超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第五章 覚醒める拳士

第十二節 強さ=生き甲斐

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「あいつら……? そうか、貴様……貴様が渋江杏子を庇った男か」

 桃城は、眼の前の男が勝義会を知っている事、自分と会のチンピラの実力を比較した発言をした事から、雅人の正体を察した。

「あの女は何処にいる?」
「さぁ? 俺はただ、女の子に乱暴する悪い男たちを、やっつけちゃっただけさ」
「ふざけるな!」
「ふざけちゃいねぇ、大真面目だよ」

 雅人の声が低くなった。それまで浮かべていた笑みも消え、熾火のような色を灯した眼で、桃城達也の事を見据えていた。

「女の子に乱暴する悪い男は、許しちゃおけねぇ性質でな……」
「――あの女に何か頼まれたのか?」
「さて、どうかな」
「――」
「ま、それはそれとして、個人的な目的もある。紀田勝義と戦う事だ」
「会長と? 一体、何の心算だ」
「紀田勝義って男が、身一つで成り上がった話は裏社会じゃ有名だ。文字通り、てめぇの暴力を使って、自分の組を一つ持つようになったって話さ。そんな奴がいるって聞いたんじゃ、俺と奴、どっちが強いのか、気になる所だろう? あんたはどうなんだ? あんただって、何かしら武術をやってる人間だろう。しかも、何とかアリーナや何とかドームのリングで、人前でやるような事じゃあない。人前で見せちゃあいけない技、いや、見た瞬間にこの世からおさらばしなくちゃいけなくなるような技……そういうものを、使う奴だろ、あんた。やりたくないのか、紀田勝義と。知りたくないのか、どっちが強いのか!? 男だろう? 強さだけを生き甲斐にしている男だろう?」

 雅人は熱っぽく語った。マイナーな歌手の熱狂的なファンなのに、学校や職場では一人も話し相手がいない人間が、ふらりと立ち寄った相席屋やバーで同好の士に出会った時と同じ口調だった。

 一方、桃城達也は、雅人の語りに辟易としている様子だった。そうした感覚を全く知らないではない。だが、そのような熱狂的な感情は、いつまでも持ち続けられるものではないと分かっている。学生の内ならそれも良いが、雅人のような年齢になった人間は、そういうものは捨てて、仕事か何かに還元するべきものであった。

「貴様が何を言っているのか、俺には分からん。だが、貴様が会長に危害を加えるというのであれば、俺は貴様を放って置く訳にはいかない」
「するってぇと、何かい。おたくが、紀田勝義の代わりに、俺と戦うって事?」
「そうなる。そして貴様から、渋江杏子の居場所を吐かせてやる」
「ふぅん……」

 雅人は少し興を削がれた様子であったが、溜め息を吐きながらも、

「ま、良いか。おたくもそこそこやるみたいだし……」

 と、頷いた。

「ってか、やる? ここで?」
「いや、ここでは邪魔が多いだろう。乗れ、人目に付かない場所まで連れて行ってやる」

 桃城は自らバンパーを破壊した車の運転席に乗り込んだ。
 雅人は、

「男の横に乗るなんて嫌だなぁ」

 と、頭をぼりぼりと掻いてフケを襟元にこぼしながらも、助手席に乗り込んだ。

 桃城の運転する車は、市街地に入り、適当なコインパーキングに停められた。
 幾らか歩くと、ぐるりを背の高い木々に囲まれた公園があり、二人はそこに入った。

 その途中、二人の事を窺うようにして、路地からは野良犬が顔を出し、電線には鴉が停まり、猫が背中の毛を逆立て、蜥蜴がするするとコンクリートを這い、蛾が鱗粉を撒き散らした。

 そして公園へやって来た桃城は、道中自分たちを囲んだ動物たちの騒ぎの原因を、公園の中に漂う鉄とアンモニアの匂いだと解釈したらしい。

「今夜はやけに犬が五月蠅いと思ったら、こういう事か」

 公園には、倒れた二人の男と、ベンチに腰掛ける男女がいた。
 女の隣に座る男――少年に、雅人は見覚えがあった。

「おお、昨日の……はははっ、どうした? またチンピラにシメられたのか?」

 雅人は、蒼黒く腫れ上がった治郎の顔を見て、軽口を叩いた。

 雅人の口振りに苛立った治郎は、すぐにでも立ち上がり、昨夜と同じように襲い掛かろうとしたのだが、雅人は伴ってやって来た桃城達也と向き合って、治郎に背中を見せてしまった。

 いきなり足を踏み付けたり、拘束して一方的に殴ったり、ナイフを取り出して来たりするような相手なら兎も角、雅人の背中に飛び掛かる事は自殺行為だ。

 飛び掛かった瞬間、殺気を察知して後ろ蹴りを放つ可能性がある。
 治郎は大人しく、今から何が起こるのか、見定める事にした。

「さぁて、始めるとしますか」

 雅人が桃城に言った。
 風が、次なる熱気を孕み始めた。
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