上 下
47 / 60

第四十六話 ブスゾネス襲来

しおりを挟む
 「逃げろー!ブスだ!ブスが来たぞー!」



 平和な(オーク基準)オークの村は侵略の業火に包まれていた。同時多発的に巻き起こっている、新興族長たちによる、オークらしからぬ他部族の吸収と支配地域の拡大を狙った戦乱、それに巻き込まれる事の無かった辺境の村々を襲っている者たちが、今、この村にその魔手を伸ばしたのだ。



 元より、喧嘩っ早いオークであるから、隣接する村々は中がよろしくは無く、度々衝突は起こっていたが、今回の相手はそんなチンケな衝突とは訳が違う。



 それは、強いて言えば、少しでも弱みを見せれば、その名の通り、血の匂いに引かれる氷原狼の如く襲い掛かってくる、略奪部族「痩せ狼」共の襲撃と似ていた。



 だが規模が違う。オークでさえ住むのに躊躇する土地に住み着き、共食いさえ辞さないと言われる彼らは、少数で機動力を持って襲い掛かる存在だ。



 いま、村を襲っている存在はそれとはまったく共通点がないし、その目標も少し違う。物資と女を奪うだけ奪ったら去る痩せ狼と違い、奴らは根こそぎ奪い尽くすまで逃げようと等しない。



 女は勿論、なんと「男」まで浚っていくのだ。ここ十年ばかり、大雪原の周辺では、小規模な村が続々と消えつつあるのは、オークとて承知はしていた。が、それはあくまで、人類圏への出稼ぎ(傭兵、略奪行為を差す)の機会が少なくなった事で飢え死にするか逃散したかと考えられていた。



 だが違った。こいつ等だこいつ等が原因なのだ。こいつ等は自分たちの気づかぬ内に、弱者を食らい力を蓄えていたのだ。



 老若男女構わず浚い、一切合切の全てを奪って何処かに、、、いや、不毛の地であった大雪原に消える奴ら、、、その名を、、



 「不細工団だー!不細工団が来たぞー!武器を取れ!応戦しろ!」







 「やかましいわ!何ですか不細工、不細工と!」



 ご機嫌用皆さま。美しきエルフにして心外ながら「不細工団」等と呼ばれる集団の首領をしているエルフ娘でございます。



 げははは!奪え!燃やせ!女は嫁だ!男は婿だ!ショタは私の元に連れこい!老人?問題ない全部だ!エルフ特性の回春役で元気モリモリよ!お前らはぜーんぶ、エルフと新オーク繁栄の礎となるのだ!



 どうですか!この悪辣非道ぶり!私たちは遂にオークの大地に本格的な侵略を開始したのです!



 何?何時もと変わりない?ノンノン!違います。これは大規模侵攻なのです!我らは最早陰に潜んでオークを浚うブギーなエルフではございません!



 戦争を!一心不乱な大戦争を!我らはオーク統一戦争に参戦するのです!テンション爆上がりじゃあ!



 あっ!ひ孫よ、貴方は危ないからテンション下げなさいね?そのムクツクケキ巨漢オークは流石にあなたの婿にはまだ早、、、何?共同所有するから問題無い?五人がかりで枯らす?なら良いでしょう。



 強いな、、我が血を継ぐ者たちは、、、。



 さて、この様な事態になっているのには訳がちゃーんとあります。これは雪エルフ全体で決めた事なのです。





 

 「皆集まったようですね。では聞いて下さい。私は過ちを犯したのです」



 あの日、息子に痺れる足を小突き回され、のたうち回った後、その事をおくびにも出さず、私は集まった雪の子供たちに事情を説明いたしました。



 神に騙され、我が子にして、貴方たちの兄弟を浚われた事、その子が何れは大英雄として雪のエルフそして新オークに立ちふさがる事を包み隠さずに話ました。



 ええ、ボコられる事を覚悟してです。この子たち、私こと「お婆」をあまり尊重しませんからね。普段は五月蠅くてやたらテンション高い婆位の扱いでしたから。



 ですがその時は違いました。私のお間抜けを糾弾するどころか、涙を流して同情し、あまつさえ、子を奪った邪神を呪う声さえ聞こえました。



 そうでした、エルフは同族愛と敬老の精神深ーい種族なのです。普段の「お婆あれ取って」とか「お婆邪魔!」とか「お婆、薬草臭ーい」とかはテレ隠し、所謂ツンデレと言う奴なのです。



 まあ、私がボコられる事怖さに、王族オーラ全開、秘境に咲く一輪の白百合として、滔々と語りかけたのも大きいのですが。誰ですか?卑怯の間違いと思った方は?



 気付けば「邪神討つべし!」「同胞を取り返せ!」とその場の勢いは盛り上がってまいりました。



 一見、トーテムポール立ち並ぶ多神教世界で生きている様な、我ら野良エルフですが、そこはそれ、この世界で唯一たる神、「大いなる方」に仕えるのが我らエルフ。



 講師の先生方は、尊崇はすれどあくまで他の世界の神々と、正しく理解できている子ばかりです。



 ですので、こちらに無体な試練課した挙句、同胞まで浚うとは太い奴だ!と思考はなります。なっちゃうのです。此処ん所は人間さんには理解できないでしょう。



 エルフは、精霊を信仰する原始宗教社会を生きている様で、その中心にはデーンと強固な一神教崇拝が座っているのです。



 もし、地球世界の宣教師が来たら驚くでしょうね。無知で蒙昧と信じた原住民が、己を遥かに超える信仰心で確信を持って、「自分たちは唯一の神に作られた」と答えるのですから。天上の炉で打ち出されるエルフの魂にはメイドイン唯一神と書いて、、はありませんが、刻み込まれているのです。



 下手に改宗を試みたりすれば「何だ当然の事を」と返され、「細かい事は良い!唯一の神を信じるならば、やることは一つ!お前良い体してるな!来い!産めよ増やせよ!地に満ちよー」と攫われて行く事でしょう。この世界ではザビーもコロンブスも現地永住ビックダディにされるのだ。



 我々は最強のジョニーとお弟子ズに、マイルドかつ万人に受け入れられる形になった、新しい感じな約束に生きておりません。



 我らが生きるは古い方の約束世界、気に入らないと雷どーん!突如襲い来るイナゴに疫病!お前は所詮運命には逆らえないんだよぉぉぉ!定命ぉぉ!な世界で必死に抗い続けるのです。



 だからかもしれませんが、新生エルフにも拭い難い差別心と言うのがああります。原始に帰ったとはいえ、完璧な種族である事は事実。その完璧さ故、ディフォルトで他種族を下に見ております。



 具体的には、庇護対象件、愛玩動物位の位置づけ。



 嬉々として子供作りますから、もう少し上かな?あれだダメンんず?浪費癖のある駄目女?人間さんは情緒も財布の紐も緩い感じな彼女で、エルフは理解力も包容力も金もあるスーパーダーリン。



 エルフが不幸な人生から助け出して(拉致)して初めて全うな人生を送れると本気で信じています。言葉や思想に出来る程、洗練されてはおりませんが、上から下までこの思考。



 私も例外ではございません。長く生きていると、人間さんへのきょーかんと言う奴が薄れている事を自分でも感じます。そも「人間さん」とか皆さまには差別的に感じますよね?確実に下に見ている事をビンビンに感じる物言いです。



 正直に言いますが、下にみてます。ラブとエロスは感じますがアガペーの対象ではありません。ジョニーが聞いたら右の頬に救世主神拳を叩き込まれ、次いで左にゴッドフック、最後に投げっぱなし三位一体ジャーマンを食らいそうですが、駄目なんですよ。



 なんつーかエルフは権威主義的な種族なんです。ほっとくと階級とか作り出して、勝手に息苦しい世界を

作る種族。だから原始で野蛮な生き方を奨励してるんですが。



 



 話が横道にそれすぎました。てなわけで、雪エルフは、かの糞糞神を怨敵として認定し、邪神調伏の為にひた走る事を私を置いて盛り上がってしまいました。



 ちょーっと考えていた事態とは違うかな~とは感じたんですよ。マジで追い出されるか、「神との戦いならお婆一人でやれ!俺たちは森に帰る!」とか言われると思ってたんです。



 その時はあと腐れなく、かの神と心中するつもりでした。神に一人で挑み勝てる通りはありませんので、奪われた我が子は私の手で始末を付け、その罪を命で支払うつもりであったのです。



 下手すれば、みーんな死ぬよりましでしょ?だからそう言ったんですよ。あなた達は逃げても良い。これは母の大チョンボ、情勢が落ち着くまで森に逃げてなさいと。



 徹底的にボコられました。口は災いの元です。「「俺たちを畜生以下にする積りか!狼だって子を奪われればどこまでも追いかけて来る!俺たちを舐めるな!」」とポカポカボカボカドスンドスン!顔は止めてぇ!ボディも止めてぇ!敬老の精神!敬老の精神は何処!全世界は知らんと欲すぅぅぅ!



 ただ、一しきりボコられ、タンコブだらけになった私はそれでも嬉しかったです。被虐の快楽ではありませんよ!私にその趣味はありません、、、多分。



 この子たちは一端の共同体になったのです。血には血を!な原始的で野蛮極まりない物でも、同胞を憐れみ、隣人を愛する心を持っていると思い知らされたからです。痛かったですが。



 これを他種族に広げる事は難しいですが、家族となった者には、それは充分に広げられていました。なんとその場では黙っていた、五男の後妻である「盾の乙女」事、乙女ちゃんが、後になって自分が旗頭になり邪神調伏と私の息子奪還の為に兵を挙げると言いだしたんです。



 長らく雪エルフと交わり、暮らしていた乙女ちゃんには、エルフの事情である、表立ってエルフと名乗って活動できない事が良ーく分かっていました。



 ですから「義母さん!俺が協力する!俺がこの村のオークと女たちを連れて暴れてやる!そうしたら、他の部族もエルフが居るなんて思わないだろ?俺も、俺の事を不細工不細工と言ってきた奴らに復讐したいんだ!頼む!俺を使ってくれ!」と言ってくれたのです。私怨も多分にありますが、、、



 こうして結成されたのが我ら「雪エルフアマゾネス軍団」なのです。構成はオークが三にエルフが七。あの糞糞糞神から貰ったの加護により、エルフの女は人間さんに見えてますので、その全てがオーク基準ではひ弱く不細工な集団であります。



 であるので、暴れ出した中頃から例の「不細工団」の名前が定着してます。相当に気に入りませんし、言い出した部族の生き残りは、地の果てまで追ってやりますが、悪名は北の大地に響き渡り始めております。



 私も、今回は無策で挙兵に同意した訳ではありません。子細に状況を見分し、GOサインを出しております。待ってなさいよ、経産雌馬経験神め!今度はダービー馬作らせてやる!

しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...