超神曼陀羅REBOOT

石動天明

文字の大きさ
158 / 232
第十二章 魔蛇の旋律

第二節 本  能

しおりを挟む
 互いに上下を繰り返しながら、階段を転げ落ちる二人。

 踊り場で停止した時、雅人が下になり、紀田がその上に乗っていた。

 如何に雅人が常人離れした怪力の持ち主であるとしても、落下と回転の衝撃から立ち直らない内に、紀田程のヘヴィ級を跳ね除ける事は出来ない。

 その上、紀田の手には引き千切れた消火器のホースが残っていたのである。

 紀田は転がり落ちながらこのホースを雅人の太い頸に巻き付けていた。相手に覆い被さった状態から上体を起こしつつ、両端を強く握り締めて外側に引っ張る。

 頑丈なゴムの蛇が雅人の頸動脈を圧迫する。雅人は、ホースと頸の間に指を入れて動脈を止められるのを防ぐ間もなく、強烈に絞め上げられた。

「お――俺の勝ちだ」

 紀田は雅人に対してマウントポジションを取り、その宣告通り勝ち誇った。

「男の頸なんざ絞めても、何も面白くねぇがな、てめぇだけは別だ」

 雅人の顔が見る見る蒼褪めてゆく。その段階を超えると、頭部に残っていた血液が循環をやめて、血管が破裂する前兆のように、雅人の顔を桃色に染め始めた。

「ふへぇ」

 紀田が締め付けを緩める。
 雅人はその一瞬で空気を吸い、反撃に出ようとした。
 だが紀田は再びホースを強く絞め、雅人の逆転を封じる。

「たっぷりと苦しませてから、あの世に送ってやる」

 雅人は見開いた眼に血を絡ませた。左眼からは既に出血し、赤い涙を湛えている。
 鼻から、呼気と共に血が吹き出した。
 喰い縛った歯の隙間から、小石を噛むような音がしたかと思うと、ぼこぼことピンク色の泡っぽいものが唇の間から漏れ出した。

 又、紀田が力を弱める。
 雅人は今度こそ、腹の上に乗ったガマガエルを弾き飛ばそうとした。

 しかし今度は、紀田の方から頭を振り下ろして来た。
 雅人の鼻に、紀田の額が激突し、後頭部が床に叩き付けられる。
 顔を中心にして、赤い花が咲いたみたいだった。

 元から、鼻骨はなくなっている。それが更に陥没させられてしまっていた。
 前歯も、今の紀田と同じように失われて、赤い涎掛けをしている。

 紀田は歯のない口をにんまりと広げた。

「尻の辺りが濡れて来たぜ。そんなに気持ち良かったのか」

 雅人は射精していた。命の危機に瀕し、せめて少しでも自身の遺伝子を残そうという本能である。

 紀田はホースに力を込めた。
 雅人の頸が絞まる。
 内外から赤く染められた頭部と、胴体を区切るように、蒼黒い痕が刻み込まれている。

「頸を絞められてザーメンをひり出すような変態チンピラ野郎は、さっさとあの世に逝っちまう事だ。あの雌豚もそうだった。もう一人の生意気な小娘も、後から送ってやる。良かったなァチンピラ。てめぇ、地獄で両手に花だぜ。但し俺のあれであそこががばがばになった、薄汚い使い古しだがな……」

 紀田がホースを緩める。

 雅人は、黒眼と白眼の境も分からないくらいに眼を真っ赤にしているのに、まだ、抵抗の意思を失くしていないようだった。

 その手が持ち上がり、紀田の身体を掴もうともがく。

「こいつで終わりだ」

 紀田は雅人の頸を絞め付けたまま、上体を大きく反らした。最後のぶちかましで、雅人の頭を床とサンドウィッチにし、破壊する心算なのだ。

 雅人の額から、血が滲んでいる。桃城達也との戦いで亀裂を入れられ、緑川医院で簡単な処置をされただけの傷口が、今のぶちかましで広がった。

 次、同じような衝撃を受ければ、雅人の頭蓋骨は砕け散り、脳みそが爆ぜる。

 雅人の手は何を掴むでもなく、虚空を掻いた。
 紀田が、全神経を額に集中し、勢い良く振り下ろした。

 雅人の手が――指が動いた。
 眼は殆ど見えていないだろう。見えていても、抵抗する事は不可能な筈だ。

 しかし雅人は、自分の顔目掛けて落下する紀田の顔を見て、そして持ち上げた左手を添えた。

 今更、そんな弱々しい掌で止められる訳がない。手が緩衝材となる事はあっても、結局は紀田の頭部の重量を受け止め切れずに、顔面を陥没させられる。

「みぎゃあっ!」

 肉が肉を磨り潰す音がして、悲鳴が上がった。
しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...