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やさしい殺し方で

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幸せな夢を見た。


黒瀬さんが、俺を愛してくれる夢。
やさしく微笑みかけて、頭を撫でてくれて……
深く深く、彼に愛される夢。


涙が出そうなくらい幸せだった。
溺れてしまいそうなほどに。


溺……


「げほ、げほごほっ」


あまりの苦しさに激しく咳込んで、俺は現実に引き戻された。視界がゆがみ、目尻から涙がこぼれる。
すぐそばで耳慣れた声がした。


「あ、リュウくん! 起きた」


薄く目を開けるとそこには、俺に馬乗りになっている黒瀬さんがいた。




◇◇◇




「危なく殺しちゃうところだったよ」


にっこりとほほ笑んで、俺はリュウくんの首を絞める両手の力を緩めた。
そしてあふれた涙をそっと拭ってやる。


しかしリュウくんは起き上がる様子もなく、鋭い眼光で俺を睨みつけている。
いいなあ。この顔が愛しいんだよなあ。
だからついつい意地悪したくなっちゃうんだ。


「最近、限度超えてきましたよね」


むすっとした調子で呟いて、彼は小さくため息をついた。
俺はあくまでふざけ通したい気分だったから、わざとしらばっくれることに決める。
リュウくんはいちいち反抗してくれるところが本当に可愛い。
からかうと怒るけど、結局は俺のことが大好きなんだよね。


「限度? どういうことかな」
「さすがに今のは殺す気だったでしょう? ……げほっ」
「そんなわけないじゃないか。俺は君のこと、大好きなんだからさ」


悪意なんてかけらもないよ。そう続けて、彼の猫っ毛をやさしく撫でた。
愛ゆえの行動なんだから仕方がないだろう?
触れた手は案の定すぐに払われてしまったが、彼のこういうつれないところも、俺はとても気に入っている。


「にやにやしないで下さいよ、気持ち悪い」
「酷い言われようだなあ。恋人だろ?」
「その恋人を、たったいま殺しかけたのは誰っすか」


そこでいったん言葉を区切って、リュウくんは続けた。


「……ああ、俺、」
「なに?」
「いつか本当に、黒瀬さんに殺されそうだ」


真っ直ぐに、こちらを見つめる瞳。
この言葉は、俺を煽っているのか、試しているのか。
それはわからないけれど……本当におもしろいな、リュウくんは。


その鋭い勘は、一向に俺の期待を裏切らない。
だからまだまだ興味が湧いて、俺は君に首ったけなんだ。分かるかな?

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