これもなにかの縁ですし 〜あやかし縁結びカフェとほっこり焼き物めぐり

枢 呂紅

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第四話 百鬼夜行とあやかし縁結び

7.

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「ええなあ。こない驚いてもらえるの、いつぶりやろか。京からこっちに移って以来かなあ」

 まったりのんびり、雅な着流し姿の男の人が微笑む。……どうやらこの、ちょっとクセのある和服男子が、普段しゅるしゅると布ボディを揺らしている妖怪、ヌエさんらしい。

(そりゃ、ニャン吾郎さんやトオノさんから、ヌエさんは一反木綿じゃないって聞いてはいたけども!)

「なんですかその、一部女子の性癖を狙い撃ちしたみたいな姿は! もしかしてあれですか。こっちの姿が本当の自分ってやつですか!」

「さーあ。それはどないやろなあ」

 ぴしりの指さした私に、ヌエさんはへらりと答える。すると隣で、キヨさんが呆れたように肩を竦めた。

「考えるだけ無駄だぞ、スズ。つかみどころがなく、捉えようがないというのが、そやつらぬらりひょんの性質じゃからな」

「ややわー。キヨはん、そない褒めんといて」

「褒めてないわ!」とキヨさんが突っ込む横で、私はぱちくりと瞬きした。

 ぬらりひょんという名前は聞いたことがあるが、いまいちどんな妖怪なのかイメージがわかない。私が難しい顔をして悩んでいると、狐月さんが教えてくれた。

「キヨさんの言う通り、ぬらりひょんは実体が定まらない妖怪なんだ。そのかわり、ひとの家に勝手に上がり込んだり、当たり前みたいに居着いたり。とにかくひとの世に溶け込むのが得意なんだよ」

「便利な能力ですけど、やられる方からすれば軽くホラーですよね」

「小さい頃、どこの誰か知らんが、公園でよく会う品のいいお爺さんとかいたやろ? もし、周りの大人もどこの誰か思い出せんのやったら、そんひともぬらりひょんだったかもしれへんなあ~」

「こっわ! 当たり前に馴染んでくるの、こっわ!」

 それはもはや、怪談話ではないか!――いや。まあ、なにか良からぬことをする妖怪ではないのなら、のほほんと生活に紛れてくるくらい全然構わないけれど。

 ちなみにヌエさんが一反木綿みたいな姿をするようになったのも、大昔に京都のお屋敷にいた時、反物に紛れてごろごろぐだぐだするのが一番性に合っていたから、らしい。

(なんていうか、自由を極めすぎてる)

 へらへらにこにこ胡散臭い笑みを浮かべるヌエさんに、私はごくりと息を呑む。……というか、笑顔を絶やさないのは狐月さんと同じなのに、爽やかさをカケラも感じないのはどうしたことだろう。

「それで? 大将が、理由わけもなくわての店にくるわけない。なんの御用でしたやろか?」

「あ、そうだった!」

 こてんと首を傾げたヌエさんに、私と狐月さんは同時に思い出す。するとタイミングよく、ヌムヌムがよじよじと、狐月さんの頭の上に登ってアピールした。

「お初お目にかかります、皆々さま。キツネツキソータ様がこちらにいらしたのは、ワタクシに関わることでございまして」

「なんじゃ、ちっこいな!」

「おやおや。これまた珍しいタイプの付喪神ですねえ」

 さっそく興味を示すヌエさんとキヨさんに、ヌムヌムはかくかくしかじか、私たちが聞いたのと同じ話を伝える。

 しばらくしてヌムヌムが説明し終えたところで、狐月さんがヌエさんに尋ねた。

「もしかしたらマイマイさんは、沖縄に帰る方法が見つからなくて、まだ東京にいるのかもしれない。ヌエのところに、そんな妖怪の話が聞こえてきたりしてないかな?」

「……ぬらりひょんは一時期、妖怪のまとめ役、なんて言われていたんじゃ。その名残でいまだに顔が広くてな。ソータもそれを見越して、ヌエを訪ねてきたんだろうよ」

 きょとんとする私に、キヨさんがこっそり教えてくれる。なるほど。そういう事情で、マイマイさんのことを知らないかとここまで足を運んだらしい。

 さて。肝心のヌエさんだけど、狐月さんの言葉に、しばらく考え込んでいた。やがて唇をにんまりと三日月型に釣り上げると、ゆっくりと瞬きした。

「――聞いたことがある」

「っ、本当ですか!」

「なぁんて。奇跡みたいなことは、さすがに起きまへんなあ」

 思わず食いついた私だが、続くヌエさんの言葉にズルっと倒れそうになった。一瞬喜びかけたヌムヌムも、狐月さんの頭の上でチーンと項垂れている。

 へらへら笑うヌエさんを、ぱしりとキヨさんが叩いた。

「おい、くされぬらりひょん! ソータはともかく、そっちのちっこいのは真剣につがいを探しとるんじゃ。適当なことを言って遊んでやるな!」

「ややわ、キヨはん。話の本番はここからですわ」

 肩を竦めて、改めてヌエさんはヌムヌムを覗き込んだ。

「あんたの嫁さんかはわかりませんが、ツテを探している妖怪の話なら聞きました。故郷はずっと南の方で、空も海も吸い込まれそうに青いところから来たと」

「間違いない! それはマイマイです!」

 パッと顔を上げて身を乗り出すヌムヌムに、ヌエさんは慈しむように首を振った。

「決めつけはあきません。違ったときの失望が大きくなりますから。ですが、まあ。時期も重なりますし、わてにその話を持ってきた妖怪のねぐらは大神宮やし。ほぼ確定やろうなあ」

「それで? ヌエはその妖怪になんてアドバイスをしたの?」

「どうせお主のことじゃ。そいつに、遠い海向こうに件の妖怪をどうやったら帰してやれるか、相談されたんじゃろ?」

 狐月さん、ついでキヨさんが先を促す。それに、ヌエさんはゆっくりと頷いた。

「わてはこう答えました。――『あやかし縁日へ行け』と」
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