上 下
5 / 47
第一章

彼と私

しおりを挟む
ーーーーーーーー…


「学校側にも先に話しておきたいから、第一志望は、他の子達よりも早く決めるのよ。あと勉強はきちんとしておきなさい」



そう私に告げたのは、この施設の管理者である川崎施設長だ。


川崎施設長は、私が生まれて間も無く施設の玄関に置き去りにされた時に、私を見つけた人でもある。


川崎施設長は、まだ一職員だった当時からずっと施設で働いていて、現在は施設長として、身寄りのない子ども達のお母さん役も担っている。




そして迎えた中学生3年生の受験シーズン。


川崎施設長の予測通り、ここでも無戸籍のハードルに直面した。


小中学校ですら特別な許可がないと入学できなかった経験があるため、施設長も早い段階から志望校や関係機関に話をしに行っていた。


今回の高校受験ができるのか、入学できるのかは、学校側の判断となるのだ。




有名な進学校にも合格できる実力がないと、高校受験も厳しいかもしれないと思い、努力を怠らなかった。


必死になって勉強した結果、学校の中でもトップクラスの成績を取れるようになっていた。






しかし、無情にも、高校の受験は叶わなかった。


私は進路を就職に切り替え、正社員、派遣、パートなど業種問わず応募した。


中卒というだけでも難航するが、そこに施設育ちであること、戸籍や住民票がなく通常の雇用とは違うと分かると、壁はさらに高く、とうとう卒業まで進路が決まらないという結果になった。



施設長の計らいで、施設でアルバイトとして働くことになったが、当然、就業者は施設を離れる必要があり、私は施設の名義でアパートを借りて一人暮らしをすることになった。


すべての孤児に、施設での就労の機会が与えられるわけではないことから、あくまでも特例であり、一時的な雇用であることは理解していた。


施設で働きながら、何度も他の企業の面接を受け続けたが、どの企業も無戸籍であることを嫌い、新しい就職先はなかなか見つからなかった。






私にとって一番辛い時期に、恭平は私を心配してアパートを訪れてくれていた。



「小春、今日もアパート寄るから、待っててな!」


恭平は高校から寮に入り、土日に自宅に帰省する生活になっていて、帰宅前に私のアパートに数時間だけ寄ることが多かった。



「小春、ケーキ買ってきたから食べよう!寮は甘いものが全然出てこないから、食べたくなるんだ!」


「私の分まで、ありがとう」


「実は、俺、夏休みに短期留学でイギリスに行くことになったんだ。お土産何がいい?」


「留学なんて、すごい羨ましいな。お土産は…うーん、次までに考えてみるね」


「おう!それでな……」




恭平は、いつも楽しそうに学校での出来事を話した。


恭平は話上手で、私もその話を聞き学校生活を想像しながら、楽しませてもらっていた。


しかし、恭平が帰ると、私は毎回、切ない気持ちに苛まれていた。


何の不自由もなく学校に通い、様々な経験を積み成長する恭平に比べ、施設でのアルバイトを淡々とこなし、就職試験には落ち続け、存在を否定され続けていた私。




なぜ、私だけ、こんなにも不幸なのだろうか。



そう思わざるを得なかった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...