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47.転移失敗

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三日間、邸の者達を全員集めて、領都に何が必要かを話し合った結果、文部学校、薬剤学校、魔法学園、武術学舎、綜合病院、内政庁、土木庁、警備庁を作ることにした。

前世の日本の政府を参考にしたんだけどね。

文部学校は、読み書き、四則演算、ソロバンを教える基礎的な知識を学ぶ学校だ。

薬剤学校は、錬金術師と教育する学校だが、機械や魔道具を開発する機関でもある。卒業生は総合病院に登用される。

魔法学園は、魔法士を集めて育てる学校。卒業生は私兵団と警備庁に登用される。

武術学舎は、武術と肉体を鍛える学校。卒業生は私兵団と警備庁に登用される。

綜合病院は、領都を中心に領内全体の医療を担当する。

内政庁は、領内の経済、人口、流通、税、人事など、内政全般を管理する。

土木庁は、領都を中心に領内のインフラ設備の工事、修復を担当する。

警備庁は、領都を中心に領内の警備を担当する。

今建設されている第二外壁の内側に、それぞれの建物を建てる予定だ。もちろん隔離病棟も再利用する。

これだけ建設をするには、今の労働者の数では足りない。

俺はオルバートと相談して、新たに人夫を募集した。

季節は夏になり、滲むような熱さが連日続いている。

労働者を募集してから一カ月後、街を守る第二外壁の建設は順調に進み、領都は建設ラッシュとなった。

そろそろ ウラレント侯爵はハルムート伯爵と会って、戦後処理の交渉の場へ同行することを承諾させているはずだ。

俺は執務室の天井の角を見つめて、声をかける。

「スイ、姿を現せ」

「どのような、ご用件でしょう?」

天井裏から下りてきたスイは、片膝をついて礼をする。

俺は椅子から立ち上がり、ゆっくりとスイの前にたった。

「俺をエクムント辺境伯領まで転移させてくれ」

「無理にござる」

「なぜだ?」

「人を連れて転移したことがありません」

体の一部を触れ合っていれば、一緒に転移できるんじゃないのか。

試してみて失敗しても、俺も一応は転移魔法を使えるから、たぶん戻って来れるはず……

たぶん……自信は全くないけどさ。

俺はスイの手を掴んで命令する。

「失敗してもいい。転移してくれ」

「どうなっても知らぬでござるよ」

スイは文句を呟いて、俺を連れて転移した。

一瞬、目の前が真っ白になり、次の瞬間に豪華な部屋にいた。

周りを見回し、俺は目の前のスイに質問する。

「ここはどこだ?」

「 エクムント辺境伯の領都あるレイモンドの私室でござる」

部屋の中を見回すがレイモンドの姿はなかった。

スイと目が合うと、なぜか頬を赤く染め、俺から顔を背ける。

なぜ顔を赤くしてるんだ?

不思議に思っていると、何だか体がスースーする。

視線を下へ向けると、俺は下着姿になっていた。

俺は片眉を上げて、スイに詰め寄る。

「これはどういうことだ?」

「たぶん、魔力量が足りず、服が転移できなかったのでしょうな」

「呑気に言ってる場合か! こんな場所で下着姿でいられないだろ! 早く服を取ってこい!」

「御意」

俺の迫力に気圧されたスイは、慌てて転移していった。

一人で取り残されて、どうしようと考えていると、扉が開いてメイドが入ってくる。

そして俺の姿を見て悲鳴をあげた。

「キャーー! 賊が! 賊が!」

「違う! 違う! 誤解だー!」

俺は慌てて、メイドの横をすり抜けて部屋を出る。

そのまま廊下を走っていると、目の前のドアが開き、レイモンドが姿を現した。

俺は必死にレイモンドへしがみつく。

「レイモンド! 助けてくれ! 誤解なんだ!」

「え? アクス? どうして邸に? 下着!?」

突然のことで、レイモンドも驚いて、目を白黒させる。

そうしている内に、メイドの悲鳴が聞こえた警備兵が大勢で駆けてくる。

レイモンドの邸は俺が原因で大騒ぎとなった。

警備兵やメイド達を落ち着かせたレイモンドは俺を私室へ連れて行く。

部屋の中へ入ると、俺を指差して噴き出した。

「毎回、アクスには驚かされるよ。わざわざ私の邸で下着姿になる必要はないだろ」

「したくてしてるわけじゃない。スイが転移した時、俺の衣服だけ転移できなかったんだ」

俺は必死にレイモンドの邸に来た理由を説明するが、レイモンドの笑い転げていた。

そうしているとスイが転移魔法で突然現れた。

手に俺の衣服を持っている。それを強引に掴み取り急いで身に着ける。

やっと落ち着いた俺とレイモンドはソファに腰かける。

そして穏やかに微笑む。

「今日は転移してまで何をしに来たんだい?」

「もうそろそろトルーデント帝国側の準備が整ったはずだから、こちらも動こうと思ってね」

「戦後処理の交渉に、帝国側の ウラレント侯爵が同席する話ですね。それにしても、どうやって
ウラレント侯爵を動かしたんですか?」

「それはな……」

俺はレイモンドへ手を向け、先日、ウラレント侯爵領へお忍びで旅をしたことを説明した。

それを聞いてレイモンドは目を見開く。

「そんな無茶なことを、簡単にできますね。下手をすれば捕縛されてますよ」

「エルナを見ていて、ウラレント侯爵領は悪徳な貴族ではないと思ったんだ」

俺は肩を竦めて手をヒラヒラさせる。

レイモンドは私室へ伝令兵を呼び、トルーデント帝国のハルムート伯爵領へ行き、ハルムート伯爵へ一カ月後に交渉を再会する旨を伝えるように指示を出した。

それを見届けた俺は、レイモンドと談笑した後に、スイの転移魔法でフレンハイム伯爵領の邸へと戻った。



一カ月が経ち、季節は春へと移り変わる。

俺は再び、スイと共にレイモンドの邸へと転移した。

そしてレイモンドと合流し、ハルムート伯爵との交渉場所であるタビタ平原へ馬車で向かった。

タビタ平原まで来ると、平原の中央に天幕が張られていた。

レイモンドの話しによれば、あの天幕が交渉場所らしい。

馬車を下りて、俺とレイモンドが天幕へ入ると、壮年の優男とウラレント侯爵が座っていた。

あの壮年の優男がハルムート伯爵だろう。

レイモンドはハルムート伯爵へ軽く会釈しニッコリと微笑んだ。

「では、交渉を始めましょうか」
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