喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

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第62話

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~ハルが異世界召喚されてから9日目~ 

「良いんですか?スタン先生?いくらレナード君の弟だからといっても彼はまだ1年生、ここで痛い目にあえば、今後彼の経歴に傷がつくんじゃないのか?」 

 小さな背に立派な腹をした3年生Aクラス担任のデーブはスタンに嫌味を言っている。実技試験の試験官だった者だ。 

「問題ありませんよ」 

 スタンはデーブを相手にしていない。帝国の密偵として、先生同士での距離感をわきまえているからだ。デーブのようなネチネチした者には、敵意を向けず、上手く躱すのが精神的にも時間的にも効果的だ。 

「しかし、今回あなたのクラスからあと3人もでるなんて…彼等の将来をちゃんと考えないと……」 

「次からは気を付けます」 

 そのやりとりをもう一人の試験官であるエミリオは聞いていた。自分もスタンのように上手く会話しようとエミリオは決心した。 

『始めぇ!!』 

 試合開始の合図が闘技場に鳴り響く。
 
 魔法大会には観客とお互いの命を守るために選手には魔道具の腕輪が嵌められている。 

 腕輪を嵌めた者はリング上にしか魔法は発現しない。すなわち、リング外に魔法が行くとその魔法は霧散するようになっている。 

 また同じ腕輪を嵌めている者に魔法がヒットするとその者は守られ、腕輪にダメージがいく。腕輪と腕輪を嵌めた者のHPはリンクされており、HPが0になると腕輪が壊れる仕様だ。
腕輪が壊れるか、敗けを認めるか、場外に出るかで勝敗が決まる。 

 開始の合図を聞いた3年生のキーヨはその場から動くことなくファイアーボールを唱えた。火球がレイに向かって直進する。 

 レイはそれを躱すが目前にもう一つのファイアーボールが迫ってきていた。火球は爆発を起こし爆煙がレイの周辺に立ち込める。 

 キーヨはファイアーボールを3つ同時に唱えていたのだった。先頭のファイアーボールを大きめに唱え、その後ろに少し軌道を変えた2つのファイアーボールを隠している。 

 これは上空から見ればバレバレな攻撃だが、目線を同じくしている相手には有効であった。 

『レイ・ブラッドベルにファイアーボールがヒットする~!!!』 

 司会が囃し立て、歓声がそれを彩った。 

「よし!」 

 キーヨはガッツポーズをした。 

 しかし、もくもくと煙が立つ中眩い光が、キーヨの視界に入ってくる。 

「ん?」 

 その光は無数に散り、其々別の軌道を描きながらキーヨを襲う。 

「くっ!ファイアーウォール!」 

 キーヨはリングに手を付き、自分を中心として、円を描くように火の壁を形成させる。レイの放った光は炎の壁により阻まれた。 

 攻撃を防いだことに成功したキーヨは、ファイアーウォールを消した。火の壁が空気中を漂うように消えたかと思えば、レイが目の前にいた。掌をキーヨに向けている。 

「この距離で!?」 

 ──いや違う!光の剣だ! 

 キーヨは後ろへ飛び退き、距離をとったが、 

「うぐっ!」 

 後頭部を衝撃が襲う。 

『これはぁ!先程無数に散ったシューティングアローを全てキーヨ選手にぶつけたのではなく!幾つかをそのまま浮遊させて残していたようだ!』 

 キーヨは一瞬意識を失い、前に倒れそうになったがなんとか踏ん張った。 

 しかし、前のめりになったキーヨにレイの蹴りがヒットする。 

 キーヨは場外へ飛ばされた。 

『勝者!!レイ・ブラッドベル!!』 

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」 

 観客がレイを称える。 

「やっぱブラッドベル強いわ」
「あぁ、兄貴のレナードと良い勝負しそう」
「かっこいい……」 

 試合を見た各々が反応を示す。 

「キャー!!レイー!!」 

 いつもは大人しいマリアはレイのことになると物凄く騒ぐ。ただ騒ぐ。 

「うるさーい!」 

 アレックスが、耳を抑えながら言った。
 
「フフフ。いつもはアレックスが注意されるのになんか変だね」 

 クライネが笑う。 

「やっぱ強いな」 

 アレンは自分がレイに追い付くのは一生無理だと感じた。 

 ──だって僕はあの時…… 

───────────────────── 

「アイツかっけぇ!!」 

 グラースははしゃいでいる。 

「カッコいい…かも……」 

 マキノがぼーっとレイを見ながら呟く。 

「2人とも!ハルくんを応援しよ!?ね?」 

 ユリはひきつった笑顔を向けながら注意を促した。 

「やっぱりあの家族はすごいなぁ!」 

 ルナはレイの戦闘センスに驚いていた。 

───────────────────── 

「…あれがブラッドベルの次男……か…」 

 スコートの父エドワルドは自分とどちらが強いか値踏みしていた。 

 ──流石にあれを越えるなんて寧ろ自分の実力がわかってなさすぎるんじゃないかスコートは? 

 そんなエドワルドの反応をよそに妻モリーは手を合わせていた。 

「はぁ…あんな危険な試合をして……。スコートは怪我しないかしら……」 

「…怪我だけで済めば良いんだがな……」 

 エドワルドは含みを持たせて呟く。 

───────────────────── 

「いやはや…末恐ろしい……。あんなに強くなるとは子供の成長とは素晴らしいものですな」 

 イズナはもし自分に子供がいればその将来に想いを馳せる父親達の気持ちがよく理解できた。 

「どうし致しましたギラバ殿?」 

 ギラバはレイが入場した直後からずっと唖然としていた。そのことに気付いていたイズナは、試合が終わった後に何故か訊いてみた。なんせ鑑定スキルを持つギラバにしか見えない情報があるのだから。 

「…齢17にしてレベルが13……。一体どんな訓練を」 

「13!?凄いですな。彼のことをブラッドベルの次男とはもう呼べませんね。もう立派な戦士ですよ」 

 ──レベル13、あれに剣技と魔法剣がプラスされるとして…そこらの一個師団の副隊長と同程度の強さか…? 

 レイは入学当初レベルは9だったが、クロス遺跡の一件でレベルが4も上がっていたのはここだけの話だ。 

 リングを後にするレイを目で追いながらギラバはそのステータスをいつまでも見ていたがやがて姿が見えなくなるとそのステータスも消える。 

 入れ変わりに次の生徒が入場してくると、ギラバは目を剥いた。 

「は?」 

 ギラバの反応に、イズナは先程さりげなくレイのことを戦士呼ばわりした反応がようやく窺えたとかと思った。だがギラバはイズナには目を向けず、選手入退場口を見たまま目を見開いていたので、イズナもそちらに視線をずらす。 

 するとギラバが声を漏らす。 

「ッバカな!!!ぇえ!?ありえない!」 

 まるで、ラピュ○語を読めるようになった大佐のようなリアクションをするギラバ。 

「どうかしましたか?」 

 流石に異常な反応を示すギラバにイズナは質問する。ギラバは相変わらず入退場口を見つめたままだ。 

『続いて第二試合3年生オンヤ・ツーリスト!1年生ハル・ミナミノ!前へ!!』 

 ギラバの視線が入場口からリング上へと移動したのを確認したイズナは再び訊いた。 

「今リング上にいる者がなにか?」 

 ギラバは沸騰した気持ちが静まり冷静にことを見極め始める。実況で言われた名前と自分の鑑定スキルで確認した名前が一致した。 

「イ、イズナ殿……。貴殿の目から見てあの少年はどう映る?」 

「あの少年?あぁ彼はいつもレナードのせいで光が当たらないが、将来有望な魔法士になれると噂されているようだな」 

「ち!違います!もう一人の1年生です!」 

 イズナは少し身を乗り出してギラバのいう1年生を見た。 

「む~身のこなしは特にこれと言って…しかしとても堂々としている。あれで一年生とは、将来が楽しみですな。してあの少年がどうしたのですか?」 

「か、彼のレベルは……」 

「彼のレベル?」 

「彼のレベルは23です!!」 

~ハルが異世界召喚されてから7日目~ 

<ダーマ王国入国管理室> 

 獣人国のクーデターにより、親人派の獣人達の入国があとをたたなかった。しかし、クーデターが成功したことにより更なる難民が予想される為、入国制限をダーマ王国では設けている。 

 獣人達は優しい者もいるが今まで人族全体は彼らに対して冷ややかな目と態度をとっていたのでビクビクしている。 

 更に反人派のクーデターの成功により、既に王国に入国した獣人達の態度が変わらないか、此方の恐怖とストレスに拍車がかかった。 

 これらの例はまだまだ抽象的なことだが、市場ではもっと具体的な問題が起こっている。低賃金でよく働く獣人により仕事を失くした者が大勢いる。 

 その対応にダーマ王国内は追われていた。いやダーマ王国だけではない。隣接している、フルートベール王国やヴァレリー法国だってきっと同じだ。 

 入国を管理しているマルタンは書類仕事の真っ最中だ。この状態のマルタンに話し掛ければどうなるかは皆知っていた。 

 無精髭を生やしボサボサの髪はここ数日湯浴みをしていない証拠だった。 

 ここで、ある書類がマルタンの目に留まる。いつもと同じような入国許可申請書だが一味違った。これは宰相案件だ。 

 ──またあのエロ宰相はどこぞの女を拾っては入国させる気だ? 

 今までに数回あった。どれも絶世の美少女だった。 

 ──あんの少女趣味のせいで俺の仕事が増えるなんてのが許せない。いっそのこと不許可にでもしようか? 

 そう思ってマルタンは書類に目を通すと、 

「男!?」 

 ──あんの野郎とうとう男の子にまでその手を広げたのか!? 

 ただ確かにこの少年は今までの美少女のように容姿が整っている。白髪に少し浅黒い肌。緋色の瞳。 

 ──って!俺は男に興味ないっつうの! 

 マルタンは怒りをぶつけるようにして勢いよく入国許可の判を押した。
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