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証拠(ブツ) 出る

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同時刻。シンメカ本社。

「出たね」

「出ましたね」

 顔を見合わせた。高麗がアップした画像に、既に売却済み製品のシリアルナンバーが写っている。もう夜の十時だが、月間残業時間がリセットされたケイコは篠崎と二人だけ、経理部に残って口頭で会話をしている。

 二人は、昨日、今日と春原たちがネシアの複合機でコピーしたり、パソコンから印刷した資料を、すべてPDFファイルとして取得していたのである。現物をどこかで盗まれるのは想定済だった。

 経理部員が帰った八時以後、これらを順次印刷をした。売上・仕入のエビデンス、赤黒をしたインボイスや、今日の棚卸後、倉庫に引き返した高麗が倉庫管理者に袖の下を渡して入手した別棟の在庫一覧を含めた入出庫リストや、シリアルナンバー画像といったものは、在庫追跡の有力な証拠となる。春原たちのノートPCを、ネシア事務所で開かせていたのは、事務所内の様子をPCディスプレイ上にあるカメラで撮影するためである。比良坂のPCには仕掛けたが、ネシアの事務用PCにはカメラが無く、事務所内の動きが判らない。本番の調査に備え、事務員の動きを把握するための録画である。

 今日、シンメカ本社では、耶蘇銀行の名寄せで隠し口座が判明した。耶蘇銀本店営業部のゼロ残口座だった。

 この口座番号について、EBのIDとパスワードを紛失したと電話で探りを入れると、再発行依頼を提出するよう言われた。その用紙とともに、口座開設時の申込書の控えを送付するよう依頼した。到着した申込書は、三年前の日付の前経理部長が書いたものだった。

 ログインパスワードを変更すると、現在この口座を使っている者に気づかれる恐れがあった。色々と理由をつけて、旧パスワードを教えてもらい、今回は特別に変更しないように手配をした。そしてEB上で、直近一年分の入出金明細をダウンロードした。別途、取引明細申請書を出して、過去の全ての取引を印刷して送ってもらう。

 これで、オフサイト調査の基礎資料は概ね出そろった。解析はまだ途中だが、月次決算が片付いたら、三日ほどの工数で不正の詳細が明らかになるだろう。

「よし、明日から月次決算に注力して、十一日からネシアで臨場(オンサイト)不正検査だ」

「四半期決算指導ですよ、名目上は」

 不正検査にいきり立っていたのは、篠崎のようだった。
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