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66.コンクリート
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俺、ドルーキン、カーマイン、オーラルの四人は『アクルマ二号』と『ニクルマ二号』に乗って鉱山の麓にあるウド村へ向かった。
普段、馬車で九日かかる道のりが、『アクルマ二号』と『ニクルマ二号』の性能のおかげで四日でウド村に到着した。
俺達が村の中を歩いていると、作業長のベルゲンと出会った。
俺の顔を見るとベルゲンは申し訳なさそうな表情をして髪をかく。
「当主様、まだミスリルの鉱脈は発掘できていないんだ」
「そのことは急がなくていい。今日は他の用事で来たんだ。ベンゲルは石英をしってるか?」
「この辺りを掘れば、いくらでも出てきますが? いったいどうしたんだ?」
不思議そうに首を傾げているベンゲルに、俺はセメントの説明をする。
ベンゲルは何度も頷き、微笑んだ。
「石英なら、いくらでも掘るし、鉄を粉々にして焼くのも、こちらで請負う。その代わり運搬はそちらで頼みますよ」
「それでいい。よろしく頼む」
ベンゲルと俺は互いに笑みを浮かべて握手をする。
するとオーラルが鉱山へ行きたいと言いだした。
俺達はベンゲルに案内されて、鉱夫達が掘っている鉱山へ登っていく。
ベンゲルは鉱山の入口の方を指差す。
「ここが今、俺達が掘っている所だ」
「別に鉱山の中に入るつもりはないよ」
オーラルは顏を左右に振る。そして片手に持った杖を空へ向けた。
「雷電」
空に幾つもの稲光が発生し、まだ掘られていない山の山頂へ雷が落下した。
突然のことに、俺も皆も驚いていると、俺の方を向いてオーラルはおっとりと笑う。
「あの雷が落ちた場所を掘ってみるといい。雷は金属に反応するからね。もしかすると鉱石がみつかるかもしれないよ」
ベルゲンと鉱夫達はシャベルを持って、雷が落ちた地点へと歩いていった。
それからしばらくして、俺達が村の宿で休んでいると、扉を開けてベンゲルが入ってきた。
「これを見てみろ。ミスリルが多く含まれてるんだ」
ベンゲルはニコニコと微笑んで、俺に鉱石を見せる。
俺には見分けがつかないし、ただの石にしか見えないけど? これがミスリルになるのか?
とりあえず、ここは話しに乗っておこう。
「すごい発見かもしれないな。引き続き調査を頼む」
二日後、俺達は『ニクルマ二号』の荷台に石英と鉄鉱石を積んで、王都へ戻ることにした。
王都に戻った俺達はすぐさま土木庁で行き、石英と鉄鉱石の加工を頼んだ。
その結果、石英は粉々にされ、鉄鉱石は炉で焼かれて粉々になり、邸の倉庫の隣に積み上げられた。
カーマインとドルーキンは、石灰石、石英、酸化鉄を混ぜ合わせ、それを炉で焼いてセメントを作る。
それに砂と砂利を混ぜて、コンクリートを作った。
そして倉庫の前を『ザクザック』と『ケズール』で掘り返し、そこでコンクリートを流し込む。
五日後、倉庫の前にコンクリートの平地が完成した。
カーマインとドルーキンはコンクリートの上に乗って硬さを確かめる。
「これは硬くて頑丈だな。これなら街道を作れるな」
「砂利は土から取り出せるわい。砂は土魔法を使えば、いくらでも増やせるわい」
ドルーキンは自慢気に腕を曲げて力こぶを作る。
それから一週間後、土木庁の主導の元、領都から元コーネリウス伯爵領の領都までの街道の工事が始まった。
それから頻繁に領都とウド村の間を『ニクルマ一号』が往来するようになった。
ウド村から石英、酸化鉄の他に、鉄鉱石、ミスリル鉱石なども領都に運ばれるようになった。
鉄鉱石やミスリル鉱石は土木庁の精製工場で精製され、ミスリルは邸に新たに建てられた第二倉庫に保管されることとなった。
ある日の昼下がり、俺はいつものように執務室のソファに座って頭を抱えていた。
「元コーネリウス伯爵領と領都の呼称を何にすればいいか全く思いつかない」
「そんなの適当に名前を付けてもいいんじゃない。カーマインに頼んでも面白そう」
向かいに座っているリーファが上品に紅茶を一口飲む。
カーマインのネーミングセンスは俺以上に悪いからな。
どんな名前をつけられるかわかったもんじゃない。
リーファはテーブルの上に広げている地図を見ながら、唇に人差し指を持っていく。
「ここ領都に名前ってないわね? 領都に固有の名前があってもおかしくないわよね?」
「……呼びたくない……」
俺は苦々しい表情をして俯いた。
貴族の間では、近親者の名前を都市の名前にすることが多い。
父上はよりによって俺の幼少期の渾名を領都の名前にしたのだ。
俺の表情を読み取ったリーファは、目を細めてニヤリと笑う。
「ねー。この領都の名前、笑わないから言ってみて」
「……ア……アックンだ……」
「#$&%&$#%!」
領都の名前を聞いてリーファは涙を流して大笑いする。
だから言いたくなかったんだ。
都市の名前にアックンはマズイだろ!
笑いが収まったリーファは、深呼吸を三回してから俺を見る。
「笑ったお詫びに私も一緒に考えてあげる。今のフレンハイム伯爵領を西フレンハイム、元コーネリウス伯爵領を東フレンハイムにすればいいわ。東フレンハイムの領都はコーネリでいいんじゃない。この領都の名前もイヤなら変えればいいじゃない。例えばフレイムはどう? 結構いい線いってるでしょ」
領地を東と西に区分したように言い換えればいいのか。
これなら覚えやすいな。
領都コーネリ、これならコーネリウス伯爵領の頃を懐かしむ住人達も納得してくれるだろう。
領都フレイム……めちゃカッコいいじゃん。これは採用だね。
椅子から立ち上がった俺は、急いで内政庁へ向かった。
そして領内の名称についてリーファと相談した内容をオルバートに伝えた。
オルバートは迅速に動き、領内の名称変更が行われた。
これでアックンともおさらばだ。
そういえば、レイモンドの領都の名前を俺は知らないぞ?
あれ? 王都の名前って何だろう?
普段、馬車で九日かかる道のりが、『アクルマ二号』と『ニクルマ二号』の性能のおかげで四日でウド村に到着した。
俺達が村の中を歩いていると、作業長のベルゲンと出会った。
俺の顔を見るとベルゲンは申し訳なさそうな表情をして髪をかく。
「当主様、まだミスリルの鉱脈は発掘できていないんだ」
「そのことは急がなくていい。今日は他の用事で来たんだ。ベンゲルは石英をしってるか?」
「この辺りを掘れば、いくらでも出てきますが? いったいどうしたんだ?」
不思議そうに首を傾げているベンゲルに、俺はセメントの説明をする。
ベンゲルは何度も頷き、微笑んだ。
「石英なら、いくらでも掘るし、鉄を粉々にして焼くのも、こちらで請負う。その代わり運搬はそちらで頼みますよ」
「それでいい。よろしく頼む」
ベンゲルと俺は互いに笑みを浮かべて握手をする。
するとオーラルが鉱山へ行きたいと言いだした。
俺達はベンゲルに案内されて、鉱夫達が掘っている鉱山へ登っていく。
ベンゲルは鉱山の入口の方を指差す。
「ここが今、俺達が掘っている所だ」
「別に鉱山の中に入るつもりはないよ」
オーラルは顏を左右に振る。そして片手に持った杖を空へ向けた。
「雷電」
空に幾つもの稲光が発生し、まだ掘られていない山の山頂へ雷が落下した。
突然のことに、俺も皆も驚いていると、俺の方を向いてオーラルはおっとりと笑う。
「あの雷が落ちた場所を掘ってみるといい。雷は金属に反応するからね。もしかすると鉱石がみつかるかもしれないよ」
ベルゲンと鉱夫達はシャベルを持って、雷が落ちた地点へと歩いていった。
それからしばらくして、俺達が村の宿で休んでいると、扉を開けてベンゲルが入ってきた。
「これを見てみろ。ミスリルが多く含まれてるんだ」
ベンゲルはニコニコと微笑んで、俺に鉱石を見せる。
俺には見分けがつかないし、ただの石にしか見えないけど? これがミスリルになるのか?
とりあえず、ここは話しに乗っておこう。
「すごい発見かもしれないな。引き続き調査を頼む」
二日後、俺達は『ニクルマ二号』の荷台に石英と鉄鉱石を積んで、王都へ戻ることにした。
王都に戻った俺達はすぐさま土木庁で行き、石英と鉄鉱石の加工を頼んだ。
その結果、石英は粉々にされ、鉄鉱石は炉で焼かれて粉々になり、邸の倉庫の隣に積み上げられた。
カーマインとドルーキンは、石灰石、石英、酸化鉄を混ぜ合わせ、それを炉で焼いてセメントを作る。
それに砂と砂利を混ぜて、コンクリートを作った。
そして倉庫の前を『ザクザック』と『ケズール』で掘り返し、そこでコンクリートを流し込む。
五日後、倉庫の前にコンクリートの平地が完成した。
カーマインとドルーキンはコンクリートの上に乗って硬さを確かめる。
「これは硬くて頑丈だな。これなら街道を作れるな」
「砂利は土から取り出せるわい。砂は土魔法を使えば、いくらでも増やせるわい」
ドルーキンは自慢気に腕を曲げて力こぶを作る。
それから一週間後、土木庁の主導の元、領都から元コーネリウス伯爵領の領都までの街道の工事が始まった。
それから頻繁に領都とウド村の間を『ニクルマ一号』が往来するようになった。
ウド村から石英、酸化鉄の他に、鉄鉱石、ミスリル鉱石なども領都に運ばれるようになった。
鉄鉱石やミスリル鉱石は土木庁の精製工場で精製され、ミスリルは邸に新たに建てられた第二倉庫に保管されることとなった。
ある日の昼下がり、俺はいつものように執務室のソファに座って頭を抱えていた。
「元コーネリウス伯爵領と領都の呼称を何にすればいいか全く思いつかない」
「そんなの適当に名前を付けてもいいんじゃない。カーマインに頼んでも面白そう」
向かいに座っているリーファが上品に紅茶を一口飲む。
カーマインのネーミングセンスは俺以上に悪いからな。
どんな名前をつけられるかわかったもんじゃない。
リーファはテーブルの上に広げている地図を見ながら、唇に人差し指を持っていく。
「ここ領都に名前ってないわね? 領都に固有の名前があってもおかしくないわよね?」
「……呼びたくない……」
俺は苦々しい表情をして俯いた。
貴族の間では、近親者の名前を都市の名前にすることが多い。
父上はよりによって俺の幼少期の渾名を領都の名前にしたのだ。
俺の表情を読み取ったリーファは、目を細めてニヤリと笑う。
「ねー。この領都の名前、笑わないから言ってみて」
「……ア……アックンだ……」
「#$&%&$#%!」
領都の名前を聞いてリーファは涙を流して大笑いする。
だから言いたくなかったんだ。
都市の名前にアックンはマズイだろ!
笑いが収まったリーファは、深呼吸を三回してから俺を見る。
「笑ったお詫びに私も一緒に考えてあげる。今のフレンハイム伯爵領を西フレンハイム、元コーネリウス伯爵領を東フレンハイムにすればいいわ。東フレンハイムの領都はコーネリでいいんじゃない。この領都の名前もイヤなら変えればいいじゃない。例えばフレイムはどう? 結構いい線いってるでしょ」
領地を東と西に区分したように言い換えればいいのか。
これなら覚えやすいな。
領都コーネリ、これならコーネリウス伯爵領の頃を懐かしむ住人達も納得してくれるだろう。
領都フレイム……めちゃカッコいいじゃん。これは採用だね。
椅子から立ち上がった俺は、急いで内政庁へ向かった。
そして領内の名称についてリーファと相談した内容をオルバートに伝えた。
オルバートは迅速に動き、領内の名称変更が行われた。
これでアックンともおさらばだ。
そういえば、レイモンドの領都の名前を俺は知らないぞ?
あれ? 王都の名前って何だろう?
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