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東殿下とご学友
6☆人面犬現る
しおりを挟む「あの~…そろそろ帰りませんか?宮殿の皆さん心配いたしますし…」
臣は遠慮がちに帰りを促す。
流石に真っ暗になる前に帰る事は鉄則だ。
東殿下は目を離すと暗くなっても帰ってこないことがあるから気をつけろと先輩護衛の榊誠に忠告されている。
「そうですよ、人面犬探しはまた今度にしましょう」
瑠香も、にこやかに促す。
(さっさとこんな馬鹿げたことから解放されたい)
と、顔に書いてあるようだが、東殿下は夕陽の方を見て二人の言葉を聞いていないようだった。
それは怪しい気配を感じ取っていたからだ。
東殿下は怪訝な顔をして指を夕陽にお示しになる。
「見て!あそこに犬が一匹だけいる!」
夕陽に照らされて、どのような犬種なのか影になってわからないが黒い影が異様に伸びて不気味さを感じる。
「野犬…でしょうか?」
飼い主がそばにいる気配がないので瑠香は思う。
柴犬くらいの大きさの犬はこちらをじっと見つめたように確認して駆け寄ってきた。
「東様は俺たちの後ろに下がってください!」
臣はサッと東殿下を背に庇う。
餌をねだりに来たとしてもなんの病を持っているかもわからないから野犬を宮様に近づけるわけには行かない。
逢魔が時の雰囲気も相まって不気味さが増す夕日を背にこちらに向かってくる犬のただならぬ異様な気配に瑠香も臣も異様にゾクゾクする。
『わーん』
中年の男の声でその犬は卑しく鳴いた。
「うわっ!」
臣は青ざめて声を上げる。
近寄ってきて犬を見ると、刈り上げの髪型をした目がギョロ目の中年おやじの顔をした犬だった。
三人が探していた人面犬だったのだ。
「グロ、テクス…だね」
東殿下も流石に声をなんとか絞り出した。
「可愛くない…」
動物を好きな瑠香はかわいい犬が駆け寄ってくる事を期待したのにブッサイクな妖怪で心底がっかりした声を出す。
人面犬はニタァと不気味に三人を見つめて
『三日後、死ぬよ?』
と、さらに不気味な呪いをかける。
『でもオラを捕まえられたらその呪いは解けるぞ?』
そう言って三人を抜けてかけていくが暫く先に走りこちらを向いて、追いかけてこいというふうに尻尾を降って挑発している。
「やっぱり寄ってくると思ったよ」
「は?どういうことですか?」
「僕はそう言うものに縁があるんだ。特に夕暮れ時になると、向こうから寄ってくる事もあるし、僕が呼ばれて誘われちゃうこともあるからね」
だからこそ護衛が必要だった。
今まではSPが教室内でも見張っていたが、他の生徒の教育の邪魔なので同い年の臣と瑠香を護衛に定めたのだ。
「とにかく人面犬を追いかけなきゃ!出来たら捕らえて!カメラに!」
(あくまでそこにこだわるのか!)
臣が先に追いかけるが、瑠香も意外と早い。
二人とも人面犬に追いつきそうな脚力を持っていた。
「二人とも早いよ!まって!」
東殿下はヒーヒー言って必死に追いつこうとしたが、秒で体力が切れた。
東殿下は足が遅い…いや、運動神経が鈍いのは生まれつきなのかもしれない。
東殿下はそのことはご自身で分かっておられたが二人の体力に追いつけないことに少し情けなくなった。
瑠香はそんな東殿下を心配し、東殿下のもとに戻り、臣にテレパシーを送り伝言する。
《オレは東殿下のそばにいるから人面犬を円のように追いかけてその内側に追い込め!》
そう、ルカの神がアドバイスをくれた。
臣の能力は臣が歩いたところには結界が張られる。
臣自身見ることはできないが、人面犬を探し回ったかいがあるのか、人面犬はその足跡に阻まれて、速度が遅いのもあった。
臣は瑠香の指示通り追いかける。
「あやかしって、生き物でもあるのですね。オレは幽霊は見えないので…不思議な感覚です」
宮様の前で魂の品が高いから幽霊が見えない理由は言えないけれど……
「まぁ、あれはあやかしというよりも、人々の恐怖を具現化のあやかしぽいよね。妖怪化しているのは確かだけど…」
東殿下は祝皇の血筋なのでそういう事がなんとなくわかるようだ。
「瑠香は幽霊は見えないのにあやかしは見えるの?」
「神の依代なので」
「そっか、じゃ幽霊スポットで遊べないね」
東殿下はがっかりなさる。
「遊ぶって……もっと安全な遊び方をしましょう。例えば昔のあやかしの文献探しくらいにしたり……」
瑠香は気を使って無難な遊びを提供した。
「ふふ、それも楽しそうだね」
臣が上手く追い込むのを二人で見ながら、瑠香と会話が成り立つことに東殿下は嬉しく感じていた。
ごく普通の人間ならばオカルトな不思議な話は会話すら嫌がるだろうから……
更にこの二人は不思議そのものの血筋と存在の家系で、代々祝皇に使える一族のものだ。
(もっと、二人を知りたいな…あやかし探しより楽しいかも)
と、お思いになられた。
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