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アイドルと握手しよう!そして大砲に詰めよう。

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 ソ連人民を、クソの山の様なナチスドイツから守り抜き、欧州の半分を勢力圏に収める事に成功した男は、夜型人間だ。だから彼に仕える人間たちも必然として夜型になる。



 その上、彼は宴会好きでも知られている。近頃は、対独戦勝利と、大日本帝国の崩壊が秒読みになった事で、嬉しいのか何かは知らないが此処クレムリンでも、かなりの頻度での深夜の飲み会が行われている。



 付き合う方も大変だ。彼は酔わないを叛意ありと見なすし、飲んだら飲んだで下手な事を言って粛清の対象にされるかもしれない。其の上に座興だと言って、国家の重鎮にモノマネさせるは、深夜の映画鑑賞に それもアメリカ映画 付き合わされるはで、ホトホト困っている。



 だが出席しない訳にはいかない。出席しなかったら、出てた奴が何を彼に吹き込むか分かっら物ではないからだ。



 その日もそんな深夜の苦行が行われていた。酒好きの奴も、もうへべれけであるし、そんなに飲めない外相のモロトフなどユラユラしてる。モロトフが許されているのは彼に対する揺ぎ無い忠誠心が有るからだろう。恐怖とも言うが。



 さてその宴会も深夜二時を過ぎ、お決まりの映画鑑賞の時間に入ろうかと言う所で、メンバーの耳に不穏な音が聞こえだした。



 クレムリンの奥深く、絶対安全な即席宴会場にも聞こえる音。人が上げる悲鳴と怒号、そして何より銃声だ!



 こう言う時、数多の修羅場をくぐり抜けて来た赤い蛇たちの行動は早い。朦朧とする頭から酔いを叩き出し、よたよたしながら、衛兵を呼びつけたり、関係各所に連絡を入れたり始める。



 事態の把握は早かった。何となれば、重武装の衛兵が飛び込んできたからだ。一瞬辺りは宴会の主、スターリンの怒りを恐れて鎮まるが、切羽詰まった衛兵指揮官の声に、そんな恐怖も吹き飛んでしまう。



 「反乱が発生しました!急ぎ避難をお願いします!同志書記長!」



 反乱?誰が?ここモスクワだよ?NKVDが、その執拗極まりない目で、虱潰しに反抗の芽をつぶしている町ですよ?誰しもが頭に?マークを出し、次いでお前か!お前か!と疑いの目を向けあう。



 仲の良い事だ。特にNKVD長官ベリヤには疑いのジローっとした目が向けられる。



 「反乱だと!首謀者は誰だ!軍か!まさかベリヤ!」



 「いいえ!絶対に違います!軍です!軍!将軍!何を掌握していたんだ!」



 恐怖の声、魔王スターリンの怒声に即座に反応したベリヤは、この時同席していた、セミョーン・チモシェンコ元帥に罪をなすりつけようとする。



 「滅相もない!我が赤軍の忠誠をお疑いか!それにですね、同志書記長!小官はつい先だってモスクワに来たのですよ!反乱を企てる時間が有るはずもございません!これはNKVDの怠慢です!」



 チクショウ!なんだってこんな時のモスクワに呼び出されたんだ!そんな気持ちを押し殺し、NKVDの怠慢を言い立てる。こんなところで粛清されてたまる物か!



 「もう良い!話はあとで聞く!今は脱出なり籠城の準備を優先する!反乱軍の数は?」



 大ボス同士の罪に擦り付け合いに固まっていた衛兵指揮官の大佐であったが、スターリンの声に我を取り戻し、即座に返答をする。



 「はっ!えーとですね。なんと申して良いのか、、、、」



 「ハッキリしたまえ!それでも指揮官か!」



 「ハィィー!白軍です!反乱軍は白軍の旗を振りかざしております!先頭にいるのは、そのあの、、、、」



 「白軍だと!君頭がおかしいのか?でっその指揮官は誰だ!確認できたのであれば報告した前!なんでもよい早く言うんだ!」

 

 恐怖の薬が効きすぎている。真面に返答も出来ないほど私が怖いか、無理もない、でもまあ、此奴は後でシベリアに左遷だな。少し同情しながら酷い事を考えるスターリンの耳に、指揮官が放った言葉が聞こえる。我が耳のを疑う言葉だ。



 「ニコライ二世です!それとミハイル・トゥハチェフスキーが一緒に!後ろからは無数の群衆が赤の広場に集まっております!突然です!皆口々の暴君を打倒せよと叫びながら突然現れました!」



 「は?」



 重い沈黙がその場に満ちる。皆頭が付いていってないのだ。そうだろう。当然そうだろう。誰だって真夜中に、それも国家の中心たる場所に、大群衆が、とうの昔に死んだ奴に率いられて襲い掛かってくるなんて思う方がおかしい。想定してたらそいつは狂人だ。



 だがこの場にいる者の耳には、確かに恐ろしい叫びと銃声が確かに聞こえる。心なしか銃声は近くなっている気もする。



 「なにをしてる!お前ら!直ぐに近くの軍を呼び戻せ!NKVDもだ!」



 流石は鉄の男。一番に気まずい沈黙から解放されるとすかさず支持を飛ばす。固まっていた者も即座に備え付けの電話に飛びつき、中断していた作業に戻り出す。これで良い。白軍がなんだ!群衆がなんだ!ここはクレムリンだぞ!直ぐに周辺の軍が蹴散らしてくれる!



 兎も角いまは脱出だな。こいつ等は、、、、惜しいが置いていく。今は自分の安全が第一。自分さえ死ななければソ連は何度でも蘇るし、混乱だって抑えて見せる。これまでもそうであったし、これからもそうだ。



 絶対の自信を持つ男ヨシフ・スターリンは、衛兵に送れて飛び込んできた、部下を怒鳴りつける閣僚をついと見やると、脱出する事を衛兵指揮官に顎で指示した。



 だが、その行動もそれまでだった。



 「おやじぃ~!」



 宴会場にあつまる衛兵たちの後ろ、そこから声がしたと思えば、辺り一面にバラまかれる銃弾の雨、雨、雨、忽ち幾人かが体に銃弾をうけその場に転がる。不思議な事に死人はでてないようだが、そんな事気にしてはいられない。



 その場は修羅場と化した。反乱軍の侵入を許したのか幾つもの影が、その場にいた者に飛びかかり押し倒す。逃げる者、追う者、蹲って隠れる者、全てが永遠のようで一瞬の出来事。



 彼、鉄の男スターリンは、たまらずにその場から走り出す。長年、テロの親玉をやっていた経験は錆は付いても忘れていない。ここは逃げ逃げの一手だ。



 そして彼は見た。銃弾をばら撒いた男、その顔。その憎しみに溢れた顔は間違いない、死んだはずの、見捨てた筈の、息子の物だった。



 老いた体に鞭を撃ち、必死に逃げたが後は分からない。護衛も閣僚も点でバラバラになって、広いクレムリン宮殿の中で自分は一人。こうして一室に身を隠している。そこいらにあった物でバリケードは作ったがこんな物気休めだ。



 外からは軽い銃声のほかに重機関銃の発砲音、戦車のキャタピラがたてる軋み、砲声まで聞こえてきて、混乱の度は高まっているのがわかる。



 「一体何があったと言うのだ?皇帝だと?トゥハチェフスキー?それにあの馬鹿息子!生きているとは!大人しく死んでいれば良い物を!」



 大方、誰ぞに唆されて反乱の旗頭にでもなったのだろう、阿保の様に役者までそろえて反乱するとは、覚えていろ!絶対に殺してやる。そう暗い決意を固めていると、ソファーでバリケードがされた扉を叩く音がする。



 「ああ!そこに居るのか同志!久しぶりだな!私の声を覚えているか?此処には皆いるんだ、懐かしい顔で話をしようじゃないか!」



 次に聞こえたのは馴れ馴れしい声。なんだ?誰だ?反乱軍?逃げ場はない。黙っているほかは、、、、



 「オイオイ。友人が来たのに、そう黙っていては駄目じゃないか?なあコーバ。ここを開けてくれよ?」



 誰が開ける者か!それにしても私をコーバなどと言う奴は殆ど死んでるはずだ?こいつは一体?



 追い詰められた恐怖の中でも考えはやまない。これは一種の逃避行動なのだろう。そして、業を煮やしたのか、扉の向こうの相手は何か鋭い物で扉を打ちこわし始めた。



 ドカンバキンと扉は打ち壊されていく。ああ最後の時がきたのか?チクショウこいつは、こいつは誰なんだ!



 正体は直ぐに分かった。数瞬後、敗れた扉の隙間から顔を出した男、その顔、あのいけ好かないインテリ顔の眼鏡野郎!



 「トロツキー!お前!生きてたのか!」

 

 「Hola!久しぶりだなコーバ!元気だったか?」



 「お前!お前!確かに殺した筈!テメェにコーバ呼ばわりされるいわれはねぇ!大人しく腐ってやがれ!」



 遂に部屋に侵入してきた宿敵、殺した筈のトロツキーに、普段の口調をなぐりすてて、思わず若き日の口調に戻る鉄の男。そんな彼にニヤニヤしながらトロツキーは呼びかける。



 「悲しい事いうなよ。そうだ、お前に会いたい人がまだいるんだ。どうぞ同志諸君」

  

 「久しぶりだな同志!」「元気だったか?」「老けたな」



 キーロフ、カーメネフ、ジノヴィエフ、皆自分が地獄に送った連中だ。生きている訳がない、死体だってしっかり確認させた。最早うめき声も出せない鉄の男に更に最悪の人物が声を掛ける。



 「随分と豪勢な家に住むようになったな同志」



 「レーニン!なんで、あんたまでいるんだ!死んでたろ!役者か!おいトロツキー!俺への嫌がらせか!殺すならさっさと殺せ!」



 一番会いたくない男、自分が全ての権力を奪い取り、神格化してまで利用したレーニンがそこにいた。



 「私が役者に見えるか?随分と耄碌したな君は?トロツキー、恨みを晴らしたいんだろ、さっさとやり給え。なに心配するなコーバ、社会主義者が言うのもなんなんだが、地獄は満杯だそうだ。死にはしないさ」



 「何をふざけた事を!いい加減に、、、」



 どうせ殺される、何か言ってやろうとしたスターリンであったが、その目に迫ったは、満面の笑顔でトロツキーが振り下ろすピッケルの一撃であった。







 「同志!同志スターリン!起きてくださいよ!」



 自分に呼びかける者がある。確か自分はあのクソ眼鏡に殺されたのではなかったか?そう思い目を開けたスターリンが見たのは、暗く狭い空間に縄で拘束された自分と、同じく拘束された側近のNKVD長官ベリヤの姿だった。なんだお前!あまりその禿げ頭を近づけるな。一体なにが?



 顔を上げれば丸く切り取られた空が見える。なにか、筒状の何かに自分たちは押し込められているのだ。なんだこれ?うん?声が聞こえる?この声はレーニン、そしてトロツキーのものだ。



 「と言う訳でだ人民の諸君!恨みつらみは良く分かる!だが我らは一度死んだ身!私何ぞ地獄に落ちた!であるならば、確実に地獄に落ちる暴君を、今の所は、これで許してやろうではないか!地獄の苦しみは現世の比ではないのだ!どうだろう同志諸君!」



 賛同の声が地鳴りの様に聞こえる。何を言ってる?現世?地獄?死んだ身?どいつもこいつも頭がおかしいのか?ここは一体なんだ?私はどうなってしまうんだ?



 「では皇帝陛下よろしいですかな?これは陛下の持ち物ですから、一応聞いて起きたいのですが?」



 「構わんよ。人民諸君!スターリンは暴君であるが、私も生前は諸君らに取っては暴君と同じであった!どうか許して欲しい!ここにある物は全て諸君の物だ!私に気兼ねする必要はない!私もこれから神に呼び戻されるまでは、諸君らと共に生きよう!」



 更に聞こえる地鳴りの響き、皇帝?持ち物?もしや!自分がいるのは、そして彼らが自分に贖罪として課そうとしている行為は!まて!マジで止めろ!止めて!死んじゃう!死ぬ!



 「では皆さんご一緒に!人民万歳!暴君を空に!」



 「「「人民万歳!暴君を空に!」」」

 

 「止めろーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

 「諦めましょう同志。どうせ死なないんです。私もあなたと別れてから何度殺されたことか、、、、」



 轟音!爆発!そして白煙!ツァーリ・プーシュカ、大砲の皇帝は勢いよく暴君とその側近を空に打ち上げた。
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