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28.過去02◆noa
しおりを挟むレオに名前を呼ばれるのが好きだった。
長く他人と思いを通わせたことなどなかったが、レオになら、心を開いてもいいと思った。
「ノア。今夜は満月だ。散歩をしないか」
「ノア。僕は君と一緒にいる時間が何よりも好きだ」
「ノア。こっちを見て。君の瞳は美しい」
ノア、ノア……。
無愛想な私に対してレオはまったく怯まなかった。誰からも愛される笑顔で、闇の生き物である私の心をも明るく照らしてくれた。
「レオ」
初めて肌を重ねた日、月の光が差すベッドの上で、私はその名前を呼んだ。ひとつになってもなお、彼がここにいるという実感がわかなかったからだ。あまりに奇跡のようで。
「やっと名前を呼んでくれたね……」
あのときの、レオの嬉しそうな顔が忘れられない。私はこの男になら何もかも捧げられると思った。こんな幸せが得られた自分は、もう他に何を失っても構わない。
でも人間と吸血鬼がずっと一緒にいることなど、できるわけがなかったのだ。
◆
レオが旅にかこつけて吸血鬼の城に通っているという噂はあっという間に知れ渡ってしまったらしい。大丈夫なのか、と私が訊くと、憤慨した様子で返された。
「僕と君は友達だ。言いたい奴には言わせておけばいい」
その言葉に私は少なからず傷ついた。友達。悲しいことに私の中で、レオにその言葉は当てはまらなかった。
「ただ、今までのように頻繁には来られなくなってしまうかもしれないな」
レオは寂しそうにそう言った。私は「気にするな」とだけ伝えた。彼は太陽のような男だ。いつまでも私みたいなものが、独占しているわけにはいかない。
国を捨ててこの城にとどまればいいと、私は伝えることができなかった。胸の中にその想いは常にあった。しかし人外である自分が、幸せを得ようと手を伸ばすことなどできるわけもない。ただ、怖かったのだ。
「……僕の結婚が決まった」
2ヶ月ぶりに会った星の綺麗な夜、事を終えたベッドの中で、レオが泣きながらそう言ったのを、私は一生忘れないだろう。
悲しむまもなく、私は最愛の存在を永遠に失うのだと悟った。苦しむのは嫌だ。私は心を閉ざし、諦念に身を委ねようとする。
「相手はとても優しくて美しい女性だ。僕には申し分ない。……でも、心から好きになることはできそうもない」
激しくなるレオのすすり泣きは、両親や国、そして結婚相手の期待に応えられない自分への失望だろうか。それとも、どうしても手放すことのできない許されざる愛への絶望か。
「愛してるんだ、ノア。僕と一緒に死んでくれないか」
涙の意味が後者なのだと悟った私は、自分たちの関係が友達などではなかったことを思い知った。迷うことなく頷く。レオの望む未来へ、私は付き合おうと思った。その先に待っているものが、悲しき心中だとしても。
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