異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎

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第二章 幼少期~領地編

62.初めての視察の報告

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 領都以外での初めての視察?から戻ってきた翌朝、いつもの時間に目が覚めた。
 気持ちがいい目覚めだけれど、少し身体が怠い気がするので、自分に回復魔法をかける。
 五歳児の身体で、チョットばかり頑張り過ぎたのかなぁ?
 気を張っていたのは確かだから、知らず知らずのうちに身体に力が入っていたんだろうか?
 もう少し肩の力を抜いて、リラックスしないとダメだなぁ…。
 反省。反省…。

 よしっ!反省した!

 それから、日課の魔力制御の練習をする。
 ちょうど終わった頃に、レオンが朝の準備をしに入室してきた。
 因みに、レオンが侍従になってからは、着替えなどはエリアではなくレオンが手伝ってくれるようになった。


 昨夜は、館に着いた途端に気が抜けたのか、足腰に力が入らずフニャフニャになって、リヒト先生に抱っこしてもらい部屋に戻る途中から記憶がないんだ。
 お風呂に入ってから、お爺様に報告しようと考えていたが、抱っこの気持ちよさに寝落ちてしまったようだ。
 レオンの話で、リヒト先生に抱っこされて気持ちよさそうに眠っていたらしい。それを先生が優しいまなざしで見ながら、大切そうに抱えていたという。
 
 (えーーーーーーっ! うわぁ!恥ずかしい!! 先生にどんな顔して会えばいいのさ…?)

 悶えている私の横では、レオンが無表情で黙々と自分の作業をしていた。


 朝食を食べた後に、お爺様に報告をするため執務室に向かう。
 エルンストさんにお茶を淹れてもらって、一口味わってから口を開いた。

 「お爺様、おはようございます。最初の村の視察が終わりましたので報告いたします」

 「うむ。おはよう。初めての視察はどうじゃったかな?」

 「はい。勉強になることがたくさんありました。ただ、…初めてなのでやり過ぎたかもしれません…」

 「……詳しく聴こう…」

 「うっ…。はい。
  今回の村の一番の問題は、農作物の物納をすると村の倉がカラになるということです。毎年の収穫量を予測し、それに合わせて物納の量も決めているのにです。
  今回の村の収穫量が年々落ちてきているのも、報告にはあがっているのですよね?」

 「うむ。アルフォンスの視察した村の書類は儂も見直しておったが、調査官の報告により収穫量の減少を見込んで物納の量を決めておったぞ」

 「やはりそうですか…。村では誤魔化すような人もいないようでしたし、倉にもあまり貯えがありませんでした」

 「むーー…。あそこの代官は悪事は嫌うが、ちいとばかり脳筋気味じゃったか…? エルンスト、代官の周りを探らせろ! 特に官吏周りをなっ!」

 「はい。畏まりました」

 そう言うと、エルンストさんは執務室を出ていき、すぐに戻ってきた。
 たぶん、影に指示を出したんだろう。

 「アルフォンス、続きを聴こう」

 「はい。まず村に入る前に、手前の森で野獣の強い個体だけ間引きし、ゴブリンの巣を駆除しました」

 「なんと! それは助かった…。ありがとうじゃ!」

 「いいえ。ちょうど良いタイミングで森に入っただけだと思いますが…。
  村に入ってから、農作物の実入りが悪いことが気になりましたので村長に確認しましたら、ここ数年収穫量が減少しているという話を聞き、作り方や土壌のことを確認しました」

 「タイミングが良かっただけとは…。短時間でサクッとやれるのは、リヒトとアルでなかったら無理じゃったはずじゃ。人も時間も何倍もかかって、被害が出ておったかもしれん。じゃから、感謝なのじゃ」

 「あーー…。確かにそうですね」

 「うむ。自分の力量をしっかり自覚しておくのも大事じゃよ」

 「はい。わかりました」

 「して、村長と話した後は、どうじゃったんじゃ?」

 「はい。天候は悪くなかったようですので、収穫量の減少を土壌の肥料不足と、同じところに同じ作物を作り続ける連作のせいだと考えました。
  それで、違う作物を作っていた場所に、森の腐葉土を運んで混ぜ込んで土壌改良をして、種まきをしました。
  それと、牛糞と麦藁とおが屑で肥料を作りました。これは半年ほど寝かせて完全に発酵させてから使う肥料です」

 「ほう…。肥料とはなんじゃ? 連作のせいとはなんじゃ?」

 「えっと…。連続して同じ場所に、同じ作物を作ることを連作といいます。連作を続けていると、障害が出たりするようになります。それは、育たなかったり、病気にかかりやすかったり、害虫にやられたりとかです。なんでそうなるのかは私にはわかりません。
  次に肥料ですが、まず、作物は育つために、水の他に栄養というものを土の中から吸収します。そして、作物が育つたびに、土の栄養はどんどん減っていきます。そのままだと、栄養が足らなくなって育ちが悪くなるんです。そのために、足してやる栄養を肥料と言います。
  いろいろ種類はあるんですが、今回の村でやってみたのが、まずは、暖炉や竈の灰を畑の土に混ぜ込むこと。そして、野獣の骨を骨粉にして混ぜ込み、森の落ち葉の堆積したフカフカの土を、畑の土に混ぜ込んでやることでした」

 「ほう…。聞きたいこともあるが、出発まで時間も限られておるから後回しじゃ。
  畑は、それで種まきをして様子見なんじゃな? それからどうしたんじゃ?」

 お爺様は、目を細めて視線を寄こしながら、続きを促してきた。

 「はい。そうです。他には、下水道整備をして、井戸を掘り手押しポンプを取り付けましたし、うがいと手洗いの話をしました」

 「むーー…。ちーーーっと…、いや、かなり張り切り過ぎたようじゃのう…。ポンプも取り付けたとは…」

 「やっぱり…。そうですよね…」

 「うむ。次からは、問題点を洗い出し、儂に報告してからどうするか決めようのう。急を要するものは別じゃがの…。今回のポンプの件は、儂の方で手を廻しておくとしよう」

 「はい。わかりました。お願いいたします。
  それから、今回の村で大変有用な植物を発見しました。牧草地に群生しておりましたので、栽培もできそうです」

 説明しながら、無限収納からサトウキビもどきのサトウサンを出し、少し皮をむいて、お爺様とエルンストさんに差しだす。

 「こちらがその植物です。舐めてみてください」

 お爺様とエルンストさんは、同時に舐めてみて目を見開いた。

 「なんじゃっ!これは!!」

 「サトウサンという名の甘い草です。これの栽培に成功すれば、砂糖を大量に作ることができます。砂糖が安価に手に入れば、お菓子に限らず料理にも使えますので、食文化の変革が起こるでしょう」

 知らず、私の眼はキラキラ輝いていたようだ。

 「我が国の食文化の変革は、アルが起こしそうじゃのう…」

 お爺様とエルンストさんは頷きあっているし…。
 その後、サトウサンの試験栽培をお願いし、執務室を辞した。


 今日は、リヒト先生と代官管轄の街へ入る予定だ。
 前回は、一つの村に時間をかけすぎたと思うんだ。本当は他の村や街も、クマ村長の村のように取り組みたいけれど、それだと期限内に領内を回りきれなくなるのがわかった。
 まあ、わかったというよりも、私がやっと自覚したって感じだ。

 だから、とりあえず、どんどん視察して、まずはお爺様に報告と相談をする。
 問題点を調査し、私なりの改善策を考える。これをお爺様へ報告をして、あとは任せることにする。
 もちろん、当事者達でできることはやってもらうことになるだろう。しかし、それらもお爺様が采配を振るう。
 そのうえで、私が地魔法を使う必要があるのなら、お爺様と相談して、今後の施策をしやすいように使うことになるだろう。

 最初はそのつもりだったのに、初めての視察で、私があれもこれもと暴走してしまったのだった…〈テヘッ?〉
 

 着替えていたら、リヒト先生が迎えにきた。
 ちょっとだけ、昨夜の話を思い出して顔が赤くなってしまった。
 先生は、相変わらず無表情だったが、瞳が楽しそうに輝いていた。
 チクショ…。恥ずかしい…。
 
 今日は街へ入る予定だから、ルカはまたお留守番だ。もう少し子猫サイズでいられる時間が伸びないと、長時間人のいるところへ連れていくのは難しい。
 レオンは、もう少し身体強化を使った武術訓練を積まないと、森の調査に連れていけないし。
 どちらも、次の直轄地までには、なんとか頑張ってほしい。


 今回から、街の手前の村々を視ながら進むため、馬を連れていく。
 騎馬と転移をあわせて、なるべく多くの村を通りたいからだ。
 転移になれた馬ということで、同行することになったのがとびきりの軍馬らしい。
 大きさは、普通の馬より少し大きいくらいだが、速さと持久力と馬体の強さが、軍馬の中でも並外れているそうだ。
 
 転移場所に連れてこられたその馬は、漆黒の馬体に黒の馬具をつけて、クリクリしたやんちゃそうな眼をしていた。
 そうして、リヒト先生には恭順の姿勢をとり、次に私の頭をハムハムしやがりました。
 デロッデロとなったので、しようがないので、その場で<洗浄><ドライヤー(仮)>の魔法を使って綺麗にしたよ…。
 因みに、<プリフィケーション>はなんか禿げそうでやめておいた。
 そして、馬のクロは、見送りにきていたお婆様に、冷ややかな笑顔を向けられて震えていた。
 ハムハムは親愛の行動だから、ちょっとかわいそうな気がするんだけど、もうデロデロになりたくないので見ないふり…。

 (馬の名前は長かくて覚えられなかったから、心の中ではクロと呼ぶことにするの♪)


 転移で村の近くまで飛んでから騎馬で近づき、魔法で調査して、次の村へ移動する予定だ。
 村の中には入らないが、井戸や下水施設、農作物の状態は、村の外からでも私には調査可能だからね。
 物納などの話は、お爺様の調査官に任せることにする。

 本当は、病気の流行とかも気になるけれど、それもお爺様にお話ししてきたので、調査してくれるだろう。

 そして、皆に見送られながら、リヒト先生とクロと一緒に転移した。





 *************

 ※ 大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
  拙作を読んでいただき、誠にありがとうございます。
  日向は、引越と転職で、慣れない環境のダブル攻撃にしばらく筆が持てませんでした。
  最近、やっと落ち着いてきまして、ちょびちょび直しをいれておりました。
  まだ書き溜めもない状態ですが、少しずつでも話を進めていきたいと思います。
  まだまだ、ゆっくりのんびりした更新になりますが、お待ちいただけると大変嬉しいです。
  これからも、よろしくお願いいたします。




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