陰陽師と伝統衛士

花咲マイコ

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東殿下とご学友

2☆ご学友

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「僕たちが初めて会ったのは中学三年の秋だったかな?」
「その頃ですね。受験勉強や晴房の世話が忙しかった頃でしたね。まぁ、陰陽師として…いえ、世間では宮中の神職として特殊な勉強をする者は高校卒業とみなす制度もあったので余裕だったのですが……陛下たっての思し召しでしたので渋々っていう感じでしたね」
 瑠香は恐れもなく当時のやる気のなさ己の態度を暴露する。
 その様子は東殿下もご存知で、懐かしいと思い出してくれたことが嬉しいご様子だ。
(宮様とルカ様は当時のことを思い出し主語がオレになっている)
 と李流は思う。
 それほど身分を超えた気心知れた学友ということなのだろう。
「オレは高校に進学できるかヒヤヒヤしていた時期でした……」
 臣は家庭環境も複雑で、勉強が得意ではなかったので高校受験テストに一生懸命だった。
 部活に入っていれば推薦で入れたのだが、伝統衛士の仕事に誇りを持っていた。
 そんな臣に若い伝統衛士たちは、親近感を持つ。
「瑠香とは中学から伝統衛士をしていた頃から知っていたけどあまり会話なかったな」
「めんどくさいことがきらいだったからな」
 瑠香はわざと意地悪気に微笑む。
「めんどくさいって…わかってたけど、改めて告白されると傷つくぞ。」
 臣は苦笑する。
「まぁ、瑠香はあまりにも美しすぎて近寄りがたかったし、しばらく女の子だと思ってたな……」
「僕も、女の子かと思ってドキドキしちゃったよ。男の子だって聞いてたけどね」
「お褒めいただいて光栄です」
 今では色男だが、品があり美しい笑顔をして、みんなに向ける。
 あまりの美しさにみんな惚ける。
「鬼が仏になった…」
 篁も思わず見惚れて正直な感想をつぶく。
「親父ってズレてね?男だったら女に間違えられるの嫌じゃないか?」
「いや、全く。できる限り女に見られたかった……」
 それが、年をとるたび男だと思わされて悔しい事もあったと内心思っていたことは口に出さないが、薫は心をのぞけるので、
《なんだそりゃ。》
 とテレパシーでツッコミを入れる。
「まぁ、中身はバリバリ男だったけどな、毎日発情期だったしな」
 晴房は瑠香の若い頃も心情も知っているので素で暴露する。
 すかさず瑠香は晴房の襟元を掴み凄み
「ハル……李流くんの前で余計なことを言うな……」
 瑠香の独りよがりだが、李流には純粋なままで育っていてほしいし、自分のイメージを崩されたくない。
「そ、そう言うギャップも魅力の一つ…ですよ…」
(瑠香様…やっぱり、ちょっと変態気味だったのかな…?)
「ブハッ!」
 薫は腹を抱えて笑う。
 李流は薫の態度にハッとし、
「薫!頭の中見てたな!ちがうんです!本当の変態だと思ってないです!」
「晴房とそうところ似てるみたいだね、李流くんは」
「そ、そうおっしゃられると嬉しいですな」
 義理の親子と言えど、似ているところを中務の宮に指摘してもらって晴房も気分よくなる。

 そんなよそよそしい三人が正式に東殿下の学友という護衛を兼ねて東殿下の学校生活をより良いものにするために結成された。
「男子だけのむさ苦しいものじゃなくて、李流君の母君の雪にも護衛をしてもらって、薫君の母君の葛葉子にも護衛をしてもらってとても楽しい学園ライフだったよ。」
 東殿下はあの頃を思い出して懐かしむ。
 その当時の若い頃の経験と思い出は一生の宝物なのだ。
「まぁ、オレの力のせいで東殿下の趣味のオカルト探しは困難だったようですけどね」
「確かにね。だけど、護衛として仕事を鬼のようにこなしていたおかげで、皇后陛下からのお叱りは減ったよ」
「減るだけで、お叱りはあったのですね」
 李流はすかさず出てしまった言霊にハッとして口を慌てて青ざめて押さえる。
「ほーんと、晴房そっくりだねぇ…」
 ニコニコ笑顔で李流に顔を近づく。
「東殿下、李流君をいじめてはいけませんよ。」
「かわいそうじゃないですか。」
 瑠香と臣に諌められ、李流の頭を東殿下はお撫になる。
「ごめんね、でも、一生とも言える長いおつき合いになるから君のことを、もっと知りたくてね。」
(それは、法子様とのお付き合い…のちのちは結婚するお話のことだろうか?)
 李流は未来のことにドキドキ緊張してしまう。将来は畏れ多くも義父になられるお方なのだ。
(宮様が…義父……やばい、心がふわふわする)
「時たま意地悪しちゃうかもだけど、気にしないでね」
「殿下の意地悪なら喜んで承ります!」
 李流は瞳を輝かせて土下座して叫ぶ。
「李流は皇族大好きたから、意地悪はご褒美だな…」
 と薫は呆れて苦笑した。
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