざしでみていたらしいと聞かされるのは後の話である。
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