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48.戦後交渉
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広いタビタ平原の中央に建てられている天幕の中で、俺とレイモンドはタビタ平原の戦いの戦後処理の交渉に臨んだ。
互いの挨拶が終わり、これより交渉が開始される。
俺達二人の前にハルムート伯爵とウラレント侯爵が座っていた。
ハルムート伯爵はレイモンドを見ながら呆れたような表情をする。
「何度でも交渉のお相手はするよ。しかし、トルーデント帝国としては兵の身代金も賠償金も出す気はない」
「今回の戦いでは、勝ったのはリンバインズ王国です。敗戦国が戦勝国へ賠償金を支払う慣例ですよね」
「双方、被害も出ている。痛み分けでいいだろう」
ハルムート伯爵は面倒臭そうに手をヒラヒラさせる。
そんな挑発も気にせず、レイモンドは冷静に発言する。
「では人質となっている兵の身柄を引き渡し、その身代金についてですが、帝国が話し合いに応じるなら、こちらとしても考慮します」
「だからさ、身代金も支払うつもりはないと言ってる。捕虜の兵を持て余してるのはリンバインズ王国のほうだろ。捕虜とはいえ毎日出費がかさむわけだからな」
ハルムート伯爵はウンザリした表情で顔を横に向ける。
俺は一度テーブルを指で叩き、ゆっくりと視線をハルムート伯爵へ向ける。
「捕虜の兵といえど、トルーデント帝国の臣民だと思うがな」
「いかにも、その通りだな。民なくして国なし。国なくして民なしだからな」
俺の言葉にウラレント侯爵が同意する。
その一言でハルムート伯爵の眉がピクリと動く。
そして彼は片手で何回もテーブルを擦る。
「こちらの意見は変えないが、一応、そちらの考慮とやらを聞いてみようか」
「捕虜の兵の身代金は一人につき白金貨五枚です」
白金貨五枚、日本円で五百万。
この異世界では戦が多いから、この金額がホントに妥当なのか?
俺が頭を悩ましていると、 ハルムート伯爵を指差す。
「白金貨五枚でどこが考慮だ。高すぎるんだよ」
「ではハルムート伯爵はどのように考えるんですか? 先程から否定ばかりですけど」
隣に座っているウラレント侯爵は、胸の前で両腕を組んだまま、ジロリとハルムート伯爵を見る。
するとハルムート伯爵は、大きく息を吐いて、軽薄な笑みを浮かべる。
「そうだね。私ならそんな高額な金額は提示しない。光金貨二枚がいい線だろうね」
「それは幾らなんでも低すぎる。そちらの言い分を考慮にいれても、光金貨四枚でしょう」
「いやいや光金貨四枚は髙い、こちらの提示が低いというなら、光金貨三枚。これ以上は話にならない」
レイモンドとハルムート伯爵が値段の交渉をしていると、椅子からウラレント侯爵は立ち上がり、二人に向けて吼える。
「二人共、いい加減にしろ! 安いだの髙いだの、それは商人のすることであろう。貴公達に貴族としての誇りはないのか!」
その声に、レイモンドは表情を引き締め、 ハルムート伯爵は顏を引きつらせる。
二人をねめつけて、 ウラレント侯爵は言葉を続けた。
「双方共に、国を代表しての交渉でる。国の尊厳を損なわず、かつ臣民のことを考える。それが貴族のあり方ではないのか!」
「侯爵閣下の言われる通りです。至らぬことをいたしました。深く謝罪いたします」
レイモンドは素直にウラレント侯爵へ頭を下げる。
ウラレント侯爵は一つ頷き、レイモンドに問う。
「王国の代表として、貴公はどう提示する?」
「はい。こちらは戦勝国ですので、身代金として白金貨四枚と言いたいところですが、交渉が長引くのも不本意です。それに帝国側の立場を考えると、身代金は白金貨三枚。こちらも長期間、捕虜の兵士の生活を支えていますので、この金額が妥当と考えます」
レイモンドの話を聞いて、ウラレント侯爵は厳しい表情で頷く。
そして ハルムート伯爵へ鋭い視線を送る。
「王国の代表としてエクムント辺境伯は応えた。ではハルムート伯爵は帝国を代表して、どう応える?」
「賠償金も身代金も拒否と、何度も同じことを言っております」
ハルムート伯爵は飽き飽きしたという表情で、肩を竦める。
それを聞いたウラレント侯爵は、片手をテーブル置いて目を細めた。
「では問う。例えば帝国が戦の戦勝国であるなら賠償金を要求するだろう。捕虜の兵士を王国へ返すかわりに身代金は要求しないのか?」
「それは……状況次第で変わるもので……今回は……」
「このような交渉をしていては、帝国が勝利した時、王国が交渉の一切を拒否しても、帝国は何も言えぬようになるわ! そのような悪しき慣例を、貴公の一存でおこなうつもりか! そのような態度が、帝国を代表する交渉か!」
ウラレント侯爵はハルムート伯爵を一喝すると、そのまま席に座り、両腕を組んで目をつむってしまった。
ウラレント侯爵が目を伏せたということは、これ以上の手助けはしないということだな。
しかし ハルムート伯爵とウラレント侯爵では、やはり役者が違うな。さすがは侯爵だ。
その後、態度を改めたハルムート伯爵は賠償金、身代金について積極的に交渉してきた。
そして交渉は両国が納得する妥協点に落ち着いた。
もちろん、リンバインズ王国は戦勝国ということで、賠償金はキッチリと高額をいただいた。
この交渉、レイモンドの勝利と言える。
肩をガクリと落としたハルムート伯爵とウラレント侯爵を残して俺達は天幕から去った。
タビタ平原の交渉から二カ月後、邸に早馬が走ってきた。
伝令兵によると、ベヒトハイム宰相より至急、王宮に来いという内容だという。
あれ? 戦後交渉の件はレイモンドが王宮へ報告したはずだけど?
今回は王宮に呼び出されるようなことは何もしていないはずだけどな!?
互いの挨拶が終わり、これより交渉が開始される。
俺達二人の前にハルムート伯爵とウラレント侯爵が座っていた。
ハルムート伯爵はレイモンドを見ながら呆れたような表情をする。
「何度でも交渉のお相手はするよ。しかし、トルーデント帝国としては兵の身代金も賠償金も出す気はない」
「今回の戦いでは、勝ったのはリンバインズ王国です。敗戦国が戦勝国へ賠償金を支払う慣例ですよね」
「双方、被害も出ている。痛み分けでいいだろう」
ハルムート伯爵は面倒臭そうに手をヒラヒラさせる。
そんな挑発も気にせず、レイモンドは冷静に発言する。
「では人質となっている兵の身柄を引き渡し、その身代金についてですが、帝国が話し合いに応じるなら、こちらとしても考慮します」
「だからさ、身代金も支払うつもりはないと言ってる。捕虜の兵を持て余してるのはリンバインズ王国のほうだろ。捕虜とはいえ毎日出費がかさむわけだからな」
ハルムート伯爵はウンザリした表情で顔を横に向ける。
俺は一度テーブルを指で叩き、ゆっくりと視線をハルムート伯爵へ向ける。
「捕虜の兵といえど、トルーデント帝国の臣民だと思うがな」
「いかにも、その通りだな。民なくして国なし。国なくして民なしだからな」
俺の言葉にウラレント侯爵が同意する。
その一言でハルムート伯爵の眉がピクリと動く。
そして彼は片手で何回もテーブルを擦る。
「こちらの意見は変えないが、一応、そちらの考慮とやらを聞いてみようか」
「捕虜の兵の身代金は一人につき白金貨五枚です」
白金貨五枚、日本円で五百万。
この異世界では戦が多いから、この金額がホントに妥当なのか?
俺が頭を悩ましていると、 ハルムート伯爵を指差す。
「白金貨五枚でどこが考慮だ。高すぎるんだよ」
「ではハルムート伯爵はどのように考えるんですか? 先程から否定ばかりですけど」
隣に座っているウラレント侯爵は、胸の前で両腕を組んだまま、ジロリとハルムート伯爵を見る。
するとハルムート伯爵は、大きく息を吐いて、軽薄な笑みを浮かべる。
「そうだね。私ならそんな高額な金額は提示しない。光金貨二枚がいい線だろうね」
「それは幾らなんでも低すぎる。そちらの言い分を考慮にいれても、光金貨四枚でしょう」
「いやいや光金貨四枚は髙い、こちらの提示が低いというなら、光金貨三枚。これ以上は話にならない」
レイモンドとハルムート伯爵が値段の交渉をしていると、椅子からウラレント侯爵は立ち上がり、二人に向けて吼える。
「二人共、いい加減にしろ! 安いだの髙いだの、それは商人のすることであろう。貴公達に貴族としての誇りはないのか!」
その声に、レイモンドは表情を引き締め、 ハルムート伯爵は顏を引きつらせる。
二人をねめつけて、 ウラレント侯爵は言葉を続けた。
「双方共に、国を代表しての交渉でる。国の尊厳を損なわず、かつ臣民のことを考える。それが貴族のあり方ではないのか!」
「侯爵閣下の言われる通りです。至らぬことをいたしました。深く謝罪いたします」
レイモンドは素直にウラレント侯爵へ頭を下げる。
ウラレント侯爵は一つ頷き、レイモンドに問う。
「王国の代表として、貴公はどう提示する?」
「はい。こちらは戦勝国ですので、身代金として白金貨四枚と言いたいところですが、交渉が長引くのも不本意です。それに帝国側の立場を考えると、身代金は白金貨三枚。こちらも長期間、捕虜の兵士の生活を支えていますので、この金額が妥当と考えます」
レイモンドの話を聞いて、ウラレント侯爵は厳しい表情で頷く。
そして ハルムート伯爵へ鋭い視線を送る。
「王国の代表としてエクムント辺境伯は応えた。ではハルムート伯爵は帝国を代表して、どう応える?」
「賠償金も身代金も拒否と、何度も同じことを言っております」
ハルムート伯爵は飽き飽きしたという表情で、肩を竦める。
それを聞いたウラレント侯爵は、片手をテーブル置いて目を細めた。
「では問う。例えば帝国が戦の戦勝国であるなら賠償金を要求するだろう。捕虜の兵士を王国へ返すかわりに身代金は要求しないのか?」
「それは……状況次第で変わるもので……今回は……」
「このような交渉をしていては、帝国が勝利した時、王国が交渉の一切を拒否しても、帝国は何も言えぬようになるわ! そのような悪しき慣例を、貴公の一存でおこなうつもりか! そのような態度が、帝国を代表する交渉か!」
ウラレント侯爵はハルムート伯爵を一喝すると、そのまま席に座り、両腕を組んで目をつむってしまった。
ウラレント侯爵が目を伏せたということは、これ以上の手助けはしないということだな。
しかし ハルムート伯爵とウラレント侯爵では、やはり役者が違うな。さすがは侯爵だ。
その後、態度を改めたハルムート伯爵は賠償金、身代金について積極的に交渉してきた。
そして交渉は両国が納得する妥協点に落ち着いた。
もちろん、リンバインズ王国は戦勝国ということで、賠償金はキッチリと高額をいただいた。
この交渉、レイモンドの勝利と言える。
肩をガクリと落としたハルムート伯爵とウラレント侯爵を残して俺達は天幕から去った。
タビタ平原の交渉から二カ月後、邸に早馬が走ってきた。
伝令兵によると、ベヒトハイム宰相より至急、王宮に来いという内容だという。
あれ? 戦後交渉の件はレイモンドが王宮へ報告したはずだけど?
今回は王宮に呼び出されるようなことは何もしていないはずだけどな!?
応援ありがとうございます!
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