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第一章

彼と私

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「俺、私立の中学を受験することになったんだ。親がどうしてもって言うから仕方なく」


「…そうなんだ。頑張ってね」


恭平の父は警察で、養子の恭平に対して教育熱心で、武道やスポーツのほか、進学塾など、まさに英才教育を受けていた。


受験が終わると、程なくして合格がわかり、恭平の私立中学への進学が決まった。
 




小学校を卒業し、春休みに入ると、私は施設で大半を過ごしていた。


小学校入学すら難しかった私は、地元の中学校の入学許可にも時間がかかったそうだが、施設長や教育委員会のおかげで、公立中学への進学が決まった。


制服や鞄は中古品で揃え、着々と進学の準備を進めていた。


そんな春休みの最中、職員から声がかかり、リビングスペースに行くよう指示された。




「恭平?」


「おう!遊びに来たんだ!」


恭平は、一人でリビングスペースにいて、笑顔で私に駆け寄った。


「小春、中学校で俺がいなくなるから寂しいだろ。だからこれ」


そう言って差し出されたのは、焦茶色のレザーにゴールドの金具がついたキーホルダーだった。


「裏側に、イニシャルのKを入れてもらったんだ」


「嬉しい、ありがとう」


「いつも持ち歩いてな!」




随分と大人びたキーホルダーだったが、私はとても嬉しかった。


お返しが出来なくてごめんね、と言おうとした瞬間、奥から施設の子どもたちが次々と恭平に飛びつき、私たちを遮った。


しばらくすると、真っ赤な車が施設の駐車場に止まり、中から綺麗な女性が降りてきて施設の玄関に入るのが見えた。


白いパンツスーツに紺色のハイヒール、そして上品なアクセサリーを着こなす女性は、とても煌びやかに見えた。


女性は職員室に立ち寄り、その後リビングスペースにやってきて恭平の名を呼んだ。


その表情は、少し呆れたような、安堵したようにも見えた。


恭平は、両親に何も言わずに施設に来たようだった。



恭平は、すぐに母親の車に乗り、窓を開けて私たちに大きく手を振り、自宅へと帰っていった。







中学生になってからは、恭平に会うことはなくなったが、恭平は携帯電話で、私は施設の共用パソコンでフリーメールを登録し、やり取りをするようになった。


恭平は、勉強やスポーツ、様々な場面で成績を残したりと話題豊富で、名門と言われる中学でも一目置かれる存在だと言うことが、ひしひしと伝わった。


恭平に比べて平々凡々な私は、これといって彼に報告するようなことはほとんどなかった。


こんな私と連絡を取り合うのも、施設育ちで唯一、新しい家庭を見つけることができなかった私を、幼馴染として、不憫に思っているからだろう。


そう思いながらも、私は彼の優しさに確かに惹かれていたが、これ以上の関係になることはないと、その気持ちを隠し続けた。









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