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(3)女子会と呼べば聞こえは良い
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愛花がセレクトした店は、若者で賑わう繁華街の裏通りにある渋い居酒屋だった。
【着いたけど】
店の前でスマホをタップしてメッセージを打ち込むと、愛花の名前で予約してるからとすぐに返事が返ってきた。
店内は予想よりもシックなデザインで、店は賑わってる様子なのにやかましくなくてどこかホッとする。
店員さんに愛花の名前を伝えて、連れが先に入ってることを告げると、小上がりになった個室の方へ案内されてパンプスを脱ぐ。
「おつー。遅れてごめんね」
「全然大丈夫。今村さんと合流出来たの」
「やっぱり忘れられててヤバかった」
「マジかー。ホント期待を裏切らないね、あの人」
「まあ合流出来たからヨシとするわ」
おしぼりを持ってきてくれた店員さんにとりあえず生ビールを頼むと、出されたお通しの山菜の和え物に箸をつけてから、早速始まった愛花の愚痴に耳を傾ける。
「て言うか聞いてくれる」
同棲してる彼氏と喧嘩してるらしく、私の一つ上の愛花は、年齢的にもこのまま付き合い続けるか悩んでるらしくて、今の私にとっては贅沢な悩みに思わず苦笑いする。
そういえばしばらく忙しくて、私が彼氏と破局したことは愛花に伝えてない。
「ケンカ出来るだけ良いんじゃないかな。私なんか向こうに好きな人が出来たって相談されて、結局応援するねって別れちゃったもん」
「はあ?」
愛花は噛みかけの焼き鳥を頬張ったまま、素っ頓狂な声を上げた。
「そう。なんかこの人じゃないんだなって。別れたの」
「吉澤くん、そんな人だったの」
吉澤宏泰。それが元彼の名前。久々にその名前を他人から聞くと、本当に縁が切れた相手なんだなと、妙に冷めた気持ちになる。
「そんな人、どうだろうね。結婚がリアルになって怖気付いたのか、本当に別の人に恋しちゃったんだろうね」
「リアルもクソも、女が30になったら結婚は身近な問題で、年齢的にも色んな意味で、プライベートの充実はハードル上がっていくのに。やっぱ男には分かんないのかね」
愛花は焼酎のお湯割をグイッと一気に呑むと、別れて正解だったのかもよと、慰めなのかよく分からない言葉を掛けて、うん正解だよとひとりごちた。
「ちっさい頃は、割と普通に大人になったら結婚するものだと思ってたけど、人生そう上手くいかないよね。愛花はどんな風に思ってた?」
肉汁がジュワッとこぼれる分厚いバラ肉にかぶり付くと、添えられた柚子胡椒をつけてもう一口かぶりついた。
「なんなんだろうね。私も漠然と、大人になれば運命の人と出会って、そのまま結婚するもんだと思ってたな。割と今でもガチで思ってるところあるかも」
「あはは、そうなの」
「だってよく聞くじゃん。出会った時にこの人だって分かるって話、聞かない?」
お皿の上のお肉と野菜をくっつけながら、運命の赤い糸とかさと愛花が大きな溜め息を吐く。
「あれは結果論だと思うけどね」
「まあそうかも知れないけどさ。出会ってみたいじゃない、運命の相手とさ」
愛花も随分と夢見がちなことを言うなと思いながらも、私だってウェディングドレスを着た自分を想像したことがあるのを思い出して、なんとも言い難い重たい溜め息が出た。
「それで、高柳さんは運命の相手じゃないの?」
愛花の恋人は、確か食品メーカーの営業マンだったはず。2、3歳年上で、それなりのポストについてたはずだ。
「陽太郎はさぁ、なんかもう家族みたいでトキメキもないし、同棲なんかするんじゃなかったって、今更後悔しても遅いんだけどね」
「親御さんは、結婚の話とかつつかれないの?」
「うち?うちはとっくに諦めてるから。陽太郎のところも、今時30代で結婚したら御の字みたいな感じだからね。それよりあんたの親御さんは、彼氏と別れたの知ってるの」
「言えてない」
「奏多の親御さんは保守的だもんね。言わないままはキツいんじゃないの」
「まあ、しつこく聞かれたらその時に話そうかと思ってる。ショックで倒れられたら洒落になんないから」
「結婚を見越した相手だっただけに、確かに親御さんはびっくりしちゃうかもね」
「下手に結婚した後で離婚にならなくて良かったと思うようにしてる」
「あー。まあそりゃそうか。今はそんな気分じゃないだろうけど、紹介とかなら陽太郎の知り合いにも良い人居るし、遠慮なく声掛けてね」
「うん。今はそっち方面お腹いっぱいだわ」
それよりこれ美味しいねと里芋の唐揚げを頬張って、次は何を頼もうかとメニューを手に取った。
【着いたけど】
店の前でスマホをタップしてメッセージを打ち込むと、愛花の名前で予約してるからとすぐに返事が返ってきた。
店内は予想よりもシックなデザインで、店は賑わってる様子なのにやかましくなくてどこかホッとする。
店員さんに愛花の名前を伝えて、連れが先に入ってることを告げると、小上がりになった個室の方へ案内されてパンプスを脱ぐ。
「おつー。遅れてごめんね」
「全然大丈夫。今村さんと合流出来たの」
「やっぱり忘れられててヤバかった」
「マジかー。ホント期待を裏切らないね、あの人」
「まあ合流出来たからヨシとするわ」
おしぼりを持ってきてくれた店員さんにとりあえず生ビールを頼むと、出されたお通しの山菜の和え物に箸をつけてから、早速始まった愛花の愚痴に耳を傾ける。
「て言うか聞いてくれる」
同棲してる彼氏と喧嘩してるらしく、私の一つ上の愛花は、年齢的にもこのまま付き合い続けるか悩んでるらしくて、今の私にとっては贅沢な悩みに思わず苦笑いする。
そういえばしばらく忙しくて、私が彼氏と破局したことは愛花に伝えてない。
「ケンカ出来るだけ良いんじゃないかな。私なんか向こうに好きな人が出来たって相談されて、結局応援するねって別れちゃったもん」
「はあ?」
愛花は噛みかけの焼き鳥を頬張ったまま、素っ頓狂な声を上げた。
「そう。なんかこの人じゃないんだなって。別れたの」
「吉澤くん、そんな人だったの」
吉澤宏泰。それが元彼の名前。久々にその名前を他人から聞くと、本当に縁が切れた相手なんだなと、妙に冷めた気持ちになる。
「そんな人、どうだろうね。結婚がリアルになって怖気付いたのか、本当に別の人に恋しちゃったんだろうね」
「リアルもクソも、女が30になったら結婚は身近な問題で、年齢的にも色んな意味で、プライベートの充実はハードル上がっていくのに。やっぱ男には分かんないのかね」
愛花は焼酎のお湯割をグイッと一気に呑むと、別れて正解だったのかもよと、慰めなのかよく分からない言葉を掛けて、うん正解だよとひとりごちた。
「ちっさい頃は、割と普通に大人になったら結婚するものだと思ってたけど、人生そう上手くいかないよね。愛花はどんな風に思ってた?」
肉汁がジュワッとこぼれる分厚いバラ肉にかぶり付くと、添えられた柚子胡椒をつけてもう一口かぶりついた。
「なんなんだろうね。私も漠然と、大人になれば運命の人と出会って、そのまま結婚するもんだと思ってたな。割と今でもガチで思ってるところあるかも」
「あはは、そうなの」
「だってよく聞くじゃん。出会った時にこの人だって分かるって話、聞かない?」
お皿の上のお肉と野菜をくっつけながら、運命の赤い糸とかさと愛花が大きな溜め息を吐く。
「あれは結果論だと思うけどね」
「まあそうかも知れないけどさ。出会ってみたいじゃない、運命の相手とさ」
愛花も随分と夢見がちなことを言うなと思いながらも、私だってウェディングドレスを着た自分を想像したことがあるのを思い出して、なんとも言い難い重たい溜め息が出た。
「それで、高柳さんは運命の相手じゃないの?」
愛花の恋人は、確か食品メーカーの営業マンだったはず。2、3歳年上で、それなりのポストについてたはずだ。
「陽太郎はさぁ、なんかもう家族みたいでトキメキもないし、同棲なんかするんじゃなかったって、今更後悔しても遅いんだけどね」
「親御さんは、結婚の話とかつつかれないの?」
「うち?うちはとっくに諦めてるから。陽太郎のところも、今時30代で結婚したら御の字みたいな感じだからね。それよりあんたの親御さんは、彼氏と別れたの知ってるの」
「言えてない」
「奏多の親御さんは保守的だもんね。言わないままはキツいんじゃないの」
「まあ、しつこく聞かれたらその時に話そうかと思ってる。ショックで倒れられたら洒落になんないから」
「結婚を見越した相手だっただけに、確かに親御さんはびっくりしちゃうかもね」
「下手に結婚した後で離婚にならなくて良かったと思うようにしてる」
「あー。まあそりゃそうか。今はそんな気分じゃないだろうけど、紹介とかなら陽太郎の知り合いにも良い人居るし、遠慮なく声掛けてね」
「うん。今はそっち方面お腹いっぱいだわ」
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