リビングデッド

常夏の炬燵

文字の大きさ
上 下
20 / 58
魔族編

第二十話

しおりを挟む
ナナシの治療が終わり、一息つく三人にエドはなにか言いたげにしていた。

「俺は、お前が裏切ったなんて思ってなかったからな」

気づいたテンカがそう言った。

「人を信じる事を知らなかったナナシだって、お前を信じきっていたくらい、お前は俺達の仲間になっていた」

ユメは頷き、ナナシはエドに微笑んだ。

「ありがとう…!」

そして、暫くオアシスで休憩をした後、テンカが立ち上がった。

「じゃあ、俺は天界に帰るとするか。ユメはどうする?送っていくか?」

「えっと…」

ユメがナナシの方を向く。

「俺も一旦街に戻るかな」

「ナナシ君…」

「オレはテキトーにブラブラしとくわ」

「わかった。じゃあ、ナナシとユメは家の前でいいか?」

そう言われ、ユメは頷いた。

そして、二人は帰ってきた。

「この街も、数日ぶりだな」

「…ナナシ君ごめんね」

「どうした?」

「私のせいで、酷い目に…」

「……もう、慣れてしまった…」

ナナシのその発言が、悲しくてユメの目から涙が溢れてきた。

「時間大丈夫か?」

今は夕暮れ時で、暗くなって来ていた。

「え?う、うん。大丈夫だけど…」

「少し、歩くか」

そうして、二人で誰もいない住宅街を歩いていた。

「丁度このくらいの時間に、この場所で出会ったんだよな」

気づいたら、ユメが初めてナナシに声をかけた公園の前だった。

「そうだったね」

「あの時の俺は、人間に微塵も興味がなかった。死のうが生きようがどうでもいい、現に蜘蛛が現れた時も何人が見殺しにしてしまったし」

「そうだったんだね…確かに、あの時のナナシ君は今よりだいぶ暗かったもんね。近寄るなオーラビンビンだったもん」

「ああ、だが、その時ユメが話しかけてくれた事が、人間に興味を持つきっかけになった」

「うん…」

「今、俺が生きているという実感を持てているのは、ユメのお陰だ。お前のお陰で今の俺がいる。すごく感謝している。ありがとう」

「面と向かって言われると照れるな…私も…守ってくれてありがとう!私もできるだけサポートするから!困ったことがあったら言ってね」

「ああ、頼りにしている」

私もナナシ君の為に慣れてたんだ…!でも、これで満足しちゃダメだよね…!戦いは終わってない!ナナシ君が頑張れるように…私も頑張らないと!

どうやら、立ち直れたようだな。
ユメに不安な思いをさせない為に、もっと強くならないと…もっと強くなって、戦いを終わらせる!

その後も、しばらく歩いた。その間は、無言の時間が続いたが、二人とも心地良さを感じていた。
そして、ユメの家に着いた。

「ナナシ君。ありがとうね!久しぶりにお話出来て楽しかったよ!」

「ああ、俺もだ」

「じゃあ、またね」

「またな」

こうして、ナナシは、オアシスに帰って行った。
しおりを挟む

処理中です...