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29.溺れる

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ノアの腰が優しく打ち付けられる。痛みが快感に変わるということを僕は今まで知らなかった。無我夢中でしがみつく。そうしないと、ノアが煙になって消えてしまうような気がしたからだ。


「ノア……好きっ……」


ずっと、自分の心を誰かに伝えるのが怖かった。周りの人はみんな優しくて、僕のことを愛してくれたけれど、僕自身が心の芯の部分を閉ざしていた。


嘘をついているのではない。疑いの気持ちを隠すだけ。そして優しい皆を疑うことは、罪悪感となって僕の心を苦しめ続けた。


でもノアに対しての気持ちは、無自覚でも秘めておくことができなかった。好きになってしまったら最後、言葉にしなくても、身体や表情に表れてしまったから。



「私のものになりなさい……ウィリー」



僕に覆い被さって、ノアが優しく笑った。指先で僕の額の汗をぬぐってくれる。何度も頷きながら、なぜか泣きたい気持ちになった。いまこの瞬間のために、僕はずっとあのお城で暮らしてきたのかもしれない。



「僕、僕、友達をやめるよ、っ……あぁっ」



我慢していた嬌声が漏れてしまい、顔が熱くなる。ノアの唇が喜びで歪むのを見て、僕は彼の気持ちが手にとるようにわかると思った。嬉しすぎると泣きたくなるのだ。僕もそうだから、ノア、僕は君の気持ちがわかるよ。



「ノアの、恋人に……なりたい、」



その瞬間、ぶわ、という音が聞こえそうなほど勢いよく、ノアの両目から涙が溢れた。僕の顔にもぽろぽろと落ちてくる。何か言葉をかけようとしたものの、それより先にきつく抱きしめられた。唇も塞がれる。愛しさで胸が張り裂けそうだと思った瞬間、僕の脳内に快楽の火花が散った。



「だめっ、ノア、ノア、イくっ…!」



ノアは何も言わなかった。でもそれでよかった。僕は大好きな人に自分を受け入れてもらう幸せを感じながら、ノアのことをずっと大切にしたいと思った。







「ありがとう、ウィリー」



事後、そう言って抱き締められたので、僕は狼狽してしまった。ノアの背中に腕を回し、その青白く美しい首筋に顔を埋める。



「どうしたの、ノア。それ、僕の台詞だよ」
「いや。さっきの言葉は、私がずっと欲しかった言葉なんだ。いつか大切な人に言ってほしかった」



ノアが欲しい言葉をあげることができた。その事実に、思わず僕の頬はゆるんでしまう。



「……ね、僕たち、もう恋人だよね?」
「ああ」
「じゃあ、今度アメリアが城に来たら……なんて説明する?」



怒るだろうなあ、と呟いたら思わず笑ってしまった。アメリアには申し訳ないけれど、ノアと今こうしていることが、僕だって予想外すぎて未だに理解が追いついていないのだから仕方ない。釣られたのか、ノアもクスクスと笑っている。



「そのときは私から話そう。鍋で殴られるくらいのことはあるかもしれないが、アメリアはウィリーのことを気に入っている様子だったから、いつかは許してくれるだろう」
「えー、僕だけ殴られるのなんか嫌だよ!」
「そうは言っても、あの子は私には反抗しないからな」



まったくその通りだ。僕はげんなりしてため息をついた。でもいい。僕はノアを大切にすると自分で決めたのだから、いざというときは男らしくアメリアに殴られよう。そう決心する。

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