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第2章 グランタリア大陸東部編

62.『ケイオス商会』を助けよう!

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レト君に頼まれた僕はレミリアを連れて、帝都イシュタルの街中にある『ケイオス商会』の建物にやってきた。

中へ入ると、先に店に来ていたレト君がペコペコと頭を下げる。


「忙しいのに来てもらってごめんなさい」

「同じクラスの友達じゃないか。別に気にしないでいいよ」


周囲を見回すと、色々な商品が置かれている。

食料品から、衣服、台所用品、その他諸々。

この店の店主である『ケイオス商会』の会長――レト君の父親であるクラドさんが、試行錯誤して店を経営してきた苦労の跡が見て取れる。

……でも、商品の種類があり過ぎて、何を売ってる店なのかわかりずらいんだよね……


「この店、どうして商品が売れないかわかるかな?」

「一言で言うとカオス……どの商品が、この店のお勧めなのかわからないかも……僕の店の商品は、ほとんど女性が好む商品ばかりで揃えるようにしてるんだよね」

「それだと店の特色がわかりやすいね」


僕達の話を店の奥で聞いていたクラドさんが、悔しそうに表情を歪める。


「俺だって、それぐらいのことはわかっている。しかし、家族を食べさせるにも、商会を続けるにも金が必要だった。だから必死にその時に思いついたことをして頑張ってきたんだ」

「そのお気持ちは理解できます。しかし、その結果、今の有様であっては本末転倒です。この店の商品が売れないのは、この店にきちんとしたコンセプトがないことが原因でもあります」

「では何の商品を軸にすればいいんだ。それがわかってるなら、早くからそうしているわい」


エミリアの言葉にクラドさんが噛みつく。


……レト君の頼みだから何とかしてあげたいけど……『ロンメル商会』の商品を卸してあげるのは、何か違うような気がするし……前世の日本の記憶で何かヒントが見つからないかな……


必死で考えた末、僕はハッと気づいた。


そう……前世の日本にはあった店で、このエクストリア世界にはなかった店……


「クラドさん茶屋をやってみませんか? 紅茶の葉やお茶の葉を専門に扱った店です」

「そんな商品、大手の商会が既にしているわい」

「はい、その通りです。でも店舗で庶民に紅茶、茶葉、コーヒー豆を売って、店内で紅茶、茶葉、コーヒーを提供する店はありません。だから専門店にすればいいんですよ」


そう僕が思いついたのは、前世の日本の記憶にあるコーヒー専門店だ。

前世の日本で流行ったということは、帝都イシュタルでも流行る可能性がある。

紅茶やコーヒーなら、帝都イシュタルにも貴族や庶民向けに卸している商会はあるし、もし卸してもらえなかったら、王都ダルトンの店舗にスパイスを卸してくれている商会に相談してみてもいい。

茶葉については東の最果ての島国で、多くの茶葉が量産されているから、王都ブリタスの商会に聞けば、島国と交易のある商会を紹介してもらえるかもしれない。


……そういえば商業ギルド東支部のリンメイさんなら、良い情報を知っているかもしれないな……


レミリアとランドさんに僕の考えを伝えると、レミリアが大きく頷く。


「茶葉、紅茶、コーヒーであれば、日持ちもしますし、在庫として保存することもできますね。高級な品から、普通の品まで揃えれば、品数も増えます。店内で飲むようにするのなら、お茶菓子も添えれば、ちょっとした休憩場所として、女性達の人気になるでしょう」

「わかった。アンタらがそこまで言うのなら、やってやるよ。どうせ潰れかけの商会だ。今、店にある品に未練はないわい」


クラドさんはそう言って、自分の膝をバシッと叩いた。

それから十日間、店の中は改装され、喫茶店らしい内装へと変わった。

茶葉、紅茶、コーヒーなどの品については、商業ギルド東支部のリンメイさんにお願いして、扱っている商会を紹介してもらった。

そして五日後、『ケイオス商会』の店舗は卸し売り兼、喫茶店として営業を始めた。


はじめのうちはポツポツとしかお客は入ってこなかったけど、二週間ほど経つと常連のお客さんもできてきたという。

僕とレミリアが様子を見る為、店に訪れると、クラドさんとレトがエプロン姿で立っていた。


「いらっしゃいませ。シオン君達」

「お店の進捗はどうですか?」

「見ての通り、お客さんもそこそこ入っているよ。席が満員の時があるほどなんだ」


店内を見回すと、空いているテーブルは一つしかなく、僕とレミリアは紅茶を頼んでそこに座った。


……クラドさんの接客も板についてきて、口調もすっかり変わったよね……それに売り上げも順調そうでよかった……


僕とレミリアが座って雑談をしていると、レト君が焼き菓子のクッキーと紅茶を運んできてくれた。

一口含むと、紅茶は香り高く、とても美味しい。

焼き菓子のクッキーも上品な味で、女性客に好まれそうな味だった。


「ホントに美味しいね」

「シオン君、レミリアさん、今回はホントにお世話になりました。これからは父と二人で頑張って、店を盛り立てていきます」


胸を張ってニコリと微笑むレト君は、自信に満ち溢れていて、以前のような怯えた姿は一切なくなっていた。
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