57 / 67
(57)ロンドンで過ごす休暇
しおりを挟む
すぐに帰ると思っていたからか、一稀さんは私をベッドに閉じ込めようとしたけど、祝日を絡めて5日以上有休を取ったので、1週間は一緒に過ごせると分かると束縛をやめてくれた。
「一稀さんは、私の体しか好きじゃないのかと不安にさせる天才だよね」
呆れて吐き捨てるように呟くと、そうじゃないと不貞腐れた顔を向けられる。
「違うに決まってるでしょ。どうしてこんなに好きなのを分かってくれないかな。なーたんがそばに居るなんて、愛を深めたくなるに決まってるじゃない」
「言い回しが上手いよね、信じざるを得ない感じに聞こえる」
「信じてよ」
可笑しそうに笑う一稀さんが、ディナーはどうしようかと恵子さんに手配を頼もうとするので、丁重にお断りした。
一稀さんに任せると贅沢な食生活で胃がもたれそうなので、土曜だけど仕事があると言う彼を置いて、一人でスーパーマーケットで食材を買い込んで、家でご飯を作ることにした。
意外と日本の調味料なんかもあって、見慣れない食材ばかりだったらどうしようかと悩んでいたけど、これならなんとかなりそう。
慣れない英語を駆使して買い物を済ませると、重たくなった荷物を両脇に抱えて歩くアジア人がそんなに珍しいのか、道行く人に次々と手伝おうかと声を掛けられる。
スリや軽犯罪を警戒するのも馬鹿らしいくらい、優しい人が多くて気がゆるむけど、ここは外国だってことを忘れないように気を引き締めて、アパートメントまでの道のりを足早に歩いた。
「ふう。ただいま」
仕事中の一稀さんの邪魔はしないように、預かった鍵で家に入ると、広々としたダイニングキッチンで買ってきた食材を広げて冷蔵庫に入れていく。
「なーたんおかえり」
「ただいま。仕事サボってていいの」
「メールのやり取り程度だから大丈夫だよ」
キッチンに入ってきた一稀さんは、手際よくパスタや缶詰をパントリーにしまうと、野菜は切っておこうかと手伝ってくれる。
「ありがと。ねえ、こっちのスーパー凄いんだね。日本の食材もたくさんあってびっくりしちゃった」
「ヘルシーだからね。健康食として割と人気あるんだよ。味がイマイチなのもあるし、本当に日本食食べたいなら専用のスーパーがあるよ」
「そうなんだ。今の世の中、本当に便利だよね」
どうやらサンドイッチだけでは足りなかったらしい一稀さんのために、アボカドとラディッシュにエビを合わせたサラダを作って、ガーリックトーストを焼く。
「続きは私がするから、先に食べて。夕飯はガッツリ肉料理にするから、とりあえず今はこれで我慢しといてね」
「来たばっかりで忙しいのに、本当にありがとね」
一稀さんが美味しそうに食べるのを見ながら、野菜を下処理して買ってきたパックに小分けしていく。
「本当に外食ばっかりなんだね」
「心配?」
「当たり前でしょ」
「そういうの、なんかくすぐったいね」
「なに。私にはめちゃくちゃ恥ずかしいこと言うくせに、こんな程度で照れるの?」
「なーたんに愛されてる感じかするんだよ」
「ああね、口に出さないとってやつね」
一稀さんと何気ない世間話をして、夕飯の献立を考えながら紅茶の支度をする。
「明日はゆっくり出来るから、なーたん行きたいところとか案内するよ」
「本当?じゃあ博物館行きたい」
「いいよ。1日では回りきれないだろうけど、ブリティッシュミュージアムに行こうか」
「大英博物館ってこと?」
「そうそう。仕事のヒントになるようなものもいっぱいあると思うよ。大人だからこそ楽しめるってのはあると思うし」
「へえ、楽しみ。よく考えたら、こんなデートらしいデート初めてじゃない?」
「え、そうかな」
「そうだよ」
「博物館に行くのが、なーたんの言うデートらしいデートだったの」
「そうだよ。電気屋でスマホ買うのとは違うもん」
いつかの会話を思い出して肩を揺らして笑うと、一稀さんも楽しげな表情で紅茶を飲んでる。
一稀さんの家には初めて来たけど、ダイニングテーブルの椅子の座り心地とか、キッチンの使い勝手とか、どれもがどこかで見たような既視感すらあって居心地が良い。
「なんか、不思議なくらいこの家安心する」
「そう?俺はなーたんの家のリビングで、コタツに入ってまったり過ごすのが良いけどね」
「そうかな。そう言えば暖房はどうしてるの」
「床暖房とオイルヒーターかな。暖炉もあるけどメンテナンスが大変だからね」
「ああ、映画で見たことあるよ。煙突掃除」
大きなブラシのような特殊な道具を使って、煙突掃除のお兄さんが屋根の上で踊るミュージカル映画を思い出した。
「ここはアパートメントだし、換気口が集約されてるけどね」
「へえ。やっぱり文化が違って面白いね。街の中を歩くだけでも楽しそう」
「じゃあランチ持ってハイドパークでゆっくり過ごしてもいいかもね。ピクニックみたいにさ。ボートなんかにも乗れるし、なーたんそういうの好きじゃない?」
「行きたい。お休みは1週間あるし、一稀さんの仕事の都合もあるだろうけど」
「そんなの気にしなくていいよ。一緒に色んなところに行こう。俺も楽しみ」
にっこり笑って握った手にキスしてくれる一稀さんに笑顔を向けると、しばらく会えずにいた間の話で盛り上がった。
「一稀さんは、私の体しか好きじゃないのかと不安にさせる天才だよね」
呆れて吐き捨てるように呟くと、そうじゃないと不貞腐れた顔を向けられる。
「違うに決まってるでしょ。どうしてこんなに好きなのを分かってくれないかな。なーたんがそばに居るなんて、愛を深めたくなるに決まってるじゃない」
「言い回しが上手いよね、信じざるを得ない感じに聞こえる」
「信じてよ」
可笑しそうに笑う一稀さんが、ディナーはどうしようかと恵子さんに手配を頼もうとするので、丁重にお断りした。
一稀さんに任せると贅沢な食生活で胃がもたれそうなので、土曜だけど仕事があると言う彼を置いて、一人でスーパーマーケットで食材を買い込んで、家でご飯を作ることにした。
意外と日本の調味料なんかもあって、見慣れない食材ばかりだったらどうしようかと悩んでいたけど、これならなんとかなりそう。
慣れない英語を駆使して買い物を済ませると、重たくなった荷物を両脇に抱えて歩くアジア人がそんなに珍しいのか、道行く人に次々と手伝おうかと声を掛けられる。
スリや軽犯罪を警戒するのも馬鹿らしいくらい、優しい人が多くて気がゆるむけど、ここは外国だってことを忘れないように気を引き締めて、アパートメントまでの道のりを足早に歩いた。
「ふう。ただいま」
仕事中の一稀さんの邪魔はしないように、預かった鍵で家に入ると、広々としたダイニングキッチンで買ってきた食材を広げて冷蔵庫に入れていく。
「なーたんおかえり」
「ただいま。仕事サボってていいの」
「メールのやり取り程度だから大丈夫だよ」
キッチンに入ってきた一稀さんは、手際よくパスタや缶詰をパントリーにしまうと、野菜は切っておこうかと手伝ってくれる。
「ありがと。ねえ、こっちのスーパー凄いんだね。日本の食材もたくさんあってびっくりしちゃった」
「ヘルシーだからね。健康食として割と人気あるんだよ。味がイマイチなのもあるし、本当に日本食食べたいなら専用のスーパーがあるよ」
「そうなんだ。今の世の中、本当に便利だよね」
どうやらサンドイッチだけでは足りなかったらしい一稀さんのために、アボカドとラディッシュにエビを合わせたサラダを作って、ガーリックトーストを焼く。
「続きは私がするから、先に食べて。夕飯はガッツリ肉料理にするから、とりあえず今はこれで我慢しといてね」
「来たばっかりで忙しいのに、本当にありがとね」
一稀さんが美味しそうに食べるのを見ながら、野菜を下処理して買ってきたパックに小分けしていく。
「本当に外食ばっかりなんだね」
「心配?」
「当たり前でしょ」
「そういうの、なんかくすぐったいね」
「なに。私にはめちゃくちゃ恥ずかしいこと言うくせに、こんな程度で照れるの?」
「なーたんに愛されてる感じかするんだよ」
「ああね、口に出さないとってやつね」
一稀さんと何気ない世間話をして、夕飯の献立を考えながら紅茶の支度をする。
「明日はゆっくり出来るから、なーたん行きたいところとか案内するよ」
「本当?じゃあ博物館行きたい」
「いいよ。1日では回りきれないだろうけど、ブリティッシュミュージアムに行こうか」
「大英博物館ってこと?」
「そうそう。仕事のヒントになるようなものもいっぱいあると思うよ。大人だからこそ楽しめるってのはあると思うし」
「へえ、楽しみ。よく考えたら、こんなデートらしいデート初めてじゃない?」
「え、そうかな」
「そうだよ」
「博物館に行くのが、なーたんの言うデートらしいデートだったの」
「そうだよ。電気屋でスマホ買うのとは違うもん」
いつかの会話を思い出して肩を揺らして笑うと、一稀さんも楽しげな表情で紅茶を飲んでる。
一稀さんの家には初めて来たけど、ダイニングテーブルの椅子の座り心地とか、キッチンの使い勝手とか、どれもがどこかで見たような既視感すらあって居心地が良い。
「なんか、不思議なくらいこの家安心する」
「そう?俺はなーたんの家のリビングで、コタツに入ってまったり過ごすのが良いけどね」
「そうかな。そう言えば暖房はどうしてるの」
「床暖房とオイルヒーターかな。暖炉もあるけどメンテナンスが大変だからね」
「ああ、映画で見たことあるよ。煙突掃除」
大きなブラシのような特殊な道具を使って、煙突掃除のお兄さんが屋根の上で踊るミュージカル映画を思い出した。
「ここはアパートメントだし、換気口が集約されてるけどね」
「へえ。やっぱり文化が違って面白いね。街の中を歩くだけでも楽しそう」
「じゃあランチ持ってハイドパークでゆっくり過ごしてもいいかもね。ピクニックみたいにさ。ボートなんかにも乗れるし、なーたんそういうの好きじゃない?」
「行きたい。お休みは1週間あるし、一稀さんの仕事の都合もあるだろうけど」
「そんなの気にしなくていいよ。一緒に色んなところに行こう。俺も楽しみ」
にっこり笑って握った手にキスしてくれる一稀さんに笑顔を向けると、しばらく会えずにいた間の話で盛り上がった。
10
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~
泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳
売れないタレントのエリカのもとに
破格のギャラの依頼が……
ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて
ついた先は、巷で話題のニュースポット
サニーヒルズビレッジ!
そこでエリカを待ちうけていたのは
極上イケメン御曹司の副社長。
彼からの依頼はなんと『偽装恋人』!
そして、これから2カ月あまり
サニーヒルズレジデンスの彼の家で
ルームシェアをしてほしいというものだった!
一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい
とうとう苦しい胸の内を告げることに……
***
ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる
御曹司と売れないタレントの恋
はたして、その結末は⁉︎
独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました
紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話
平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。
サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。
恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで……
元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる?
社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。
「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」
ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。
仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。
ざまぁ相手は紘人の元カノです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる