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第一章 眠り姫は子作りしたい
2 Aランクパーティー【氷刃】
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アレース大陸の中心に魔障の大森林があり、四角い大陸を四つに分割するように国がある。
北西の人間の国、ヒューマ。
北東の獣人の国、ウルスラ。
南西のエルフの国、フェリス。
南東のドワーフの国、ヘスト。
どれもそれぞれの種族が国を治めているが、各国は多種族が溢れている。
国同士の関係も良好で、戦争が起きた記録もない。
厳密には戦争をする余裕がないのだ。
ダンジョンと地上の魔物を相手にするのが精一杯で、戦争に人員を割く余裕なんてない。
むしろ手を取り合って、必要に応じて互いに支援し合っていた。
そんな四つの国の中心ともいえる魔障の大森林に【氷刃】の四人はいた。
【氷刃】はヒューマ王国をメインに冒険者活動をしているAランクパーティーだ。
リーダーのリュクスは、アイスブルーの髪の毛に切長の青い瞳。
スラッとした体躯でありながら、しっかりと筋肉はついている。
二刀流の剣士だ。
髪の毛や瞳がカラフルだと、魔力量が多くその属性の加護を受けていると言われる。
嘘か誠かは分からないがリュクスは色味から分かるように、氷や水魔法が得意だ。
彼がリーダーであることからパーティー名は【氷刃】となったが、モテるにも関わらず冷たい態度しか返ってこないのも理由なのではといわれている。
今までリュクスに惚れた数多の女性が、取り付く島もない対応でフラれ続けている。
身長ほどの大剣を担いでいるのはグラス。
長身で体格もよく、寡黙なため怖がられやすいが、真面目で面倒見のいい性格。
深緑の髪の毛は短く揃えられ、赤茶色の瞳を持っている。
グラスは草魔法や土魔法と相性がいい。
ローレンは深紅の髪を項で結び、その頭頂部には大きな三角耳がピクピク動いている。お尻にはフサフサの同色の尻尾がある狼の獣人だ。
獣人はクローで戦う者が多く、ローレンもその例に漏れない。
獣人の瞳孔は縦長で、色も黄色から橙色の濃さが変わる程度。
ローレンは金色にも見える黄色い瞳だった。
人当たりがよく誰とでもすぐ仲よくなれるので、よく色んな噂話を仕入れてくる。悪く言えば軽薄でお調子者。
火魔法が得意で料理好きのため、【氷刃】パーティーの料理担当だ。
一番小柄なコンラッドは弓担当。
数種類の弓を必要に応じて使い分けていて、他のメンバーにはよく分からない拘りがある。
くすんだ金髪はふんわりとした癖毛で、タレ目のクリっとした瞳は翡翠のような緑色だ。
光魔法と風魔法が得意で、後方支援をしつつ回復役もこなせる。
リュクスとグラスがコミュニケーション的に役に立たないので、必然的に人当たりが良くなった。
特にローレンに交渉を任せると大変な目にあったりするので、パーティーの交渉役や買い出しはコンラッドが一手に引き受けている。
この四人で幼い頃からパーティーを組んでいて、初めての薬草採取をしたのは十年以上前だ。
22歳という若さでAランクまで登りつめたのは、彼らが加護色がでる魔力持ちだったことと、同じ孤児院で育った家族だったからだろう。
それだけ危険を犯してきたということでもある。
街中には茶色の濃淡の差がある瞳。髪の毛は真っ白と真っ黒はおらず、こちらも灰色の濃淡か茶色の濃淡がある程度。
それが普通の色合いだ。
分かりにくいが土属性の加護は赤茶色なので、色合いが少しだけ異なる。
産まれてすぐに彼らが教会付属の孤児院の前に捨てられたのは、家庭が貧乏だったか、その色を恐れたかだ。
子供が高魔力持ちだった場合、幼い頃に暴発することがある。
それは子供も、家族も巻き込んで大きな事故となることがある。
もちろん暴発せずに高熱で終わることもあるし、身近にきちんと魔法について学び、扱える人間がいれば暴発することはない。
だが一般家庭では難しいため、どうしても加護持ちは孤児になるものが多かった。
逆に魔法の知識を手に入れやすく、教育もしやすい貴族は、将来護衛にする為に加護持ちを引き取ることもある。
が、長い目で見なくてはいけないため、引き取られるのは数年に一人いればいい方だった。
四人は冒険者ギルドに通い、依頼をこなし、報酬の一部を教会と孤児院に寄進しながら生きてきた。
孤児院の運営は教会がやっているのだ。
人々が恐れる加護色を受け入れてくれ、ここまで育ててくれたことにとても感謝している。
「くそっ。ほんとにここにロストテクノロジーがあるのかよ!?」
「そう言い伝えられている。」
「……。」
襲ってくるキラーウルフと一戦交えながら、ローレンが何度目になるのか分からない愚痴を呟く。
それに真面目に返答を返したリュクスと、ただ頷いたグラス。
そしてコンラッドは矢を放ちながら苦笑を漏らす。
「って聞いてますけど……。遺跡のようなものも見当たりませんね。魔障の大森林は魔素が濃いですから……。遺跡があったとしても、何も残ってないかもしれませんけど。」
彼らは教会に伝わる話を信じて、魔障の大森林を訪れていた。
《世界の中心に古き財産がある》
これが教会に伝わる話だ。
その詳細は全く分からないのに、教会の神父やシスターたちはそれを盲目的なまでに信じていた。
世界各地にある遺跡の中には、遥か昔の文明の遺産が眠っていることがある。
遺跡がダンジョンに取り込まれていることもあり、そういった場合はダンジョンの宝箱の中に入っていることがある。
それらはロストテクノロジーを使ったアーティファクトとして、高額で取引されている。
ある者は使う為に。ある者は分解してその仕組みを解読するために。
しょうもない物から便利なものまで、平民では一生手の届かないような値段で売買されているのだ。
世界でも一握りの人間しかなれないAランク冒険者になり。
ようやく魔窟とも呼ばれる魔障の大森林にやってきて、既に一か月以上ここにいる。
地図上で見る大森林は、単純距離なら徒歩で一か月もあれば往復できる距離だ。
着実に中央に近づいてはいるのだが、なにぶん魔物が多すぎた。
それも魔素が濃いために強いものや変異種が多く、Aランクであり、しかも連携にも優れている【氷刃】でもどうにか進めている状態だ。
倒した魔物たちは解体すらせずに、全てマジックバッグに突っ込んでいく。
市販のマジックバッグには時間停止の付与はされていない。
しかし幸いにも【氷刃】は以前挑んだダンジョンで時間停止付きで、尚且つ今までに見たことが無いサイズのマジックバッグを手に入れていた。
売れば貴族の爵位と領地が丸っと買えるくらいのお値段になるらしい。
このマジックバッグがあったからこそ、魔障の大森林に挑む気になったとも言える。
何か見つかればラッキー。
そうでなくても魔障の大森林から生還し、その素材を売ればしばらく生きていけるだけの報酬は約束されたようなものだ。
パーティーに箔をつけることもできる。
「ぬぁー。もうむりっ。どんだけうじゃうじゃ出てくるんだよっ。」
「泣き言を言う暇があったら処理して下さい。」
「してるっつーの!」
このやり取りも何度目か分からない。
それぞれが擦り傷や小さな裂傷を負いながらもどうにか戦闘を終え、コンラッドの回復魔法を受ける。
「癒しの光よ。清浄なる煌めきよ。傷を癒し在るべき姿へ『創傷治癒』。……ふぅ。帰りのことも考えると、そろそろ引き返すのも考えないとですね。」
「もう少しマナポーションを買っておけば良かったな。これくらいの傷なら……。」
「回復しなくて良いなんて言わせませんからね。リュクスもグラスも、聞かないと教えてくれないんですから。ちょっとした油断が命取りだって、先輩たちも言っていたでしょう?」
「コンラッドは心配なんだってさー。いやー俺達愛されてるねぇ。」
「今ローレンの話してましたっけ?さっさと行きますよ。」
「ちぇーつれないなぁ。」
軽口を叩きながらも、四人の表情は真剣そのものだ。
ちょっとした気の緩みが大きな事故や死に繋がるかもしれない。
それは冒険者になった時から口を酸っぱく言われてきたことだ。
実際に大怪我を負って冒険者生命を絶たれた者。冒険者証であるドッグタグだけが帰ってきた者。それすら見つからず行方不明のまま消息を絶った者。
色んな人が居た。
常に危険と隣り合わせ。それが冒険者だ。
北西の人間の国、ヒューマ。
北東の獣人の国、ウルスラ。
南西のエルフの国、フェリス。
南東のドワーフの国、ヘスト。
どれもそれぞれの種族が国を治めているが、各国は多種族が溢れている。
国同士の関係も良好で、戦争が起きた記録もない。
厳密には戦争をする余裕がないのだ。
ダンジョンと地上の魔物を相手にするのが精一杯で、戦争に人員を割く余裕なんてない。
むしろ手を取り合って、必要に応じて互いに支援し合っていた。
そんな四つの国の中心ともいえる魔障の大森林に【氷刃】の四人はいた。
【氷刃】はヒューマ王国をメインに冒険者活動をしているAランクパーティーだ。
リーダーのリュクスは、アイスブルーの髪の毛に切長の青い瞳。
スラッとした体躯でありながら、しっかりと筋肉はついている。
二刀流の剣士だ。
髪の毛や瞳がカラフルだと、魔力量が多くその属性の加護を受けていると言われる。
嘘か誠かは分からないがリュクスは色味から分かるように、氷や水魔法が得意だ。
彼がリーダーであることからパーティー名は【氷刃】となったが、モテるにも関わらず冷たい態度しか返ってこないのも理由なのではといわれている。
今までリュクスに惚れた数多の女性が、取り付く島もない対応でフラれ続けている。
身長ほどの大剣を担いでいるのはグラス。
長身で体格もよく、寡黙なため怖がられやすいが、真面目で面倒見のいい性格。
深緑の髪の毛は短く揃えられ、赤茶色の瞳を持っている。
グラスは草魔法や土魔法と相性がいい。
ローレンは深紅の髪を項で結び、その頭頂部には大きな三角耳がピクピク動いている。お尻にはフサフサの同色の尻尾がある狼の獣人だ。
獣人はクローで戦う者が多く、ローレンもその例に漏れない。
獣人の瞳孔は縦長で、色も黄色から橙色の濃さが変わる程度。
ローレンは金色にも見える黄色い瞳だった。
人当たりがよく誰とでもすぐ仲よくなれるので、よく色んな噂話を仕入れてくる。悪く言えば軽薄でお調子者。
火魔法が得意で料理好きのため、【氷刃】パーティーの料理担当だ。
一番小柄なコンラッドは弓担当。
数種類の弓を必要に応じて使い分けていて、他のメンバーにはよく分からない拘りがある。
くすんだ金髪はふんわりとした癖毛で、タレ目のクリっとした瞳は翡翠のような緑色だ。
光魔法と風魔法が得意で、後方支援をしつつ回復役もこなせる。
リュクスとグラスがコミュニケーション的に役に立たないので、必然的に人当たりが良くなった。
特にローレンに交渉を任せると大変な目にあったりするので、パーティーの交渉役や買い出しはコンラッドが一手に引き受けている。
この四人で幼い頃からパーティーを組んでいて、初めての薬草採取をしたのは十年以上前だ。
22歳という若さでAランクまで登りつめたのは、彼らが加護色がでる魔力持ちだったことと、同じ孤児院で育った家族だったからだろう。
それだけ危険を犯してきたということでもある。
街中には茶色の濃淡の差がある瞳。髪の毛は真っ白と真っ黒はおらず、こちらも灰色の濃淡か茶色の濃淡がある程度。
それが普通の色合いだ。
分かりにくいが土属性の加護は赤茶色なので、色合いが少しだけ異なる。
産まれてすぐに彼らが教会付属の孤児院の前に捨てられたのは、家庭が貧乏だったか、その色を恐れたかだ。
子供が高魔力持ちだった場合、幼い頃に暴発することがある。
それは子供も、家族も巻き込んで大きな事故となることがある。
もちろん暴発せずに高熱で終わることもあるし、身近にきちんと魔法について学び、扱える人間がいれば暴発することはない。
だが一般家庭では難しいため、どうしても加護持ちは孤児になるものが多かった。
逆に魔法の知識を手に入れやすく、教育もしやすい貴族は、将来護衛にする為に加護持ちを引き取ることもある。
が、長い目で見なくてはいけないため、引き取られるのは数年に一人いればいい方だった。
四人は冒険者ギルドに通い、依頼をこなし、報酬の一部を教会と孤児院に寄進しながら生きてきた。
孤児院の運営は教会がやっているのだ。
人々が恐れる加護色を受け入れてくれ、ここまで育ててくれたことにとても感謝している。
「くそっ。ほんとにここにロストテクノロジーがあるのかよ!?」
「そう言い伝えられている。」
「……。」
襲ってくるキラーウルフと一戦交えながら、ローレンが何度目になるのか分からない愚痴を呟く。
それに真面目に返答を返したリュクスと、ただ頷いたグラス。
そしてコンラッドは矢を放ちながら苦笑を漏らす。
「って聞いてますけど……。遺跡のようなものも見当たりませんね。魔障の大森林は魔素が濃いですから……。遺跡があったとしても、何も残ってないかもしれませんけど。」
彼らは教会に伝わる話を信じて、魔障の大森林を訪れていた。
《世界の中心に古き財産がある》
これが教会に伝わる話だ。
その詳細は全く分からないのに、教会の神父やシスターたちはそれを盲目的なまでに信じていた。
世界各地にある遺跡の中には、遥か昔の文明の遺産が眠っていることがある。
遺跡がダンジョンに取り込まれていることもあり、そういった場合はダンジョンの宝箱の中に入っていることがある。
それらはロストテクノロジーを使ったアーティファクトとして、高額で取引されている。
ある者は使う為に。ある者は分解してその仕組みを解読するために。
しょうもない物から便利なものまで、平民では一生手の届かないような値段で売買されているのだ。
世界でも一握りの人間しかなれないAランク冒険者になり。
ようやく魔窟とも呼ばれる魔障の大森林にやってきて、既に一か月以上ここにいる。
地図上で見る大森林は、単純距離なら徒歩で一か月もあれば往復できる距離だ。
着実に中央に近づいてはいるのだが、なにぶん魔物が多すぎた。
それも魔素が濃いために強いものや変異種が多く、Aランクであり、しかも連携にも優れている【氷刃】でもどうにか進めている状態だ。
倒した魔物たちは解体すらせずに、全てマジックバッグに突っ込んでいく。
市販のマジックバッグには時間停止の付与はされていない。
しかし幸いにも【氷刃】は以前挑んだダンジョンで時間停止付きで、尚且つ今までに見たことが無いサイズのマジックバッグを手に入れていた。
売れば貴族の爵位と領地が丸っと買えるくらいのお値段になるらしい。
このマジックバッグがあったからこそ、魔障の大森林に挑む気になったとも言える。
何か見つかればラッキー。
そうでなくても魔障の大森林から生還し、その素材を売ればしばらく生きていけるだけの報酬は約束されたようなものだ。
パーティーに箔をつけることもできる。
「ぬぁー。もうむりっ。どんだけうじゃうじゃ出てくるんだよっ。」
「泣き言を言う暇があったら処理して下さい。」
「してるっつーの!」
このやり取りも何度目か分からない。
それぞれが擦り傷や小さな裂傷を負いながらもどうにか戦闘を終え、コンラッドの回復魔法を受ける。
「癒しの光よ。清浄なる煌めきよ。傷を癒し在るべき姿へ『創傷治癒』。……ふぅ。帰りのことも考えると、そろそろ引き返すのも考えないとですね。」
「もう少しマナポーションを買っておけば良かったな。これくらいの傷なら……。」
「回復しなくて良いなんて言わせませんからね。リュクスもグラスも、聞かないと教えてくれないんですから。ちょっとした油断が命取りだって、先輩たちも言っていたでしょう?」
「コンラッドは心配なんだってさー。いやー俺達愛されてるねぇ。」
「今ローレンの話してましたっけ?さっさと行きますよ。」
「ちぇーつれないなぁ。」
軽口を叩きながらも、四人の表情は真剣そのものだ。
ちょっとした気の緩みが大きな事故や死に繋がるかもしれない。
それは冒険者になった時から口を酸っぱく言われてきたことだ。
実際に大怪我を負って冒険者生命を絶たれた者。冒険者証であるドッグタグだけが帰ってきた者。それすら見つからず行方不明のまま消息を絶った者。
色んな人が居た。
常に危険と隣り合わせ。それが冒険者だ。
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